第226話 全ての魔法
星の欠片の男の言葉に少し遅れて、空から何かが降ってきた。
それはエキナと一緒に戦って、何とか退けた相手……それが今、目の前に現れる!!
「アポカリプス様~!!」
「名を呼ぶな……」
白い肌に細身の男性……声もあの時と同じ、まさかこんな所で再会することになるなんてね。
しかも相手はエキナ1人なら相手取ることのできる実力者……。S級という世界最高峰の冒険者がギリギリ戦える。
それがアポカリプス……!!
だけどあの時の様に勝てるビジョンが見えないわけじゃない。既にあの頃を遥かに凌駕する力を得た。
それに魔法の概要も少しだけなら分かっている。白い光線を使ったビームを放つ魔法。さらに光に質量を持たせて弾丸のように物理的なダメージを与えられる。
一番気を付ける魔法は光の中に人を閉じ込める魔法だ。
魔力を解放し、戦う準備をしていた時……。
「ようやくお出ましだね。星の欠片の現ギルドマスター」
そんな私に退くように手で制止ながら前に出てくるのはルーフェだった。
最強の魔導士ルーフェは殺気を放ち、魔力を放出する。それだけで周りの倉庫のガラスは割れ、鉄の扉はへこみ始める。
一緒に居る私達も魔力の圧力に押しつぶされてしまいそうになる!!
怒り……ルーフェからはそのような感情を感じる。
この領域に届くにはまだまだ時間が掛かりそう……。
少なくとも、私はもう戦う気力を失った。別にルーフェと戦うわけじゃない、ルーフェが戦ってくれるから……これほどの魔導士なら十分任せられる。
「化け物が」
「お互い様じゃないかな?非道な方法でボク達魔導騎士に近づこうとしているんだから」
「これは俺達本来の力だろう?」
「でも神様に見放されちゃったじゃん。その結果がこれだよ」
「やっぱりお前は……そこまで知っているんだな」
「むしろボク達以外にそれを知り得て要るのがダメだ……だからこうしておびき寄せたんだろう?」
ルーフェがそんなことを言うと一切の予備動作無しで魔法の弾丸を放つ。
それに対して、同じサイズの白い光の弾丸をアポカリプスが放つことで相殺する。
自分の魔法が防がれたことに何1つとして危機感を持たない……それどころか、防いだアポカリプスをあざ笑う。
「まあまあだね」
「不意打ちで殺せなかった……これが最強の魔導士か?」
「手加減したからね。全力でやると痛いから、小さくて速い弾丸で頭を打ち抜こうっていう慈悲だよ」
「優しいのか優しくないのか……傲慢だな」
「それを成す力がボクにはあるからね!」
「それじゃあ。その力とやらを見せてもらおうか!!」
アポカリプスが吠える!!
彼は前に戦った時と同じように白い光の玉を使って、先ほどのルーフェの様にそれを弾丸のように放つ。
ルーフェもまた当然その攻撃を避ける――かに思われたが、その魔法に対して同じ構えで迎え撃つ。
「何のつもりだ?」
「魔法だよ」
「……その魔法は……………………」
「ふふふ、仕方ないよ。これはそう言う魔法だろ?」
ルーフェが発動している魔法はアポカリプスと同じ白い弾をぶつける魔法。
まさか同じ魔法を使うとは思わなかった。
同じ魔法を使うという事は、アポカリプスと何か関係があるのか。それならこの魔力を高めて、圧力をかけるようなこの怒りにも納得が行く。
しかしそこへ紅蓮が隣りへやってきて説明してくれる。
「ルーフェは古今東西全ての魔法を使える」
「紅蓮さん!それって……本当ですか?」
「……ああ、しかもアイツはあんなだが器用でなマスターアポカリプスが使った魔法を同じ威力で返せる……だから――」
2人の魔法がぶつかると同時に一切の衝撃も無く2つの魔法は相殺し合う。
全く同じ力同士だと触れた瞬間に消える……だけどそんなのはほぼほぼ狙ってやることは無理だ。
魔法への知識、魔力操作の正確さ……センスに才能。それら全てが噛み合っていてもなかなかそれを可能にできる人は居ない。
そもそも魔法というのは同じものでも個人で少々変化がある。
例えば私の炎の初級魔法「ファイアーバレット」は色が少しだけ桜色に近い。
本当に少しの変化だけど、同じ魔法でも絶対個人差が生まれる。
だからいくら同じ魔法を使えてもこんな魔法同士の相殺は不可能だ。
相殺魔法があればそんな技術は必要ないんだけど、それには力の差がありすぎると効果を成さない。
ルーフェなら可能かもしれないけど、それとも違うみたい。
「くっ……さすがに最強の魔導士を名乗るだけあるか」
「こんなものかい?ギルドのマスターとやらは……」
「それならこの魔法は知ってるか……!!」
アポカリプスは先程よりも大きな白い球体を魔法で作り出す。
あれは確かアポカリプスが逃げる時に使った魔法……!!包み込まれると消える奴!!
転移の魔法か、それとも任意で本当に消すことができるのか。とりあえずあの魔法は危険だ!!!!
「ルーフェ!その魔法は……!!」
「大丈夫、心得てるからね~!」
その心配すら必要が無いという。
ルーフェはまたも同じ魔法を繰り出す。しかし白い球体を手のひらに出現させた瞬間、ルーフェの表情が少しだけ曇る。
「この魔法は……アレか」
全ての魔法の知識を持ったルーフェが魔法発動に少し戸惑っている様子。
もしかしてあまり使わない方が良い魔法だったり……?魔法にはリスクを負って強力な力を得るモノもある。
しかしそれなら知識のあるルーフェが使うとは思えないんだけど……反射的に同じ魔法を使ってしまったのだろうか。
だとしても少し間抜けな気がするけれど……。
ルーフェは少し悩んだ末に白い球体の魔法を――
「ふふ……」
さらに巨大化させる。
魔力をより多く注ぐことで相殺する技術を捨てて力業でネギ伏せる魂胆みたい。
先ほどまで同じ魔法で同じ魔力で相殺していたけれど、それができないと判断した……?
「白魔法……アポカリプス!」
「ちっ……魔力の量で返しやがって……!!だがこれは俺の魔法だ!!白魔法アポカリプス!!!!」
ギルドマスターアポカリプスがそう叫ぶけれど、魔法の差は歴然だった。
魔法に包まれたアポカリプスはやがて、光の中へ閉じ込められて小さく縮んでいく。もしかしてこれ……結構グロい魔法だったりする?
無理やり押しつぶして……うっ……想像したくない!!
そんなことを考えて居ると飴玉サイズまで小さくなった白い光の玉をルーフェは手に取ってそれを口の中に放り込んだ!?
「何してるんですか!?」
「あはは……驚いた?でもこの魔法はそう言う魔法じゃないよ」
「え……?」
「これは空間魔法アポカリプス。別空間へ移動させる魔法だよ」
そういう事だったのね。
ならいちいち食べるような動作はしなくていい。
この人は見ている人達を驚かせるためにわざとこんなことをしたんだろうか。
本当に変わり者ね。




