第225話 揉め事
この聖獣サンが言うには私にはルークと呼ばれる人と同じような力を宿しているという。しかも、まさか動物に名付ける名前まで似ているとは。
センスまでその名前に引っ張られるのだろうか。
「かっこいいね」
「やはり、お前もそう感じるのだな……」
なんだかあまり嬉しくなさそうに私の事を見てくるサン。
本人はあまり気に入っていないってことだよね。
その名前を持っているというのに分かり合えないなんて……。
「貴様は主で間違い無さそうだが、とりあえずこれで修行とやらを続けられるだろう?」
フーリアは新たな力を手に入れてそれを使いこなすこともできるようになった。
ただ、こうなるとアリス達のことをどうするべきか。放置するのも可哀想なので、目的こそ達成出来たけれど、協力出来るのならしたい。
期待させておいて断るのはあまり好きじゃないからね。
「ありがとうサン。助かったわ」
「いいえ、貴方様の力に慣れて光栄です」
あれ?私が主なんだよね?
なんだかフーリアに対しては敬語を使っているのに私にはタメ口に聞こえるのは気のせいだろうか?
力がない私よりも力を得たフーリアの方がいいのかもしれないけど、なんだか納得いかない。
しかしこれ以上この場に居ても、何かを得られる訳でもないので私たちは地上へ上がった。
そのあと、私はアリスの下へ行き事の顛末を話した。
「それはよかったですね……」
「だけど、協力すると言ったから何か分かったら伝えるよ」
「……良いのですか?」
「敵だったとはいえ、もしなにかあったら目覚めが悪いので」
「お気になさらなくても……いえ、感謝します」
アリスはそういうけれど私の言葉を聞いて少し安堵したような表情を見せる。強がっているみたいだけど、案外見た目通りの女の子なのかもしれない。
話を終えて私は一人で屋敷へ戻る。
フーリアはまた紅蓮の下へ行ってしまった。
修行の内容はわからないんだけど、おそらく泊まり込みなんだよね。誰も帰ってこないから一人で寂しく過ごしてこの日は終えた。
――
次の日は静かな目覚めから始まる。
メイドさんの朝のノックの音で起きてベッドから立ち上がり、外の景色を眺めて、今日は何をしようかとつまらない悩みを持つ。
うん……こういう素敵な部屋でまさかそんなことを考える日が来るとは……まるで貴族みたいだ。
一応貴族ではあるんだけどね……。
そういえばレインは修行の見学をしているんだっけ、私も行ってみようかな?
皆の頑張っている姿を見に行くのも悪くない……そう考えた私はすぐに支度する。
服を着替え、豪華すぎる朝食を終えて私はすぐに屋敷を出る。いい所なんだけど、何でもかんでも使用人の人達がやってくれるのが私には居心地が悪い。
アナのような愚痴を吐けるような関係ならむしろありがたいんだけど……まだそこまで心を許せるわけじゃない。
そういえばアナは大丈夫だろうか……片腕を失ってさらにルエリアにはまだ魔王教団が沢山残っているだろうから不安だ。
だからこそ力を付けるためにここまで来たわけで、その修行の成果、その一端を確認するために私は広場へ戻ってきた!!
皆の修行が順調なのか気になって仕方がない。フーリアはあの後、帰ってこなかったから参加しているはず。
そんなことを考えながらウキウキで広場へ入る……がそこでなにやら揉めごとに遭遇する。
どこかで見たことのある赤いギラギラした瞳を宿した星を象った証を掲げている人達とルーフェ達が何やら言い合いをしている。
ギルド星の欠片付属のスターダスト学校の生徒みたい。
私は聞き耳を立てる。このルミナの耳を使えば遠くからでも鮮明に声を拾える。
「どういうことだよ!俺達の学校から誰一人としてアンタらの修行に参加できないなんて!!」
「俺達の事を差別してるんだろ!!」
「それが世界最強の魔導騎士のやることかー!!」
どうやら揉めているのは星の欠片の学校の生徒が誰一人として、この修行を受けられていない事を訴えに来ているものらしい。
どうしてそんなことになっているんだろう?もしかして本当に星の欠片の学校の生徒は入れないようにしているのかな?
それとも単純に力不足……?
後者なら分かるけど、前者なら確かに問題だ。
それにルーフェはそれをすかした顔で見つめていた。
応えてくれないルーフェに我慢できず紅蓮が宥める。
「だから言っているだろ。君達では力不足だったと」
「あの方があの程度の試験で最後まで残れないなんておかしいだろ!!」
「あの方……?まさか、俺達の試験でデカい声で叫んでた奴か?それならこの結果が必然だ」
紅蓮は淡々と彼らがどうして試験に落ちたのかを説明し始めた。
聞いているだけで眠くなるような内容を長々と話し、時に投げかけてくる疑問にも応える。
紅蓮はあまり熱のある人じゃないというのが私の印象だけど、意外にもちゃんとしている。
逆にルーフェは最初に現れた時も魔法を教える時も、こうして詰められている時も普段の雰囲気を一切隠さない。
「紅蓮……さんはともかく、アンタはずっとなんなんだ!!」
「ボク?」
「そうだ!ずっと地面を見下ろして……俺達を見下してんのか!!」
「何も考えて居ないんだけど……見下しているのは確かかもしれない」
「あぁ!?」
こういう表裏が無くて、言いたいことを何でも言う人は敵を作りやすい。
紅蓮がルーフェに対してきつい態度を取っているのもそれが原因だろう。喧嘩の仲裁なんてする柄じゃないし、関わりたくないので早く喧嘩を終わらせてほしい。
そんなことを考えて居ると事はさらに激化していく。
怒鳴る星の欠片の生徒達をルーフェは煽り続ける……紅蓮も止めているんだけど、まるで聞く耳を持たない。
するとついに怒りの限界値を超えたのか星の欠片の学校の生徒が叫ぶ――
「マスターアポカリプス!!どうか我らをお導きください……哀れな魔導騎士に捌きを……!!」
先ほどまでの荒々しい口調から一変、まるで神に祈りを捧げているかのよう……に助けを求める。
口調の変わり方が不気味だが、アポカリプスがここに居るのね!!
探す手間が省けた……様子を窺いつつ、起きた事をアリスに話すチャンスだ。
しかし彼の叫び声に誰かが応えてくれることも無く、何も起こらない。
もしかして見捨てられた……?そう思った次の瞬間!!
空から白い光が下りてきた――
 




