第220話 新たな力
フーリアが意識を失って丸一日が経過した。
このままずっと目を覚まさないんじゃないかと不安に駆られながらも無理を言ってフーリアの部屋で横に居させてもらう。
いつでもフーリアが目を覚ましてもいいように近くに……そして何かあればすぐに動ける位置に居たかった。
するとその時は当然訪れる。
深夜の時間帯かな……フーリアの握っていた透明の剣が光り輝くとその姿を変えた。
日本刀のような、私の持っている剣と同じ形をした真っ白な刀身と黄金に輝く刃が特徴の神秘的な刀。
聖剣や魔剣クラスの剣は持った者の性質を映し出す。
私の炎帝剣が日本刀に似ているのはおそらく、私の前世が日本人だからだろう。
だから映し出す剣の形が刀になるのも分かるんだけど、どうしてフーリアまで刀なんだろう?
もしかしてフーリアも日本人の生まれ変わりとか……?でも彼女に記憶があるとは思えない。
前世の記憶があったらもう少し大人びていると思うんだよね……行っちゃ悪いけどフーリアはまだまだ子供っぽい。
でもそれは16の少女なら当然の事だ。
転生者じゃないとするとどうして刀なのか……もしかして私に影響されたとか。
炎帝剣は私が使いこなせない程に強力な剣だからそれに近い形を想像してしまったのかもしれない。
なんだか悪影響を与えてしまった気がして申し訳ないんだけど、でもフーリアの新しい剣は超カッコいい。
深夜その時間では目を覚ますことは無く、そのまま朝を迎える。
早朝、なかなか寝付けずに眠い目を擦りながら外の景色を眺めていると後ろから人の気配を感じる。
この医務室に居るのは私とフーリアのみ。
ということは……。
恐る恐る後ろを振り返るとそこには、目を覚ましたフーリアがぼーっとした顔でこちらを見ていた。
「ルーク……?」
「フーリア……!!目が覚めたんだねっ!」
ここで抱き着いたら絶対に嫌われることが分かっているので我慢してあえて落ち着いて見せる。
もし普通の少女であればここで親友が目を覚ましたら抱き着いて喜ぶのだろうか?
それは前世の記憶がある私には分からない。
フーリアの様子を見るとどうやら契約は思ったほか、長く続いてしまい、ほぼ一日掛かったけど契約ができたみたいね。
剣がフーリアの手によく馴染んでいる。
まさかあの牙が本当に剣へと化けるとは……本当に不思議なモノね。
さて、フーリアの身体の調子はどうだろうか。
様子に異変は無いけれど、もしかしたら本人にしか分からない何かあるかもしれない。
「身体はどう?」
「う、うん……」
フーリアは剣を持っていない手で頭を押さえながら、新たに手に入れた剣を見つめる。その剣を力強く握ると笑みをこぼす。
「凄くいい!」
子供のような無邪気な笑顔だ。やっぱり前世の記憶があるとは思えない。
……ということはこの剣の形は私の影響だろう。
本当に申し訳ない事をしてしまったな。
「その剣……私の炎帝剣と同じ形だけど……」
「え……はっ!?何よ!別に真似をしたわけじゃないから!!」
「そう……もしかしたら私の影響かも」
「え……?」
「ルミナの力を借りて魔剣と無理やり契約してその時に力が流れたんじゃないかな?だからごめんね」
怒られるかもしれないけどここは素直にそう謝罪する。
やっぱり剣は自分によく馴染む物が良いのは当たり前、フーリアもきっとアーミアが持って行った神秘剣の方が良いに決まっている。
今までも細剣のアーティファクトを使っていたからね。
魔剣はちゃんとした契約じゃなかったせいか形に変化が無い。よくある形の剣だった。
ようやく自分の手に馴染むであろう剣を手に入れる事が出来たのに私のせいでそれを台無しにされてしまったんだ。怒られても無理はない。
「べ、別にそれは憶測でしょ?」
「で、でも……私がずっと隣に居たから悪影響が……」
「悪影響なんかじゃないもん!!」
フーリアは部屋の中だという事を忘れて大きな声で叫ぶ。
その言葉は考えるまでも無く私に訴えかけるモノだった。
「フーリア……」
「それに私はこれを気に入っているから」
意外にもフーリアは私の持つ剣と同じ形をした自分の剣を愛おしそうに見つめていた。
な、なんだかこっちが恥ずかしい気持ちになるのはなんだろう。
私の事じゃないはずなのに……。
「そ、そうなの?」
気に入ってくれているのなら……まあいいか……しかし、それにしても凄く綺麗な剣だ。
アーミアの持っていた神秘剣よりも神秘的なビジュアルをしている。
この剣があればきっと紅蓮も認めてもらえるだろう。
「それでその剣の名前は?」
「確か神秘刀ツクヨミだったかな?」
「名前まで日本っぽい……」
「何の話?」
「あ、いや……それより動けるの?」
見た感じ身体の調子は良さそうだけれど、それは本人しか分からない。無理をしているようなら見れば分かるからその様子を観察する。
フーリアはベッドから立ち上がって新しい剣を鞘へ納める。身体の調子は良さそうだけど、そこには少し違和感がある。
フーリアもそれに気づいて癖で鞘に納めた剣を取り出す。
「あれ?これ魔剣の鞘だよね?魔剣どこいったの?」
「私もそれは今気づいたよ。フーリアは何か覚えはない?」
「え、あっ……」
フーリアには何か覚えがあるみたいね。
何も分かっていない状態ならダインスレイブから貰った剣だし不安だけど、どうなったのか知っているのならいい。
身体の調子が良い事を確認すると私達は一緒に部屋を出る。ようやくこれでフーリアが修行に参加できるんだから早く行かせて上げたい。
しかし部屋を出ると外にはレイン王子が居た。
「お、ちょうど様子を見に来たんだが……。なるほど力を得たみたいだな」
「当たり前よ。これが私の新たな神秘刀よ」
「ほう……それではまたすぐに聖獣様に会ってくれないか?」
「それはお断りするわ」
「え……どうして?」
「これからこの国、最強の剣士に剣を教わりに行くの。昨日私を蔑ろにしたことを後悔させるわ!!」
フーリアは自信満々にそう言うと広場へ向かって行く。
私は三日後に来いと言われているので行っても意味ないんだけど……。
しかし数時間後にフーリアは私の下へ戻ってきた。
「剣の扱い方を身に付けろって言われたぁ!!」
「えぇ……」




