第227話 修行の目的
アポカリプスがあっさり倒されてすっかり戦意を失ってしまった星の欠片の子達はルーフェを前に震える事しかできなかった。
「さて、これでもう君達はこの国では暴れられないね?」
「くっ……こんなことをしてただで済むと……」
「済むさ!ボクは魔導騎士。この世界の神なんだから!!」
残された星の欠片の人達は広場を去って行った。
アポカリプスが居ない今、この人達に勝機は無い。賢明な判断だけど、これからどうするんだろう?
おそらくこの中央都市に集まっているギルドは大体が本部で星の欠片も例に漏れない。
星の欠片の本部のギルドマスターがどこかへ行ってしまったのか分からない以上今後のギルドの体制はどうするのか。
というかアポカリプスは死んじゃったのかな?
「彼は一応生きているはずだよ」
「な、なるほど?それじゃあどこへ行ってしまったんですか?」
「……」
私のその問いにルーフェは応えてはくれなかった。どうやら教えるつもりはないらしい……余程私の信用が無いのかな。
しかしそれにしてもあのルーフェの魔法……あまりにもアポカリプスの物に酷似していた。
魔法は同じものでも使う人によっては変化する。
炎なら火力や色の変化だってある。あからさまじゃなくても魔力を注ぐ量が全く同じになる事はまずない。
ルーフェの言う事が本当なら古今東西全ての魔法を使えるだけじゃなくて、相手の力量に合わせて魔力を調整もできるのだろうか。
全く本気じゃなかったみたいだし、他にもまだ何かありそうだ。
「やりすぎだと思うんだが……もう少し後先を考えろ」
「この国の王様やそれを守護する四天種の人達は魔王教団なる怪しい教団に関係するギルドが潰れて満足していると思うよ?」
「だがそれはもう少し先だった……行動の起こし方を……」
「あんな奴ら不要だよ」
いつも愉快そうな表情をしているルーフェは紅蓮に説教されて珍しく眉を顰めている。
魔王教団の事を良く思っていないのがよくわかる……。あの人達の敵というのならありがたいんだけどね。
少なくともルーフェと敵対することは無さそうだ。
微妙な空気が流れた後、ルーフェはいつも通りに戻り、修行の続きを始める。私は見学だと伝えて、広場に入れてもらえた。
久しぶりに見る4人はなんだかやつれていた。フーリアは昨日から参加していたので久しぶりではないんだけど、明らかに疲れが見えている。
「……見学は良いんだけど、君の修行はまだのはずだけど?」
「暇だったので……レイン王子が見学に来ているのなら、私も見学くらいはいいんじゃないかと……ダメでしたか?」
「ふふふ、可愛い女の子の頼みなら仕方ない!」
「あ、ありがとうございます」
先ほどの怒りの表情とは打って変わって、笑顔を見せている。
さっきみたいな怖い顔で睨まれるよりはマシだけど、逆に不気味でもある。
正直に言えばあまり近づきたくないし関わり合いになりたくない、そう思わせる一番の要因が……私の身体をジロジロと見てくるところだ。
ルーフェは女の子だけど女の子が好きなのだろうか?
人の趣味趣向を悪く言うのは違うよね。少なくとも人を不幸にしていないし。手を出されたら嫌な人はいるだろうけど……。
しかしそれも人気者のルーフェならと手を出されても良いと考える子は少なくなさそう。
最初の試験での女子生徒もなんだか凄いうっとりした顔をしていたし……。
「君はボクの事はどうでも良さそうだね?」
「そんなことは……それより、皆はどうですか?」
「君のお友達はよく頑張っている。特にユウリちゃんはすぐに大地の魔力を感知出来た。アレは天才だね」
「……どうして友達だと?」
「見ていれば分かるさ」
ルーフェの前で仲良くお話をしていたとか、じゃれ合っていたのを見ていたのなら分かるけど、ほとんど会話をしている所を見せていないのに気づけるのだろうか。
余程人を見ているのかそれとも……。
「ふふふ、可愛い子の顔と声、その視線!!ボクは全てを見ているよ!」
「……」
あんまり深く考える事じゃないのかもしれない。この問いでそう考える。
というか先程から女の子の話しかしていない気がする……友達というのならまだもう一人魔導士で男子が居るんだけど……。
「じゃあマツバはどうです?」
「マツバ……?どんな子?」
「黒髪の男の子です」
「あー……彼はおそらく大地の魔力を見る事が出来ているはずだよ」
「適当ですね」
「これでもちゃんと見てるよ?君達は皆、優秀だね。是非とも国に来てほしいんだけど」
そこまで高い評価を貰えるのは嬉しいけど、他国へ行こうとは思わない。
もしかしたらこういう場を設けたのは優秀な人材を手に入れるためなのかもしれないね。だとしたらやっぱり気になるのは……。
「どうして修行なんて……こんな事を?」
「あれ?嬉しくない?最強の魔導士であるこのボクに鍛えてもらえるんだよ?」
「それはありがたいのですが……どうしてかな……と」
「……」
未だに大地の魔力を感知出来ていない生徒は地面に耳を当てたり、魔力を注いだりして奮闘している。
一方で完全に感知を覚えたユウリは岩の如く動かずに足を折りたたんで座っている。彼女の周りに纏う魔力が膨大で神秘的でユウリはもう完全に自分のモノにしている。
フーリアは2日程前とは違い遥かに強力な力を得た……。
あまり力の差を比べるのはいかがなものか……けれど、フーリアとユウリの力の差はほとんどないだろう。
修行で急成長して開花した。ハッキリ言ってしまうとショナ以外は皆、アポカリプスと戦えるくらいじゃないかな?
ショナは……せめて持っている剣の真名を知らないとダメだろう。
それでもレベルアップはしているはず……自信を失わない事だけが不安かな。
それでも着実に強くなっているんだから当然こんな場を設けた理由は知りたいよね。
「教えていただけませんか?」
「敵だからだよ。魔王教団のね」
「え?」
「あまり言うなと本人に釘を刺されているんだけど……サジタリオンくんから聞いたよ。君達は魔王教団と戦っているとね」
「まさかそれが理由……?」
事前にサジタリオンから話を聞いていたからこそ、この場を設ける事に賛成してくれたのか。
しかし、そこまで魔王教団を嫌う理由は何なんだろうか?
その理由はまでは教えてくれないんだけど、ルーフェのその瞳と怒気の孕んだ声がどれだけの恨みを持っているのかは優に想像できる……。
「うん!アイツら……面倒なんだよね。だからさ!たっくさん教えてあげるから……ルエリアへ戻ったらアイツを……アイツらを殺せよルーク=バレンタイン」
 




