第204話 疑い
「な、何でしょうか?」
この国の王子に止められては無視するわけにはいかない。
とりあえず止まってみたものの、なんだか怪訝な表情でこちらを見つめている。
しかしなんとそこへフーリアがまるで王子様のように颯爽と割って入る。
「何?」
文言は凡そ王子様とは思えないきつい怒気を孕んでいる。
相手……王子様なんだけど……。
それに対して怒りを露わにすることなく、冷静に応える本物の王子レイン。
「怖がらせてしまった事は申し訳ない。ただ、上級魔法のコントロールを奪えるほどの魔導士がどうしてこんな所に居るのか気になったんだ」
「観光よ」
「観光……?この時期に?」
「学校が遅れての冬休みなの!」
「学校……?この街には4つあるけど、4つとも普通に授業をしているはず……今だってあの子達は下校時間だったわけだし」
「それは、私達がル……」
別に外国から来たと言っても怪しまれることは無いだろう。
ましてや友好国からだし……。
でもこれ以上フーリアに話させるわけにはいかない。
殿下に対しての不遜な態度は周りの市民の目を集めてしまう。
フーリアは気にしていない様子だけど、しばらく滞在するのに住みにくくなるのは困る。
私はフーリアの口を手で封じた。
「う……うぐっ!?」
「あ、ごめんフーリア」
黙らせるのに口を塞いでしまったので生き苦しそうにしている。軽い力なのにもう苦しくて顔が赤くなるなんてないはずだけど。
というか心臓が凄いバクバク言っているのが聞こえる。
妖狐の耳って凄いんだね……。
そんなことを考えて居る場合じゃない、今は誤解されないように立ち回らないといけない。
「す、すみません。えっと……殿下……?」
「レインでいい。確かにその子の態度は周りから見て良くなかっただろうし……どれ他の所で話をしないか?」
話をするために場所の移動を提案してくれる。
それは願ったりだけど、見ず知らずの相手にここまで気に掛けるだろうか、とりあえずもう少し様子を窺おう。
「ちなみに君達はどこへ向かうつもりだったんだ?」
「あ、ここです」
私は地図を広げて目的地をレインに伝える。
その地図に書かれた丸印を見てレインは驚きの表情を見せる。
「ここは……」
「知っている場所ですか?」
「……どうしてここへ?」
「泊まる予定なので」
「は?」
レインは何故か私へ疑いの目を向けてくる。
何か悪い事を言ってしまったのだろうか……多分これはこの地図に書かれた場所がどこか知っている反応。
話をしたいのならそこまで付いてきてもらえれば周りを気にせず話ができる。
「本当にここに用があるのなら案内しよう」
「レイン殿下が自ら!?」
「ああ、何か問題でも?」
「いえ、そんなことはないですが……」
「ならばついてこい」
先ほどまで柔らかい口調だった気がするんだけど……突然厳しい口調で話すようになった。
……今の私の姿はまさに獣人そのモノだし……い、いやハーベストは種族の差別が無い国のはず。
だったらなぜフーリアには優しかったのだろう……嫌われてしまったとか……?
レインには当然のように護衛が付いている。大人が2人、どちらとも私達を警戒している。
しかしこっちは事実を言っているので怒られるような筋合いはない。
しばらく目的地へ向かう道中、無言の時間が続く。
目的地に着くまで一切会話をすることない重たい空気のまま件の場所に辿り着いた。
「ここだ」
「え……?」
その場所は私が予想していた宿とは違った。
ここへ来る道中、沢山の宿屋を見てきたけど、そのどれもが普通の建物だった。
確かに人が泊まるうえで必要最低限の広さを確保されていたが、ここはそんなレベルを遥かに凌駕していた。
「あ、あの……ここって別荘か何かですか?」
「ああ、王族や一部の者しか使えない屋敷だ」
「「「「「「えええええええええ!?」」」」」」
何かの間違えだろうか……いや確かに地図にはここと書いてある。
どんな建物があるのか詳しく書かれた地図じゃなかったので、大きな宿だと思っていたんだけど、まさか別荘とは……。
そういえばサジタリオンって魔導騎士だったね……。
別荘を宿と言ってもおかしくないか。
その別荘を見上げながら呆れつつもサツキは応える。
「ここなのか……。まあサジタリオン様らしいが」
「サジタリオン……?どうしてあの人の名前が?」
「俺の師匠で今日、王宮へ顔を出しているはずです」
「確かにその話は聞いているが……それは本当なのか?」
「はい、俺は魔導騎士サツキです」
「魔導騎士……?名前からして革新派ではないのか」
「はい」
「……そうか」
その話を聞くや否やレインの表情が柔らかくなる。
もしかしてずっと警戒していたのは私達が革新派の魔導騎士だと疑っていたからだろうか?
一応魔王教団の話も帝国に入っているだろうし、疑いの目を向けられていてもおかしくない。
それが違うと分かったからかレインは私の方へ歩み寄ってくる。もう先程の怖い雰囲気は無くなっていた。
「そう言う事か。そこの赤毛の子」
「は、はい……?」
「先ほどはすまない酷い態度を取った」
「い、いえ……気にしていません」
それは少し嘘だけど、謝ってくれたしいいだろう。
一度、別荘で確認を取ると確かに私達の事が知らされている。
疑いは完全に晴れた!!
私達は心置きなく別荘の中へ入っていく。




