第244話 代償
勝ちを確信した瞬間、最初に吹き飛ばして動けなくなっていたと思っていたカプリコーンからの不意打ちを受けてしまう。
この強靭な身体なら何をされてもきっと大丈夫……なのに身体から力が抜けていく。
ルミナが私の身体から出てきてしまい、同時に私の身体は人に戻る。
先ほどまでの獣のような鋭い感覚を失ってしまった。
さらにルミナが抜けた事で妙な倦怠感があり、頭がクラクラする。
「うっ……どうしてルミナを……」
「おい、ルーク大丈夫か!?」
「うぅ……」
頭に酷い痛み……。
ルミナの力を借りた後は疲労が後から襲ってくるんだけど、今回のは今までとは比じゃない。
立っていられないし、身体は重い。敵前だというのに私は膝を付いてしまった。
その隙を逃すまいとカプリコーンが襲ってくる!!
魔力を込めた手刀で私の首を狙ってくる!!
しかしそれはサツキによって弾かれた。
カプリコーンはサツキから距離を取り、アポカリプスの隣に並ぶ。それと同時にサツキが私の身体を支えてくれる。
「立てるか!?」
「ご、ごめん……無理かも……」
「姿が元に戻るなんて……ルミナ!もう一度ルークに力を貸してくれ!!」
せっかく切り離されたのであんまり入ってきて欲しくないというのは本音だけど、戦闘中……元に戻れなくても今だけは入ってきて欲しい……自分勝手すぎるかな……。
ここで私はルミナの違和感に気づく、小さなその狐は最初出会った時こそ白い毛並みを持っていたのに、何故か今は赤く染まっていた。
アレは本当にルミナなの……?
そんなことを考えていた時だった……ルミナが私の方を見る。
「力を貸したんだから……妾にも力を貸してもらうぞルーク」
「なっ……ルミナが喋った!?ていうかこの声……!!」
いや……聖獣なら喋るのは普通か……?
そんなのはどうでもよくて……ルミナの声は何故か私と同じ声だった。
力を借りるって言っていたけど、まさか会話をする知恵でも身に付けたのかな……それとも他にまだ何か……。
これがどういう状況なのか分からないけど、アポカリプスの前に居るのは危険だ!!
「ル、ルミナ……!!そこに居たら危ない……!!」
「……」
私のそんな叫びはまるでルミナに届いていない……違う、無視されている。
サツキもルミナの名前を呼ぶけど、全然振り返りすらしてくれない。逆にずっとアポカリプスの事を見つめていた。
「さぁ……共に参りましょう……魔導王様の眷属、妖狐の…………」
「触るな……」
「え……?」
アポカリプスがルミナをまるで光で包み込むように抱きかかえようとしたその時だった。
近づかせまいと濃い魔力を放ち、アポカリプスを吹き飛ばす。両腕が無い状態で飛ばされて受け身が取れず岩に激突する。
この魔力……ルミナのだけじゃない!!私の魔力も少しだけ混ざってる!!
というか自分の中の魔力に意識を集中すると半分以上を失っていた。
人間に戻ったけど学校に入学する前よりも完全に弱体化してる。
ルミナが力を貸せと言ったのは知識だけじゃなくて魔力も……しかも知識とは違って魔力はそのものを取られた。
この酷い頭痛も魔力を急激に失った事による副作用みたい。
「ルミナッ!!」
「汝は今までよく頑張った……後は妾に任せよ」
「何を言って……」
「妾は魔導王……いや、この世界の魔の女神の使い。少し早いけど時が来ました」
ルミナは神様からの贈り物……だけど神は神でも敵とされていた女神。
それでも今まで信じていたのに言葉は通じなくてもずっと一緒だった。
クエストへ連れて行くときも家での暮らしも身体だって一度は混ざり合った仲なのに!!
「ダインスレイブに殺されかけてたじゃない!!」
「あの小童は妾をただの聖獣だと思い込んでおった。この力が汝に渡ることを恐れてな……」
「……」
「妾は魔王教団へ戻る。そして真の主を再びこの世に光臨させる!!」
ルミナがそう叫んだ時、光り輝く。
あまりの眩しさに目を閉じて、光が収まると目を開ける……その間にルミナの見た目は鏡越しに見たことのある人間に変わっていた。
私の身体に変化はない……だけど目の前には私とウリ二つの少女が立っていた。
ルミナは私の姿に変わった……。けど赤い髪には少しだけ白み掛かっていて、元のルミナの部分が残っている。
「これを借りるわ」
「そんな……勝っ手なこと!!」
「勝っ手?汝は妾の力をずっと借りていた……今度は妾が借りる番じゃ」
「ま、まさかあなた……ずっと私から離れなかったのは……」
「汝の力を長く借りるため、半年近くはこの姿で居られる。それだけあればあの方を復活させられる」
ルミナはそう言うと背を向けて私の下を去っていく。
なんだろうこの胸に何か大切なものが空いてしまったような苦しい感情……。大切な何かが自分の側を離れて行ってしまう……。
ぽっかりと穴が……いや、まだ!!
ルミナを止めれば間に合うはず!!!!!!
「待ちなさいルミ……うっ……」
頭ではルミナを止めるために身体を動かそうとしているのに全然言う事を聞かない。
魔導士にとって魔力は命の源……それを一気に半分失ったせいで意識が飛びそうなまでに追い詰められていた。
さらにここへ来るまでとアポカリプスとの戦いで既に半分近い魔力を使っていたので本当に空に近い状態だ。
「その状態でしばらく魔法を使わない方がいい。まったく……魔法はほとんど取り出せなかったけど、魔力だけは5……いや6割り借りたから、ここまでの戦いで1割も残っていないでしょう?いやまあそれでも化け物だけど……」
「そんな……待って!私はあなたを力じゃなくて、仲間として……!!」
「……妾にも目的がある」
ルミナを追いたいのに身体が全然言うことを聞かない。
サツキが身体を支えてくれているんだけど、このままじゃあの子を失ってしまう。
そんな私の気持ちも知らないで、ルミナは私から距離を取ってしまう……行かないで!!そう、叫ぶ力すらもう残っていなかった。
そこへルーフェと戦っていたアカツキが寄ってきた。
「ふふ、それでいい。聖獣妖狐」
「アカツキだったか?童は妾をあの方のもとへ連れていけるか?」
「……その姿……まあいいわ。ええ、喜んで」
薄れ行く意識のなか、そんな声が聞こえてくる。
目の前が掠れて意識を保てない。サツキが何か言っているんだけど、ほとんど聞こえなくなってきた。
しかしそんな薄い意識のなかでも透き通るような声が響き渡る。
「おいおいおい、このボクを差し置いて逃げられるとでも?」
「ふふ、ルーフェやはりあなたは厄介。できれば紅蓮よりも殺したい相手だったのだけれど、アレとは違って長生きできて良かったわね」
「何を……言って?」
「ふふ、帰りを楽しみにしておいてね。それより……アポカリプスよガキにまた負けたわね?」
もうほとんど目の前が見えない。
眠くて身体に力も入らないし、でもせめてこの会話だけは聞かないといけない。そんな気がして無理矢理にでも意識を維持した。
「そ、それは……」
「残念だが、お前もレオと一緒だ。その力は勿体ない……だから妖孤殿に渡せ」
そういうと光の柱のようなものが現れてアポカリプスを包み込んだ。
そこから私は意識を失って倒れる。




