第216話 勝負
まさか本当に聖獣がこんなところにいたなんて……この時間は寝ているとレインは言っていたけれど、普通に起きていた。
今まで会ってきた聖獣は全部巨大だったがこれまたそれをさらに超える巨体……聖獣は普通は死なないらしいから、何百年生きたんだろうこの子は……。
それにしてもこの場所はとっても不思議な空間だ。
神殿のような内装で地下の天井に小さな丸い太陽があってそれで辺りを照らしてくれている。
聖獣が使う大地の魔力を使った特殊な魔法みたいだ。厚さも感じるので本物の太陽だと言われても納得できるほど。
「ルーク?どうしたの天井なんて見上げて」
「いや、凄いなと」
「あの光?確かに凄い魔道具?だけど」
おそらく魔道具ではないんだろうけど、フーリアは魔力を感知できないから分からないのは当然だ。
それよりもやっぱり気になるのは私の事を主と言ったその言葉の真意。
今までの聖獣とは違い、まともに話が出来そうだし、何より何かを知っているような口ぶりだ。
当然その言葉を聞いてレインも口を開く。
「ルークが主?やはり彼女が……」
「……」
「どうしたましたか?聖獣サンラ……サン殿」
「……いや、懐かしい気配に感傷に浸っていただけだ」
私のことを知っているのだろうか。
それともやっぱりまたこの聖獣の時代にルークって人が居て、その人に仕えていたのかな。
100年単位で送られてきた聖獣、それが900年まで続いて約9匹もこの世に出ている。その時代には必ずルークの名前を持った人が現れる。
その人たちがどんな存在なのか私には分からない。
おそらく転生者か何かだろうけど、3匹の聖獣に出会ってわかったことがある。
それは今までのルークって人と同じような力を私は持っているんじゃないかということ。
だからこそ、一般の出である私でも魔導騎士のようなことができた。
いや……一般ではないのかな。私がどこから来たのかは誰も知らないんだし、知っているとしたら狼の魔物……。
そんなことを考えていると聖獣サンは私を見つめていた。
「さて、話したいことは山ほどあるが、主よ。今貴様は何体の聖獣と会った?」
「え……?3体ですが」
「そうか、それはまだまだ先は長いようだなルークよ」
「え」
「まだ貴様には力を貸してやれないみたいだ」
「どういうこと?」
「どうして聖獣である我がこんな闘技場の地下に居るか分かるか?」
そんなことを聞かれたっても分からない。
分かるはずもない、急に力がまだ足りないとか言い出して、敬語までやめるってこの聖獣は私のことを舐めている。
態度を一変させすぎでしょうに……。
そんなことに不満を感じていると聖獣は意味の分からない事を突然言い出す。
「我が主、ルーク=デイ=ホワイト様の命令でここに居る」
「はぁ!?ホワイト家がどうしてここで出てくるんですか!」
その家名は今、まさに私の横に居るフーリアのモノと同じだ。
もしかしてこの聖獣サンはホワイト家について何か知っているというの……?
予想外の話だけど、これはチャンスだったりしないかな?
だってフーリアの剣の契約について話を聞こうとここまでやってきたわけだし、まさかそれを知っていたからレインは連れて来てくれたのか。
フーリアの性がホワイトなのは紹介していたからね。
しかし聖獣は力を貸すことに否定的だった。
「まだ時ではない」
「はぁ……それじゃあ力は借りられないと?」
「そうだ」
「え、どうしよ……」
私の力が足りないから、協力できないという事なら私の力が不足が原因でフーリアの悩みを解決させて上げられないってことだよね。
ごめんフーリア……と、そんなことを考えていた時だった。
サンは私から視線を外してフーリアを見る。
「お前は?なんだか妙な気配だな」
「私?フーリア=デイ=ホワイトよ」
「ホワイト……?嘘を付くな」
「は?どうして嘘だと決めつけるの?私は……!!」
フーリアはホワイト家として認められるために頑張ってきたから嘘だと言われて怒りを露わにする。
私ならフーリアのこの怒りを向けられたら二週間は寝込む。
「貴様から感じるのは魔剣の力、ホワイト家にのみ許された特有の神秘剣の気配がない」
「神秘剣を知っているの!?」
「ああ、神秘剣は我から作られたこの世界にある最強の剣だからな!」
この聖獣から作られたのが神秘剣……骨か何かを使ったんだろうか?
いや、そう言えば話している最中に少しだけ気になっていたんだけど、牙が一本欠けていた。
片方だけの巨大な牙が特徴のライオンの聖獣だと思っていたんだけど……まさかそれに秘密があるのかもしれない。サイズも残っている牙のサイズはちょうど剣のサイズっぽいし。
神秘剣の材料に使ったというのなら確かに凄いものが出来るだろう。
だけど、それだとアーティファクトのような現代の武器になるはず、それに精霊は宿らないはずだ。
「我は聖獣だぞ。神に作られし聖獣から出来る剣には神霊が宿る」
「精霊より上位の存在ですよね……?」
「ああ、だからこそホワイト家を名乗るお主が神秘剣を持っていないのはおかしいだろう?」
ホワイト家は神秘剣以外使えない。
だけどこれにはあるカラクリがある。理解されるか分からないけれど、あったことを全て話す。
すると聖獣は一度考えるように前足で頭を擦る。
動作は猫みたいで可愛らしいんだけど、デカイからちょっと怖い。そして一瞬私の方へ視線を戻す。
「なるほど、それくらいなら有り得るかもしれん」
「分かってくれましたか!フーリアはちゃんとしたホワイト家です!!」
「だが、貴様らが嘘を付いている可能性はある」
「は?」
「だが我も嘘だと決めつけてしまった。だからどうだろうお互いに勝負をしてみないか?」
「勝負?」
一体どんな勝負を挑まれるんだろう……。
戦いなら勝てる自信が無い……だって凄く大きい聖獣だし、今までも弱っていたり、そもそも私達と戦う気が無いなどまともに戦ってこなかった。
聖獣は私達人間よりも遥かに強い。
少なくとも今の私とフーリアの2人では不可能というのは確かだ。
だけどサンから提案された勝負は意外なものだった。
「この最後の牙を使い剣を作る。それを扱えたら認め、その新たにできる神秘剣をホワイトに譲ろう」
「ほんとに!?」
「しかし嘘だった場合はただではおかない……ホワイトを名乗ることがどれほど重いかを思い知ることになるだろう」
フーリアがホワイト家なの確かだ。
嘘と決めつけられてフーリアが悲しい想いをしているのが分かった。
少なくとも私はこの聖獣に認めさせて謝罪の言葉を貰わないと気が済まない!!
だから――
「やりましょう!!」




