第239話 想い
ルーフェと合流するために私たちは山へ入っていく。
私達が川に流された。だからてっきり他の子達もアマノの国へ流されたと思っていたんだけど、近くには居なかった。
その理由はサツキが一番近くにいた私だけを助けてくれたから。
できれば全員を助け出したかったけど、星の欠片本部の元マスターアカツキの魔法によって妨害され、私を助けるのが精一杯だった。
ルーフェは無事でなんならもう山の中央付近まで登り詰めている。
一瞬だけ姿が見えたから間違えない。
もしかしたらそこにフーリアたちもいるかもしれないし、急がないとね!
少しだけ不安があるのは木々の間に見えたルーフェの姿が焦っている様子だったのと、フーリア達は見えなかったということ。
アマノの軍が山を登り始めるのでそれに付いていく。
道中に魔物か魔王教団に教われるかと危惧していたんだけど、ほとんど襲ってこない。
たまに魔物や傷ついた魔王教団の団員が襲ってくるけど、正直全く強くない。拍子抜け……と言いたいところだけど、恐らくここはルーフェが通った道だろう。
それ故に敵が全くいない。
逆に敵がいなさ過ぎてミツキはずっとサツキにくっついていた。
我慢できず、私はそれを指摘する。
「くっつきすぎじゃない?」
しかし予想通りミツキから帰ってくる言葉は「敵がいないんだから大丈夫」というひとこと。
それを言われてしまうことをわかっていたのに、言わずにはいられなかった!!
大体こういうイチャイチャするようなイベント私には一度も巡ってこなかったんだもん!!
私だって少しくらいフーリアにデレて貰えるようなイベントがあってもいいのに……。そんな八つ当たり気味なことを考えて憂鬱な気分になる。
ダメだこのミツキって子と出会ってから思考が変な方向へ行ってしまう、2人の事はひとまず考えないようにしよう。
1回だけ意味がないことを理解しながらサツキを睨んで訴える。想いが届いているかわからないけど、ちょっとだけ困っている様子だ。
なんだか少し気分が楽になった気がした。
「あはは、ルークさんはサツキが好きなんですね」
「なっな、な……!?は?……え?」
「動揺が凄いですね。俺が言っているのは友達としてですよ」
「あ、あぁ……まあ。何だかんだずっと一緒だったので」
くだらない話をしていてすっかり聞きそびれていたんだけど、ルエリアでは魔導騎士候補の人達が何人もルーフェによって連れていかれたと言っていた。
目的は分からないけれど、ルーフェ自信は悪い人じゃない気がする。
少なくとも魔王教団に対してのあの敵意は嘘じゃないはずだ。
連れていかれた子達にも友達が……強制的にハーベストかアマノに移住させられるのだろうか?
そんなことを考えて居るとルイから話をされる。
このアマノ軍の中にはルエリアから連れてこられた子もいるのだとか。
無理矢理軍に入れられるんじゃなくて、連れてきてもどうしたいか、どう生きたいのかを確認してそれぞれの道を進ませているという。
あくまで魔導騎士の保護を目的にしているような働きかけだ。
魔導騎士にも何か事情があるんだろうか……そんなことを考えていると早くも中間地点まで辿り着く。
「さて、あっという間に先程ルーフェ殿が居た場所までたどり着いたわけだが……」
変に色々と考える時間があったけれど、ここまでは余裕をもって来られた。
しかしすぐに問題が生じる。
それは木々の間や岩の影から見える殺意を持った――魔物がいる。
先程まで少なかった魔物がここへ来て数を増していた。
ルーフェが打ち漏らした……しかしこれほどまでの数を残してしまうだろうか?
はっきりいってあの人は規格外……これくらいの魔物一匹残らず駆逐できてもおかしくないはず、だけどこの道中でも魔物を見た。
これはフーリア達はここに居ないと考えた方が良さそうね……一人なら突っ切ることもできるけど……。
これは憶測だけど最初、ルーフェが魔物を倒していた。しかし中盤からめんどくさくなっ抜ける選択肢を取った……そう考えるとこの異常なまでの魔物の量は納得がいく。
これほどの魔物が居て、ルーフェと一緒じゃないのならフーリア達は大丈夫なのかな。
最悪な結果を想像しつつ、もしそうなら早く助けないとという焦りが自分の中に膨れ上がっていくのを感じる。
友達を失うのは嫌だ……前世の記憶をほとんど取り戻せないけれど、うっすらとチラつく親友を思い出す。
もう生きている世界が違うので会えない……だからこそ同じような悲しみはもう味わいたくないんだ!!
「急ごう!」
そんな私の考えを察したかのようにサツキが叫ぶ。
私たちの仲間のことを知らないアマノ軍の人達はそんな私とサツキを見て、止めようとする。
ここは魔王教団の保有する山……つまり敵地だからね。その考えは痛いほどわかるけれど……。
私は手を広げて私を止めようとするルイの目を力強く見つめる。
ここで彼らと争うつもりはない。けれどもう一刻も早く、ルーフェに追い付かないと気が済まない!!
「仲間想いなのは結構だが……焦っては――」
「そこにもしかしたら皆が捕まってるかもしれないんです!!」
「もしかしたらだろ!その確証は……」
「確証がなくても……皆が危険な目に遭っていると考えるだけで私は不安に押し潰されそうになるの!!」
「ルークさん……」
「だから私一人でも向かいます。大人数での移動はやっぱり遅いですから」
私は足のスピードには自信がある。
団体行動はもともと苦手だし、なにかあっては遅い。
身体が……熱さを感じにくい身体が熱を帯びて毛が逆立っているような感覚に陥る。
他の人より年齢以上に生きていて自分は冷静な人間だと思っていたんだけど……やっぱりまだ子供みたい。
「俺も行く」
「サツキは皆と……」
「あの中にはマツバもいるんだよ」
「……」
「それにスイレンの3人と……ついでにレイン王子もな」
その言葉に私は先程までの不安が少しだけ薄れていくのを感じる。
私の今の速度にサツキが付いてこられるか……ただそれだけが不安なんだけど、まるでそんなことは分かっているかのように笑顔で応える。
「どこまでも付いていく、大切な人と友のためなら!!」
サツキにもまた私たちに見せていない一面があったみたい。
その言葉に私の身体の温度が上昇していくのを感じる。
それは胸の高鳴りかあるいは……。




