第238話 ルーフェの行動
アマノの軍の人に聞いて、ルーフェは山の中央付近にいるという事が分かった。
世界最強の魔導士だけあって、どこへ行っても知らない人はいない。
今から魔王教団が多く潜むアジトに潜入するというのにアマノ軍の人達はルーフェの進軍を見て、憧れの眼差しを向けている。
ルーフェという存在が居るだけで指揮が上がる。
ルエリアでは何故か有名じゃなかったけど、この国へ来るまではどんな人か知らなかった。
そんなハーベストやアマノでは有名なルーフェを助けるために軍の人達は今まさに乗り込もうとしている状況だった。
緊迫した状態だったからこそ、後ろでこそこそと見ていた私達に気づいたミツキは気になって近づいてきた。
話を聞いてとりあえず敵ではないことを理解してくれた。しかし――
「い、いつまで抱きついているの?」
「いつまでって……ずっと?」
「はぁ……戦闘中はさすがに離れた方が良いと思うけど」
「ふーん、ルークさんはそんなにサツキのことが気になるの~?」
「そ、そういうわけじゃなくて……」
ど、どうしてだろう。
その言葉に対して否定することができないでいるとこのアマノ軍のリーダーの男性が山への突撃の行う号令を放つ。
それのおかげで話がうやもやになったんだけど、心はなんだかモヤモヤした気持ちで一杯だ。
私はミツキに抱きつかれて満更でもないサツキを見つめて、なんとも言えない悲しい気持ちになる――するとそのとき、耳の奥から奇妙な声が聞こえる。
「そんなやつのこと、気にしなくてもいいのに」
「え……?」
「私がいるじゃない」
まるで頭の中に直接語りかけてくるような奇妙な女性の声に私は混乱する。
辺りを見回してもそこに思い当たる女性がいないのだから……。いや、女性というか……。
まさかあの子が……?
気になって自分の身体に意識を向ける。しかしそこでサツキが異変に気付いて声を掛けてくる。
「ルーク?どうした?」
ミツキをそっと地面に置いて、近づいてきた。
それを見てなんだか少し嬉しいような感覚を覚える。
本当に急になんなんだろうかこの気持ちは……アマノの国へ入ってからというもの、ずっとこの調子でハーベストへ戻ってきても同じだ。
「なんでもない……」
「そうか?……そういえばミツキ達はこの魔王教団の山へ連中を倒しに来たんだろ?」
サツキは気になっていたことを聞いてくれる。
そんなサツキの言葉を肯定するように頷くミツキと男性。
「俺達も魔王教団殲滅に入れてくれないか?」
「いいよ~!」
「待て、ミツキ……確かにサツキは信用できる……だが……」
男性は当然私の事を疑っているみたい。
全く知らない人にこんな重要な作戦の中に突然入ってきたら困惑するのも無理はない。私だってすぐには信用しない。
それに拍車をかけるものとしてやはりこの姿が上げられる。ルエリアの様に亜人にあまり慣用的な国じゃないとどうしても納得してもらえない。
男性が何を考えて居るのか分からないけれど、もしかしたらそれもすぐには容認できない理由か。
けれど、サツキは私が信用にたると説明してくれる。
熱弁にやがて男性も折れて、私の存在も容認してくれた。
「まあ、さすがにルークさんを認めないとサツキくんが手を貸してくれないっていうのなら……仕方ない」
「すまない。だが、必ず損はさせない事を誓う」
「わかった。いちいち亜人を気にしていたらダメだな……すまないルークさん」
「い、いえ……」
少しだけいざこざがあったものの、何とかこの進軍の参加を認めてもらう。
急に紳士的になった男性は手を自分の胸に当てて、自己紹介をしてくれる。
「遅れたが、俺はルイ。魔導騎士だが、ルエリア出身の子は恐れるかもしれない……だけどあまり気にしなくていい。ほら、お前も紹介してやれ」
「えーサツキが名前は言ってたじゃん……まあいいけど、私はミツキ。炎の魔法と炎の剣を使う魔導騎士よ!」
丁寧に自分が得意な魔法や使う剣の種類まで教えてくれる。
一見とても礼儀の良い挨拶に見えるが、なんだろう……敵視されている気がする。これでも私はこれくらい強いんだから馬鹿な真似はするなと脅されている気分。
可愛い顔をしているのになかなか性格は勝気な様子……でもなんだろう……あまり嫌いじゃないタイプだ。
なんというかどこか……フーリアみたい……………………。
そんなことを考えた自分に瞬時に寒気を覚える。
こ、この事をこれ以上深く考えるのはやめよう。
「よ、よろしくお願いします……私も炎の魔法を使えます」
「ん?炎の魔法だけか?」
その瞬間、ルイは私に疑いの目を向ける。
確かに炎の魔法が得意なのは事実、けれど私には隠しているもう1つの手札がある。
……ここは魔導騎士達ばかりの空間、知っている人も居ないわけだし、ここで話しても大丈夫かもしれない。
けれど、これでもし私が魔導騎士と判断されたらどうなるんだろう。
そんな不安が脳裏を過る。
するとそんな私の背中を押すようにサツキが手を差し伸べてくる。
「話しても大丈夫だと思うぞ」
「え……?」
「馬鹿とずる賢い奴だが信用できる」
私だけこの人達に信用を押し付けておいて、こっちは信用できないからと全てを離さないのは不誠実だ。
私は覚悟を決めて、久しぶりに炎帝剣を取り出す。
身体の中から生えてくるように剣が出現する。
「炎の聖剣……?いやしかしこれは――」
「どうしました?」
「いや……どうして隠していたんだ?」
その問いにはサツキが応えてくれる。
ルエリアで魔導騎士の出じゃない人が現れるとどこかへ連れていかれること。
それは魔導騎士達が迎え入れるためにやっている事だと知っているんだけど、それでも不安だったこと。
そして何より私自身自分を魔導騎士だとは思っていない事を……。
「そうか……外国にはそれなりに問題もあるという事か」
「すみません……」
「君達はルーフェ殿とも知り合いなんだろ?だから知っていると思っていたんだが」
「何が……?」
「その一般の所から出てきた魔導騎士を保護しているのは彼女だよ」




