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第237話 アマノ


 長いようで短い夜を越した。

 

 食べるモノが何も無いから空腹で身体に力が入りにくくなっている。だけど、昨日の疲れは取れたみたい。

 

 朝起きて、そんなことを考えて居ると何やら近くからいい匂いが……?

 

 パチパチと心地よい焚火の音が聞こえるのでその方へ視線を向けるとそこには……魚を焼いているサツキの姿があった。


「いいタイミングで起きたな」

「その魚は……?」

「俺の剣は海の力を使うからな。これくらい朝飯前だ」

「釣り竿……?」

「魚あげないよ?」

 

 サツキは焼いた魚を私の方へ突き出してみせる。

 

 これが純粋な女の子であれば惚れていたこと間違えない!!

 

 容姿も整っているし、優しい笑顔で木の枝に差して焼いた魚を私の方へ向けてくる。しかし残念ながら前世の記憶がドキドキするその心を抑えるのだ。

 

 魚はありがたく頂くけどね!

 

 しかし口に含んだ魚の肉は味がしなかった。


「塩は作れないぞ、そこまで器用な剣じゃないんだ」

「なるほど……でもお腹が空いてたからこれでも十分美味しいよ。ありがとね」

「あ、あぁ……一杯食べて皆を探しに行こう!」


 その言葉に頷いて私は魚を頬張った。

 

 味が無くても空腹だったからたくさん食べてしまうし普通に美味しかった……おそらく私一人では魚なんて取れなかっただろう。


 動物を殺してお肉を貰う事も出来たけれど、捌ける自信は無いし、サツキが居てくれて本当に良かったと安堵する。


 これで体力は全快!!


 サツキは私が美味しいと言ったのが嬉しかったのか、魚が無くなれば剣の力を使って川の水を操作して、魚を釣り上げていた。


 本当に釣り竿じゃない……。

 

 食事を終えて焚火を消す、川沿いに下り、アマノの国からハーベスト帝国へ。

 

 距離は全然離れていないのですぐにあの山が見えてくる。

 

 その山の麓……昨日の夕方には居なかったはずだけど……沢山の人が集まっていた。


 まさか魔王教団の……?


 しかし、なんだか雰囲気が違う。

 

 何が違うのか遠くから、見える限りの情報を整理する……そして明らかに魔王教団とは違う洋装を纏っているのが分かる。

 

 私が元居た世界で言う和服……それを着用した男女混合の軍?が集まっているみたい。

 

「あれは……アマノ軍かな」

「さすが出身の国……何してるんだろ……?」

「魔王教団の脅威に気づいたアマノの国がこれ以上悪さをさせないために今から乗り込もうとしているとか?」

「それなら合流して一緒に乗り込む?」

「いや、あくまでそう考えるのが自然というだけで……もしかしたら……」


 その様子だけでは確信には至っていない。

 

 この賭けが恐ろしいほど危険だから……万が一魔王教団の仲間だったら私達に勝機はない。

 

 人数は200人程度の軍、2人で相手にできる数を超えている。


 私とサツキはお互いの顔を見合わせながらどうしようか悩んでいると一瞬本の少しだけ風が吹いた。

 

 ただのそよ風と感じて、特にそれ以上は気にしなかった……そのせいで背後に立つそれに気づけなかった。


「お前たち!なにをしている!!」


 振り袖を来た私たちくらいの年齢の黒髪のツインテールの少女が訝しげに睨み付けながらナイフを向けてくる。

 

 しかも浮遊魔法じゃないけど、風の魔法で宙に浮きながら見下すように……いや、この魔法を使っているのはこの人じゃない。

 

 その直後、サツキを眼で追った少女は目を輝かせて両手を広げ、握っていたナイフを手放す。


「サツキィ~!!!!」

「え……ミツキ!?」


 ミツキ……名前を知っているということは知り合いだよね……?

 

 アマノの国出身ということで別に知り合いがいてもおかしくないんだけど、そのミツキという子は男女という関係にも関わらず、男の子であるサツキに恥じらいもなく抱きつく。

 

 知り合いであり、さらに仲が良いみたいだからおかしなことじゃないのかもしれない。


 けれどさすがに抱きつくのはまずくないかな!?


 なんだかその光景を見てモヤモヤする嫌な感じが……。


 人にはパーソナルスペースと呼ばれる他者に近づかれても大丈夫なギリギリの範囲がある。


 私は初対面の人だとその範囲がとてつもなく広い。おそらくこれはそういうモヤモヤだろう。


 多分……。と良く分からない自分の分析をしてしまう。


 そんなことを考えていながらもサツキは満更でもないような笑みを浮かべていた。

 

 いつまで抱きついてるんだこの子達は!!

 

 サツキは止めるようにと言っているが力を入れて退けようとしていない様子だし、こっちはこの子が誰でなんで私たちのいる場所に気づいたのか、それが気になっているというに!!


 このままでは話が進まないのでそのミツキと呼ばれた少女に声を掛ける。

 

「ちょ、あの……誰ですか?」

「アンタこそ誰?……まさかサツキの……」

「ええ、仲間ですよ」

「あ、仲間ね」


 ミツキは私にではなくサツキへ流れるような視線を送る。


 私の仲間という言葉に反応してこれが事実なのか嘘なのか確認をとっているのか?

 

 当然のごとく、それは本当なのでサツキはうなずいて答えるけど、何度も何度も首を縦に振っていた。

 

 その姿を見たミツキは先程の喜びに満ちた笑顔とは対照的に怒りの表情を向けてくる。

 

 一応本当にただの仲間なんだけど……多分ミツキの反応的にサツキに対して好意のようなものを向けているんじゃないかな。


 女の子同士だからか反応を見てそんなことに気づく。

 

 な、なんか変な感じ……。


 そんなドロドロした重苦しい空気の中を割ってはいるようにもう一人、アマノの軍と思われる男性が現れる。


「問題でもあったのかミツキ」

「……いいえ、サツキが帰ってきていることだけかな」

「サツキくん?まさか帰郷していたのか!」


 またもサツキの知り合いが近づいてきた。

 

 あまりミツキとは変わらない距離感だけど、これはモヤモヤしない。よくわからわないわ。


「で、これはなんの騒ぎなんだ?」

「あ、あぁ……どうやら上の方で……」


 説明を聞こうとしていたその時、山の中央から爆発音が響き渡る。

 

 何事かと気になった私達とは違い、アマノ軍の人達は特に驚かなかった。

 

「ルーフェ殿が戦っていらっしゃるんだ」


 戦っているというよりは音を聞く限り蹂躙なんだけど……もしかしてあの人、すっごく怒ってるんじゃ……。

 

 最強の魔導士の怒りを前に私はその場で立ち竦んでしまう。

 

 山の頂上へ登る道が魔力の圧で押しつぶされている。

 

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