第245話 魔導の師匠(ルーフェ)
魔力の半分以上を失い、ルミナを身体から引き離されて意識を失って少し経った頃、私は魔王教団の山の中央付近で目を覚ました。
冷たい岩の天井が最初に飛び込んでくる。
「起きたかルーク」
「サツキ……それに……えっ?」
まだ少し頭が痛くて目もぼやけているけど魔力も少しずつ回復している。けど取られた魔力分の回復は出来なくなっている。
身体は本調子とは程遠いけど、安定している。
しかしそれよりもルミナを失ったショックで帰ったら寝込みそうだけど……。
だけど問題はそれだけじゃない、私は目の前の光景に目を疑う。
ルミナがどこかへ行ってしまったよりもショッキングな出来事……それはルーフェの右足が氷に包まれていること。
いや、包まれているというより氷そのモノへ変えられていた。
「ルーフェ師匠……その足……!!」
「うん、あの後……アカツキとアポカリプスとルミナ……それにカプリコーンを相手にして、何とか君をお姫様抱っこするサツキくんと逃げたんだけど、その時にアカツキに足をやられちゃった」
「そんな……私のせいで……」
「君のせいじゃない。ボクも相手の戦力を見誤っていた……アカツキが居て……敵も予想外な所から増えちゃったからね」
「……それであいつらはどこへ?」
「ボク達が逃げた時にルエリアへ向かうと言っていた」
だから中央付近に居るのに魔王教団の誰にも襲われていないわけか。
生きていただけ儲けもの……きっと試験どころじゃないし、続行していても失格だろう。
魔王教団の殲滅どころかルミナという聖獣を向こうに渡してしまった。
試練も失敗、大切な子も取られて……本当に最悪な気分…………。
「そういえば残ってる魔王教団は?」
「アマノ軍が捕えるために動いている」
「アマノ軍……」
「村の方へミツキちゃんとルイくんを向かわせた。あの子達ならフーリアちゃん達を任せられるからね」
「それほど強いんですね」
「うん、もう少し時間を稼げたらこっちが有利だったんだけどね……ボクも力不足か」
そんなことはないはずだ。
アカツキがどれほどのモノか分からないけど、アポカリプスとカプリコーンを相手にしながら、私の力の6割を奪ったルミナとも戦って逃げ延びたんだから。
「そんな……私が……」
「あまり気負わないでよ綺麗な顔には笑顔が似合う。ボクも若い頃にミスを沢山した……今だってそうだ」
「ルーフェ師匠……」
「だけど、立ち止まらずに魔法を極めて最強の魔導士と呼ばれるまでになった。若い可愛い子なんだからそのまま歩みを止めないで、君はボクに継ぐ魔導士になる」
「……若い頃…………?」
「そこに引っかからなくていいよ?せっかくいいこと言ったのに……とりあえず、村へ行こう!」
「は、はい……」
ルミナが居なくなって苦しい気持ちはあるんだけど、まだ皆が無事かどうか確認しないと……。
今は無理やりルミナの事を頭から切り離す。サツキにだって余計な心配をさせてるからね。
私がしっかりしないと!!
サツキは私の身体を支えようと寄ってくる。
それを私は断る……これ以上迷惑はかけられない。
「わかった……きつかったらいつでも言ってくれ、身体もそうだけど、精神的につらくなったときもな」
「……っ。うん、ありがと」
こんな時だというのに少し嬉しいような感覚を覚えるけど、こんな状況でそんなことを考えるなんて……私は本当にどうかしている……嫌悪感が増す。
やっぱり私は生まれ変わったとしても自分が嫌いだ。そんな赤ん坊のように泣きわめいてしまいたい欲望を押さえて私は下山する。
村までの道中、敵に遭遇することはなく、安全に降りることができた。これもアマノ軍のおかげか……ミツキに友達を奪われるかと嫌な顔をしてしまったのが申し訳なく感じてくる。
村の中は争いが終息していて、静かだったんだけど確かに争ったような跡がある。
戦いは起きていた……だけどその勝敗はもうわかっている。村の中にはアマノ軍が慌ただしく出入りしていて、村の入り口でミツキとルイに再会して案内してもらう。
場所はフーリア達のいるところ。
到着するとそこには疲れて飲み物を口に含んで汗を拭うフーリアの姿があった。
フーリア以外の皆も無事で戦いを終えた後のようにスッキリした表情をしている、そのことからフーリア達は目的を達成したと言える。
頭の中で複雑な感情が入り交じる。皆が無事で安心している自分と私だけ失敗した悲しい気持ちを持った自分がそこにいた。
するとそこへルーフェが背中を押してくれた。
「ほら行きなさい。その大きな胸を張ってね君にはやることがあるはずだよ」
「ルーフェ師匠……」
「それにアカツキが居るなんて想定していなかったボクも悪い。今回の件は反省するべきだけど、今は……仲間が、友が無事に笑っているこの光景を喜んであげようじゃないか」
「まともな事も言うんですね……最初の一言は余計ですがね」
「む、ボクはいつだってまともさ。大切な生徒……いや、弟子達が無事で正直ホッとしてるんだ」
「そう……なんですか?」
そんな弟子想いな先生とは思えないんだけど……。
ただ女の子が好きで自分に圧倒的な自信を持っている傲慢な人――というのが最初の印象だったのにこういうときにかっこいい事を言うなんてちょっとずるい。
深呼吸をして私は皆の下へ向かう。同情してほしい訳じゃない……話して楽になりたいわけでもない。
ただ次、絶対にあいつらにあったらルミナを取り戻す!そのために私は皆と一緒に考えたい!!
このとき、私は初めて皆と共に戦いたいと願った。
「み、みんな!!」
「「「ルーク!!」」」
私の姿を見つけたフーリア、ショナ、ユウリの3人は驚いた顔をしていた。
それもそのはずだ……ルミナを奪われて人間に戻ってしまったわけだからね。
今の私がどんな表情をしているのか自分ではわからない。けどそんな私を見た3人はどこか安心した表情を浮かべていたのを生涯忘れることはないだろう。
皆の顔を見て安心してから山でなにがあったのか、そして今後自分がどうしたいのかを皆に伝えなくちゃ。
私は一度目を閉じて覚悟を決める。
「皆、聞いてほしいことがあるの」




