第251話 新敵
魔王教団の強襲に遇った私達はそれぞれ一人ずつ相手にして戦いを繰り広げていた。
そこで私が相手の素顔を見るために魔法で顔を隠している布を燃やしたら、私の大切な人……メイドのアナだった。
アナは私の事をまるで知らない何かを見ているような虚ろな瞳で見つめてくる。
もしかして私の事が分かっていない?
記憶を操作されている……?
私の声が聞こえていないのかナイフで斬りかかってくる。
そういえばアナの戦い方を私は知らない。知っているのはナイフを使った攻撃をしてくるといことだけ。
接近戦を得意としているから近づかれると魔導士にはきつい。距離を取らないと!!
しかし、アナは私の想像を超える速度で近づいてくる。
メイド服を崩さないのに圧倒的に素早い動きに私は翻弄されてしまう。
ナイフ系のアーティファクトの特徴は暗器などの暗殺武器に特化している、それ故に素早い動きが重要になる。
それなら……!!
炎の魔法を使って身体に纏わせる!!
爆炎が私の身体を包み込むけど、その程度でこの火炎耐性の高い身体を燃やすのは不可能。
故に私の最大の防御魔法にもなる。
だというのにアナはそんなことを一切気にせず突っ込んでくる!!
炎に触れると腕が燃える。
アナは叫び声すら上げないが苦しんでいるように見える。
「ちょ、アナ!!」
このままだとアナの腕が焼け落ちてしまう!!
やむを得ず炎の魔法を解く――アナの勢いはそのままなのでナイフが頬を掠める。
片腕しかないというのになんて、素早い動き……これがメイド学校で習った動きだというの!?
「うっ……メイド学校すご」
私がそんな言葉を呟くとアナの動きが少しだけ鈍くなったように見えた。
なにかに反応した……?
それとも炎を受けてダメージを受けているのか……どちらもあり得るけど、ここでアナをどうにか止めないといけない。
申し訳ないけど、全力で彼女を止めることにする。
そういえば他の子達が戦っている相手もまた見知った顔だった。
フレイヤ、クレスト、ギルドマスター、受付嬢……そしてルーン……。
まさかルーンまでいるだなんて……義理の妹であの義母の実の娘だけど、あれよりはいい子……だと思う。
確かに義母や義姉がいじめをしてくる時にそれに加担することはあった。
だけど大体無理やりやらさせられている様子だったし、本人もあまり乗り気じゃないのは見て分かっていた。
ここにいる人たちはみんな知り合いだし、できれば助けたい。
そのためには今だけは傷付ける覚悟を持たないといけない……。
「アナ!!悪いけど、痛めつけるから!!!!」
「……」
反応は無い。許可を貰えようが関係ないんだけどね!!
炎魔法を駆使しながらアナと戦い、追い詰める。
彼女はメイドとしての業務がメインだし、そもそも戦闘に特化したメイドじゃないので私よりも強くない。
このまま畳み掛ける!!
アナが油断したタイミングでナイフを弾くと、宙を舞って身体の体勢を崩す。
その隙を見逃さずに炎でブーストした拳をお腹に放つ――直後……奇妙な違和感をアナから感じた。
その違和感の正体はルーフェの修行で身に付けた魔力感知の精度向上によって一瞬で気づいた……それはアナの魔力だった!!
この子はナイフを使うので魔導士では無いはずだけど……そういうことだよね。
もうここまで根が侵食していたなんて……!!
魔王教団の薬……。
「アナを返せ!!」
私は誰にその怒りをぶつけるんじゃなくて、ただただそう叫んだ。そうしたくなるほどに私の中の怒りが収まらない……!!
怒りが炎の熱を上げて、赤く染まる。
アナは魔法と暗殺術を用いて私の攻撃を綺麗に捌いてくる。だけどそれも長くは続かない。
だんだんアナの動きが鈍くなってきて、魔力もそこまで多くないのかすぐにガス欠に陥る。
魔導士は魔力が無くなると体自体の動きが鈍くなってしまう。アナは元々魔導士じゃないので魔力の管理が下手だ。
魔力を4割しか使えない私でも余裕を持って追い詰められる。
それを上手く利用してアナの動きが鈍くなった瞬間を狙う。ちょうどアナは暗器に触れると身体を痺れる毒魔法を使っていたので、それを模倣する。
ルーフェの修行で得た最大の成果、魔力感知の制度を上げる事で相手の使う魔法を把握し同じものを使う技術。
それを手に触れると痺れるモノに変えてアナの胸を触る。
「うぐぅ!?」
アナはそんな苦痛の声を上げると地面に倒れた。
後は他の子達……なんだけど、皆も戦いが終わったみたい。
ギルドマスターを相手にしていたサツキは怪我をしていたけど、寧ろそれだけで済んでいるのだから修行の成果が出ている。
フレイヤやクレストも圧倒して勝利を収めた。
安堵しているとサジタリオンが馬車の手綱を握りながら、叫ぶ。
「倒したね……それで皆、これからどうする?」
倒した人達の顔を見てみるとこれで目が覚めた時に襲ってこないとは限らない。
薬の影響で人格を新しいのが支配していたら、また襲われるだろう。というかそもそもギルマスが狙われた状況から見るにルエリアはもうダメだろう。
「ここは一度ハーベストへ戻りましょう!!」
私にとって助けたいと思う人はこの場に全員揃った。操られていたけど、それでも無事ならなんとかなるだろう。
しかしそこでサジタリオンは俯いて影を落とす。
なんだ……?
サジタリオンの魔力が荒々しく不気味な気配を放つ。
「サジタリオン様?」
サツキもその違和感に気づいて名前を呼ぶけど、全く反応しない。
嫌な予感がするその時だった!!
「やはりダメだったか」
「え……?」
「聖なる矢に裁かれよ!!」
「サジタリオンさん!?」
「流聖の矢!!」
サジタリオンの放った矢は空を貫き、私達に襲い掛かってきた!!




