第211話 フーリアとサツキ
この世界のトップとも言える存在に剣を教えて貰えるということで、ここまで来たものの……ルークが居ない!!
あの子は魔法の方が得意だから魔法を重点的に学びたいみたいね。
だとしてもあの子は剣だって使えるわけだし、剣士の方に来ても良かったのに!!
そんなことを考えて居たらまるで私の考えて居る事を見透かしているようにショナが苦笑いしていた。
「フーリアは相変わらずルークのことばかりね」
「なっ!そんなこと、考えてないわよ!!」
「その気持ちは分かるから、」
「ショナは最初の頃はユウリと一緒にいないと全力が出せなかったのに」
「まあエキナさんのおかげだね。離れて特訓することで少しはマシになったよ」
最初は少しでも離れると泣きべそをかいていたのに、2人は成長しているということなんだろう。
じゃあ私はどうだろう。
ずっとルークに気持ちを隠すためにきつく当たって、本来なら嫌われていてもおかしくないのはこっちなのに、ずっと友達で居てくれる。
多分私はルークに甘えているんだ。昔馴染みの子だからとかそういう理由だけじゃない。
あの子は最初に会った時からそうだった、どこか大人びている。
子供の頃の私でも感じた、その違和感と大きな安心感にずっと甘えているんだ。
少しは変わらないといけないのかな……。
「……まあ、そうかもしれないね」
「あれ?認めるんだね?」
「私もいい加減……前に進みたいの!そのためならもっと強くなる。そしていつか、この想いを伝えるわ!!」
「重っ……あーいや、がんばれ~」
そう、私は負ける訳には行かないの……このストーカー男に!!
そんな想いを胸に拳を強く握っているとストーカー男もとい、サツキは間抜け面を晒していた。
「ん?」
サツキは私がそんなことを考えて居るとも知らずぼーっとしている。
強いからって余裕綽々な所がなおもイラつく!!
魔導士組の人達の姿が見えなくなると紅蓮は鞘に納めた剣を地面に付き立てる。
わざと大きく音を立てて、こっちを見ろと言っているよう。
「アレだ。今から特訓を開始する訳だが、まずはお前らの力が見たいから二人一組で組手だ」
早く相手を選べと言わんばかりに手を叩く。
剣術を複数に教えるにはまず、個々の実力を計らないといけない。じゃないと的確に教えることは不可能。故に模擬戦というわけね。
ここで十分な力を見せないと紅蓮の鍛え方が変わって、私に無意味な特訓をさせられるかもしれない。
十分な力を使って戦う……それにはうってつけの奴が居た。
「あ、じゃあフーリア私と――」
「勝負よストーカー!!」
ショナを無視してサツキへ下剋上を叩きつけた!!
そんな私の言葉を聞いて当然ショナもサツキも驚いていた。
「え、ちょフーリア!?」
「ごめんショナ。でも私だって引けない理由があるの」
「理由?」
「このストーカーを倒して、ルークを解放するのよ!!」
「ルークは別に囚われているわけじゃないよ……⁉」
誰が何を言おうと私はこいつを倒さないといけない。
ルークと和解する直前に取られる前にね。
そんな私の言葉を聞いたサツキは右手で頭を掻いて、なんだか申し訳なさそうにしている。
「さすがに何度もストーカー扱いされるのは悲しいんだけどなぁ」
「それなら、勝負してよ。私が勝てばもう言わないから」
「……なるほど、それならいいかもしれないな」
どうやら私の戦う相手は決まったみたいね。
しかしそれに納得のいかない子が1人いる。
「待って、私は?」
ショナには悪いけど他の子と組んでもらう。
この子は私達の中でも人と仲良くするのが上手いから大丈夫でしょ。
「ホント、ルーク以外には厳しいんだから……」
ショナはそんなくだらない事を呟きながら、他に人が居る方へ向かって行った。
自分で言っておいてなんだけど後ろ姿がなんだか切ない。
だけどここは心を鬼にしてでも私はこのストーカーを倒すんだ!!
「理由はどうあれ戦う気はあるみたいだな」
「当然!私の方が強いって教えてあげるわ」
「それは少し楽しそうだな。いつでもいいよ」
「その涼しい顔に風穴開けてやる!!」
「それはやりすぎだからね?」
魔剣アスタロトを手に取り、サツキへめがけて振り下ろす。
私は風を使った速度を活かした攻撃が得意。
ショナも速度なら私以上だけど、風の剣の特徴は永続的に速度をキープできる。
雷は抜刀から相手に剣をぶつけるまでの速度が速く、重い強力な一撃を与えられる。一方で風は最初のスタートこそ雷に劣るモノの持続で勢いが落ちない。
なので油断しているサツキを狙って何発も攻撃を加えて瞬殺しようとしたんだけど……。
「ちっ」
「さすがの速度だが、無駄だよ!!」
普通に剣で受け止められてしまった。
突然の不意打ちに卑怯と思われるかもしれないけど、私は理解している。
正面から戦ってもおそらくこの人には勝てない。ルークみたいに力を差が分からない馬鹿じゃないもの。
だけどせめて不意打ちでくらいでなら倒させてほしかった。
おそらく先程の一撃で決められないのなら私じゃ勝てない……けれど、それで諦めるほど軟じゃないのよ!!
それが強くなるために必要なら一度負けてもいい。ルークの……スイレンの足手まといになりたくないから。
「こんのぉ!!」
私は……全力でやった。
動けるだけ動いて、力も使い切って……だけど負けた。
サツキはまだまだ余力を残しているようでまだ涼しい顔をしている。無理もないか……彼はまだ魔法すら使っていないんだから。
魔導騎士の有利な点を活かすことなくやられた。
「くそ……」
「大丈夫?」
サツキは優しくそんな言葉を賭けながら手を差し伸べてくる。
心優しい所を見せていい人に見せる……これにルークは……!!
そう考えるとムカついてくるわ。
「ふんっ!」
「いてっ……」
対反射的に弾いてしまった。なんだか気まずい雰囲気になってしまったので、話を逸らす。
「はぁ……余裕そうね」
「……いや、案外そうでもないぞ?」
「嘘つかないで」
「本当だって!その剣術は並の剣士じゃ到達できないレベルだ。きっと血の滲むような努力をしたんだろう」
「それは……まあ」
今まで努力を褒められたことは無かった。
ホワイト家を奪おうとした親代わりの人達が私を気に掛ける事は一切なかったから。
こうやって褒められるとなんだか嬉しいような……?
少しだけ……このストーカー……いやサツキを認めても良いと思ってしまった。
だけどいつか超える……これは私の1つの目標になった。




