第213話 興味
修行の第一段階を知らず知らずの内にクリアしていた私はここから三日間、暇になってしまった。
剣士の方の修行も見てみたかったんだけど、剣士の方には特別に見学者としてレインが居るはずだから、行っても見学者同士で話すことになる。
人付き合いが苦手なので、諦めて街を散策する。
広い街だけどあまり遠くへ行かなければ迷うことは無い。
昨日の今日で十分に記憶できる距離まで移動していると、冒険者ギルドが見えてきた。
三日間、暇ならギルドの依頼を受けても良さそうね。
ここでお金を稼いでおいてフーリア達が喜ぶ顔を見られるかもしれない!
うん、なんて良い暇つぶしだろう。
あの子たちの笑顔を想像しながらギルドへ向かうとちょうどそこから見知った人物が出てくる。
見知ったと言っても昨日、会ったばかり王子様レインだ……どうやらまだ見学に来ていなかったみたい。
どうしてギルドから出てきたんだろう……?
看板を見てみるとギルド花園本部と書かれている。
ちょうど花園だから依頼を受けるのにいいんだけど、あの人に見つかると少し面倒くさそうだし、離れるのを待つか。
先ほども言ったけど人付き合い羽苦手だ。
去るのを待とうしていると……。
「おい、そこの。どうして俺に話かけない?」
レインは私の方を見ていない。だけどその言葉は私に向けられているものだと分かる。いや……人は沢山いる訳だし、きっと私じゃなくて通りかかった人に言っているんだろう。
聞こえないフリをして無視していると――
「君だよ。バレンタインって言ってたよな?」
うん、私だったみたい。
こうなってくると無視する訳には行かないか、なんならレイン自らこっちへ向かってきているし。
観念してレインの話を聞く。
「すみません。沢山人が居たので」
「そうか、私からして見たら、お前が私の存在に気づいたが去るのを待って居るように見えたが?」
「ま、まさか……」
「というかどうして君がこんな所に?魔法が得意ならルーフェ様に教えていただいているはず」
あっ……そっか。
この人は私が今は修行を受けていると思っているのか。
妙な疑いを持たれたくないので先程あった事を話をした。
するとレインは微笑む。
「なんだそれ。やっぱ君、超強いんだな」
「そんなことは……」
「そう自分を卑下する必要無いさ。君は自分にあまり自信が無さそうだが、実力も魔法の知恵も……そして見た目もとても可愛らしい素敵な女性だよ」
「はぁ……」
なんだこの人……急に……。
そんな言葉に反応の悪さを感じたのかレインは首を傾げる。
「あれ?」
なんか甘い言葉を掛けられた気がするけど、全く響かなかった。
褒められるのは嬉しいんだけど、この人の言葉に本心を感じなかったからだろう。
真剣な眼差し、優しい表情だったけれど、私の沢山の人を見てきたこの目をごまかせるほど甘くは無い。
王子様だし、そういう言葉を使って味方を増やそうとしているのかもしれないし別に気にすることじゃない。
むしろ必要な素質だろう。
「嘘だろ?レイン王子の甘い言葉にときめかないなんて!!」
「こんな女の子初めてだ……」
レインの側近の人たちは何故かそんな様子で驚いていた。
もしかしてこの人って結構たらしだったりする?
確かにレインはこの世界でも超が付くくらいにはカッコイイけれど、だからって甘い言葉に惑わされるほど乙女でもないんだよね。
逆にそんなことをされてしまうと距離を取りたくなる。
そんな私の考えとは裏腹にレインはまた微笑む。
「へぇ~やっぱり君には興味が湧くな」
「は、はぁ……」
とりあえず話を切り上げて今日の所は豪邸に帰るか。
「あ、まだ帰らない方がいいぞ?」
「なんですか。わ、私そういうの興味無いんですが」
「違う違う。俺が言いたいのは去らなくて良かったという真実だ」
「どういう意味ですか?」
「ギルドの中へ入ってみろ」
レインの話だと修行の見学をするために広場へ向かっていた道中でフーリアを見かけたという。
しかしながらこんな所にフーリアがいるわけ無い!!
……だけどレインが嘘を言っているようには見えない。
「どうしてこんな所にいるのか聞いてみたところ、取り合えってくれなくてね」
「どうして?」
「彼女、結構気難しい子だろ?王子の俺が話しても無視してくるんだよ。まあ王子だからと媚びを打ってくる者よりはああいうタイプの方が好きだが……」
好きとはおそらく好意ではないんだろう。あくまで人としてか……。
「とりあえずギルドへ向かいます」
「そうするといい、深刻な顔をしていたからね」
フーリアが深刻な顔を?
まさか私が考えている以上に深刻な自体が起こっているの?
ギルドの中へ入ると確かにフーリアの姿があった。魔剣アスタロトをギルドの受付の人に見せながら――
「魔剣とどうしたら契約できますか!?」
「え、えぇっと。普通に手に取れば契約が始まります。成功すれば――」
「その契約を始める方法は?」
「で、ですから!!」
本当だった。
どうしてこんな所にいるのか、分からないけれど結構焦っているのが分かる。
「フーリア!!」
思わず声を掛けてしまったけれど大丈夫だろうか……って声をかけた後に考えても仕方ないんだけどね。
だけど私が思っていたのとは違う反応がフーリアから帰ってきた。
「ルーク、ぐすんぅ!」
怒るわけでも睨むわけでもないフーリアの泣いている顔を初めて見た。
これはただごとじゃないわ!!




