第219話 神の精霊
フーリアが意識を失って1時間ほどが経過した。
このままの状態で放置しておく訳にも行かなかったのでひとまず中央の闘技場を離れてレイン王子と共にサジタリオンが用意してくれた屋敷に戻る。
フーリアの部屋へ勝手に入るのは少しだけ気が引けるんだけど、ベッドで寝かせておかないと可哀そうだからね。
部屋の中はどこかで見たことのある内装だ。子供っぽい……昔の私の部屋に似ている。確か執事の人はこんなことを言っていた。
部屋に泊まる人を見て何を求めているのかを反映していると、フーリアにとっては昔の純粋な笑顔を見せていたころの思い出が強いのかもしれない。
嬉しいようで勝手に部屋に入ってそんなことを知ってしまった罪悪感で一杯になる。
さらにフーリアは苦しんでいる表情は見せていないものの、依然として目が覚める気配がない。
このままずっと目を覚まさなかったらどうしよう……。
そんなフーリアの状態を見てレインは聞いてくる。
「これはどういう状況なんだ?」
「おそらく剣と契約しているのと同じ状態なのでは?」
「だが、あまりに長すぎる。本来、剣との契約は一瞬で終わる」
確かに……本来の契約はとっても早く終わる。契約中は夢の中に居るような感覚に陥る。
そして物理的な時間の経過も一瞬。夢の中での時間で1時間や1日でもそれは同じだ。
剣との契約の際に身体は一瞬だけ意識を失い、剣の世界へ引き込まれる。
おそらく剣の種類でその世界が代わり、私の場合は炎の中で炎帝剣の精霊と契約した。
その時は炎の精霊は私に跪いて、すぐに従うと言ってくれた。
「そうなのか?俺は契約に力を示すように言われたんだがな」
「人によって違うんですかね」
「そんなことは無いと思うんだが、いや俺が知らないだけか」
「どちらにしても共通点は物理的な時間は一瞬なので第三者からしてみたらすぐに目を覚ますはず……ですよね?」
「そうだ、だからこの状態は異常だ」
やっぱりそうなんだ……ここまで全くの無反応という事は本来あり得ないこと、つまり何かしらの原因があると考えるべき。
そしておそらくそれは魔剣アスタロトじゃないかな?寝ている間もフーリアはずっと握っている。
横に眠らせておくために一度剣を取り上げようとしたら風の刃で阻まれてしまった。
結局フーリアは手に魔剣を握ったままベッドの上で横になっている。
フーリアを運んだ際にも一切手から落ちることなくそのまま握られていた。
それだけなら直ぐに終わったかもしれないんだけど、やっぱり本当の原因はフーリアの片手には魔剣アスタロト……。
あるいはもう片方の手にはほとんど透明な白い刃が握られていた。何かあるとすればこの2つか。
ーー
アスタロトに触れられてしまうという瞬間、私の目の前に風の刃が吹き荒れる。
風の刃はアスタロトの大きくなった手を切り刻み、体を切り刻み、巨大化した悪魔は元の大きさに戻る。
「ぐああああああああっ!?お前は!!!!」
アスタロトが苦しみの声を上げるとその目の前に居たのは真っ白な男性の精霊だった。人目で剣の精霊だと直感する。
だけどルークやショナの使う剣に宿っている精霊とは違う気がする。
気配というかオーラが尋常じゃない!!
初見の私ですらこれが只者じゃないとわかる……もしかしてこの人は神様……?
「ふぅ、危なかったな」
「あ、あなたは?」
「君の握っている剣の精霊神……いや、神霊?」
「神霊!?」
聖獣が言っていた奴ね。
やっぱりこれはあの聖獣の牙に宿っていたのかな。神秘剣を使えるのはホワイトの血筋のみ。こんな存在が知られていないのも仕方が無いのかもしれない。
いや、だけど神秘剣と同じならアーミアの持っている物にも同じ精霊が宿っているはず、全く表に出ていないわけじゃないのかもしれないわね。
他にも知っている人が居るかもね。
「ちょっと、私のことを無視しないでくれない?」
「死んだ魔族の魂が宿った剣ごときが我と主の間に入ってくるな」
「はぁ?」
「我はこの新たな主と話している」
「それは私の主!!その子は超優秀な剣士!剣である私が彼女を主に欲しない理由がないの!その子は私を必要としている!!」
「彼女の主は決まっている」
「はぁ、神秘剣。神の剣とは傲慢ね」
「これは傲慢では無い。決まっていたことだ」
「それじゃあ私は抵抗しようかな悪魔だし?これでもダインスレイブ様に力を貰っていてね。神様だって殺せるのよ!!」
ダインスレイブそういえばあいつが持っていた剣だったわ!!
まさか魔剣に力を貸していただなんて、これをルークに忍ばせるのが狙いだったのね。それじゃあやっぱり私がダインスレイブの片腕を落としたのも誘導されたものかもしれない。
あの男……つくづく気に入らない!!
神を殺すと宣言したアスタロトは得意の風を使った攻撃を始める。
「神殺しの風!!」
「……消えろ」
「え……?」
そう神霊が呟いた瞬間、神殺しの風どころかアスタロトごとこの空間から消滅した。
あの膨大で強大な力をいとも簡単に押しのける様子を見て、確信する。この神秘剣はどんな剣よりも各が違う!!
欲しいけど、こんな私の剣になってくれるの?
「さて、主。君と契約をしよう」
「……してくれるの?」
「不服か?」
「いやいやいや、むしろあなたの方が……」
「ルークとやらが居ないとそういう反応をするのだな」
「……はい?」
「奴が入れば君は強気で我と契約しただろう」
「……」
「はぁ弱さを見せたくない相手か、そんなに拘ってくれるとは羨ましいな」
なんだが全てを見透かされているような気がしてあまりいい気分じゃない。あの悪魔の様に心を読まれる事はないはずだけど……。
力になってくれると言ってくれるのならありがたく受け取ろう。
「契約するわ!!……で、あなたの名前は?」
「ツクヨミ……よろしくお願いします。主殿」
ツクヨミはとても丁寧にお辞儀をすると私の中に溶けてしまった。




