第248話 疑いの目
「逃げる?違うよせっかく得た聖獣の力を使ってあの方の復活を試みる……もう少しなんだ」
「どちらにしても逃がさないよ!最大攻撃魔法 爆……」
「知っているかい?この地下移動する魔法は私も使えるんだ。それでこの子達をここに連れてきた」
ムーンはそう言うと魔法陣を起動して地上へ転移していった。
正直もう駄目だと思うくらいムーンを前にして諦めかけていたんだけど、サンの助力があって何とか助かった。
あんな禍々しくて膨大な魔力を敵に回していたらそこに居るだけで息が止まってしまいそうなほどだった。
しかしルーフェは生き延びた事より逃がしてしまった事に焦りを覚えて居る様子。
「アイツ……!!ルークちゃんすぐに……いやもう遅いか」
ルーフェは逃がしたと悔しそうにしていたけれど、聖獣の力で弱体化したとはいえ……おそらくここに居る誰か1人は死んでいたんじゃないかな。
弱体化していてもここまで力の差が開いているなんて……。ここまでの修行がなんだったのか挫折しそうになる。
「魔力や高い戦闘能力だけが魔導士じゃないよ。想いを力にするんだ……そうすればきっとあのムーンを倒せる」
「ルーフェ師匠……!!」
「でもそれはボクの役目かな……君達がアレを相手にする必要はない」
「1人でですか?」
「あれはボク達で殺す!そうだろ紅蓮ッ!!」
床に倒れてうつ伏せでダウンしている紅蓮へ投げかける言葉とは思えないんだけど、それだけやる気があるのは分かった。
この地下に移動するための魔法まで使えるなんて……自分で言うのもなんだけど何者なんだムーンって人は……。
「お前と……組んで……勝てるのか…………よ」
「酷いなぁ~これでもボクは最強魔導士……」
「お前の魔法はムーンと相性悪いだろ」
「あっ!こらッ!!言うなよ……」
「隠していても何にもならんだろ」
「なるぅ~!言うなよ馬鹿ッ!!」
「……好きにしろ」
紅蓮はルーフェのそのテンションに付いていくつもりがないみたい。
それもそのはずだ……後ろには自分が守らなくてはいけない生徒達がもう既に息をしていないんだから……。
立ち上がり魔法を使って生徒達の身体を覆う。見えないようにして地上に運ぶみたい。
「早く行くぞ……俺はアイツを絶対に許さない!!」
「うん……そうだよ!!ボク達2人ならムーンを倒せるんだから!!その中には気に入っていた子も沢山いた。ボクだって許さないよ!!」
「クソみたいな理由だが……やるしかないな……うっだが今は休まないと……」
何とも不純な理由だけど、2人は相当やる気になっているみたい。
私達は地上へ上がり、闘技場に出る。
そこには私達が来るのを待って居たかのようにエキナとどこかジャスミンに似た雰囲気を纏った黒い綺麗な髪の女性が立っていた。
「エキナさん!」
「お前達……!!どうしてこんな所に……?」
「魔王教団の殲滅作戦に参加していたんです」
「なんと!」
「エキナさんはどうしてここに?」
「うむ、紅蓮殿に言われて街に怪しい奴が入ってこないか、カンナ様と一緒に見回りをしていて、そろそろ戦いが終わっているかなと星の欠片へ向かっても居なかったので闘技場で凄まじい魔力が一瞬だけ現れた。だから駆けつけてきた」
カンナ……どこかで聞いたことのある名前……。
確か……そう、ショナに話してもらった過去の話にそんな人が居たっけ。今では四天種という魔導騎士以外のハーベストで最も強い4人。
その1人がこのカンナ、私と同じ炎の剣を持っていた。
見た目は普通の人間、だけど妖艶な雰囲気がどことなくジャスミンに似ている事からおいそらく――。
「こちらは西の街ジャスミンのギルドマスタージャスミンの実の妹カンナ……種族はサキュバスだよ」
「ええええええええええ!?」
まさかあの人に妹がいたなんて、しかも超強い四天種の一人!
こんな人が要れば戦いに参加してくれればよかったのに……いや、見回りをしていたというし、ムーンは場所を変えるためにわざわざここに紅蓮達を呼んだ。
もしかしたらカンナも相手にするのは分が悪かったのかな?
だけど最強の剣士である紅蓮が勝てないのならカンナでも厳しいはず。
「本来、俺とこの生徒達は星の欠片の本部へ向かうはずだった」
「はずだった?」
「闘技場へ向かい、作戦を伝え、いざ乗り込もうとしたときだ。ムーンがどこからともなく現れた……しかも星の欠片の冒険者を連れて」
「一瞬でそんな複数を瞬間移動させたの?」
「星の欠片へ不意打ちを仕掛けに行こうとしたら、逆に不意打ちを食らった感じだな」
この街での戦いはアポカリプスがいない分、楽だと考えていたんだけど、まさか魔王教団の山に居たアカツキよりも上のボスが出てくるなんて……。
あの人は私達が止めるべき最終目標ということだよね。想像の遥か先の魔力を持った女性だった。
それにおかしな点がいくつもある。
どうしてムーンはとってもいいタイミングでこんな奇襲を仕掛けられたのかということ。
なにより私達が魔王教団の山へ向かう時も盗賊に教われたり、魔物に教われたり……。
もちろん偶然だと言えばそれまでだけど、なんだか他にあるんじゃないかと勘ぐってしまう。
それはとっても嫌な想像……私の勘が当たっているとすれば、ここまでの作戦を流している裏切り者がいる。
ここにいる誰かなのかな……ずっと後手に回って痛い目を見せられているせいで最悪な想像ばかりしてしまう。
「しかし、気になるのがどうやってムーン殿は地下へ瞬間移動できたんだ?」
「どういうことサツキ?」
「地下への移動には王族がいないとダメなんですよね?」
普通に移動するための魔法を使っていたから、血縁の可能性はあるのか。
それとももっと別の方法?例えばそう……私のような特殊な例だったりして。
「それは気になっていた……が、一番気になるのはルークがどうしてあの魔法陣を起動できた?王族として俺はずっとそれが気になっているんだが」
「あれは……何となく使えると感じたから」
「そんな魔法じゃないのはわかっているはず、もし君が裏切り者なら……」
レインは私の事を睨みつけてくる。焦っているのは分かるけどさすがに言いがかりだ。
しかし今のこの状況で私を擁護する材料が無いのも事実であり、レインだけじゃなくてカンナも疑いの目を向けてくる。
まさか……これが通ったら私……死刑!?




