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第233話 ルーフェの策


 山を登っていると魔物や魔王教団と思われる盗賊達が度々襲ってきた。

 

 このハーベスト帝国は魔物が少ない国、しかしある例外によって魔物が多く生息している場所がある。

 

 ジャスミンの街ではルエリア王国と隣接している場所には普通に魔物が多く生息したし、国と国との間にはほぼ必ず魔物に遭遇する。


 そして今私達の居る場所はアマノの国に近い場所。

 

 国が違うからか魔物の出現も多い。


「どうしてハーベスト帝国は魔物が少ないんですかね?」


 当然の疑問をルーフェに投げかける。

 

 ルーフェはその問いに一度歩みを止めてゆっくりとこちらを振り返り、そして小さな胸に手を当てて自慢気に応える。


「それはボクが居るからさ!」

「え……?」

「最強の魔導士であるボクが魔物を沢山滅ぼしてしまったからね」

「す、すごいですねルーフェ先生って……」

「ボクだけじゃなくて紅蓮くんや先代の最強と呼ばれていた魔導士、剣士達が何年もかけて駆逐したからね」

 

 ルーフェだけの手柄ではないのか。

 

 それでも何年もかけてハーベストから魔物を追い出したのは偉業だろう。

 

 ルエリアなんて街を出てすぐの場所に数え切れない程湧いている。だからルエリアの冒険者は魔物狩りの依頼を受ける事が多い。

 

 逆にハーベストではほとんどが害獣駆除だったり、護衛の依頼が多い。魔物が居ない分、街の外では盗賊が自由に動き回れるからね。

 

 ルエリアとハーベストでは奴隷は禁止されているけど、陰でそういう商売があるという噂もある。

 

 今までそう言うのは見てこなかったんだけど、ここはその範疇を超えているだろう。本当に心して進んで行かないと……。

 

 しかし、そんな警戒をしている私達をまるであざ笑うかのようにそれ以降何も面倒な事が起きることは無く、村の近くまで辿り着いた。

 

 すっかり夜になってしまう。


 灯で影しか見えない建物が複数立っているのが村が見える。

 

 暗いから村を遠くから見てもよく分からないけれど、なんだかどんよりとした嫌な雰囲気を感じる。


「あの村は多分ダメだね」

「分かるんですか?」

「長年の勘かな~」

「そっかルーフェさん40歳ですもんね!」

「歳の事は言わないでね」


 ルーフェの気にしている事を悪気も無く口にしてしまうショナ。

 

 あの女の子には強気に迫るルーフェも何故かショナにだけは距離を取ってしまう。それは彼女の良くも悪くも口が達者な所が苦手みたい。

 

 ルーフェは誰かに雰囲気を作ってもらうというよりは自分でその場の空気を作るタイプの人間だからね。

 

 ショナとは相性が悪い、だけど可愛らしい女の子なので拒絶しない。


 何とも難儀な性格ね。

 

「しかしルーフェ様……遠回りで山まで行けますかね?」

「道はあるはずだけど……問題は気づかれずに行けるかだよレイン君」

「そんなにあの村はもう……」

「多分ね。王子として見過ごせないのは分かるけど諦めてくれ……。それにしてもここまで……」


 ルーフェは村の方……ではなく、足元を睨んでいるようだった。

 

「どうしましたか?」

「……いや、どうしようかなって……ほら、もう夜だから」


 ちなみにサジタリオンは馬をそのままにしておけないという事で自力で岩を退けるという。

 

 気を付けて退けないと山の崩落が加速するので危険なんだけど……馬に対する想いが強いのか放っておくくらいなら、自分が危険な道を選ぶという。

 

 だからサジタリオンはこの場に居ない。


「まあ見つかってもボクが居るから大丈夫かもね。問題は君達が眠たくないのかなって」

「私は寝てました!」

「ん、ショナ君は途中だけ寝てたね。他の子達は?」


 後ろの山で休憩……はできないと思う。


 魔物が多いし、盗賊だって沢山いた。休まる時間はないと考えていい。


 それなら寝る間を惜んででも前進するべきじゃないかな?


 本来ならお昼過ぎくらいにはここまで辿り着けた。それだけあればルーフェと私達で殲滅する予定なんだけど……。

 

 行くしかないと判断したからにはルーフェのその考えに乗る他、手はないだろう。


「それじゃあ、ここから山までゆっくり侵入するよ」


 村を遠回りで通り過ぎて、件の山まで直接向かう。

 

 夜だから目立たないようにするため、私の炎の魔法は使えない。襲ってくる魔物はフーリア達に任せるしかなかった。


「……私達役に立たないね」


 ……そういえばショナも雷という目立つ剣を使うので役立たずだった。

 

 それでも自分にできることはやっておこう!

 

 村の近くを通るならこのルミナの耳でどんな小さな音でも聞き取れるはず。

 

 皆が魔物を倒して道を切り開いてくれている中、村の方へ意識を向ける。


『おい、山を見張らせていた奴らがルーフェに倒されたらしいぞ!』

『何?まさかあの世界最強魔導士がこんな所に?』

『最近のハーベストは俺達、魔王教団を敵視しているからな……それだろう』

『畜生ッ!!もう少し後だと思ったのに……!だが、ここにはあの人が居る』


 あの人……とは一体誰だろう。


 もっとよく聞きたかったんだけど、距離が離れすぎているのと建物の中へ入ってしまったのか声が聞こえなくなってしまった。

 

 とりあえずこの事は皆に伝える。


「それは本当かい?ボク達が来ているのがバレた……?ボクが気づけないなんて……誰かが……いや君がそんなことをするわけがない」

「当たり前よ。それよりこれって……」

「うん、多分ボク達を探しているはず……仕方ない。少し目立ってもいいからとっととあの山を目指すよ」

「ど、どうするんですか!?まさかこのまま戦うとか……?」

「魔王教団は人数が多いだろう?それを相手は荷が重いよ。いくらボクでも魔力が尽きる」

「じゃあなんで……」

「不意打ちで終わらせようとしていたからね」

「え……」

「こういう連中は頭を潰せば何もできなくなる。まともな勝負にこだわっていると長生きできないよ」

「それも……長年の……?」

「普通に要らない勝負には挑まない方が良いって……当たり前のことだよ」


 騎士道精神も何もあったものじゃないけれど、確かにこの国を脅かさそうとしている奴らを相手に正面から戦う必要はないか。


「じゃあどうしますか?」


 レインの疑問にルーフェは少しだけ悩んだ後、ニヤリと笑みを浮かべて応える。


「決めた!ボク達はアマノの国へ向かう!!」

 


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