第203話 帝国の王子
中央都市ダリアへやってきた私達は早々……トラブルに巻き込まれた。
喧嘩の仲裁のつもりがコミュニケーション能力の無さが1つのトラブルを大きくしてしまう。
どこかの学校の男子生徒を刺激してしまい、上級の炎の魔法で私を攻撃してくる。
これを防がないと私の後ろに居る女子生徒も魔法に巻き込まれてしまう。
「仕方ない……」
あまり目立ちたくないんだけど、そうも言っていられないか。
既に同い年の子を遥かに凌駕する力を得たからこれくらいの魔法なら造作もなく対応できる。
相手の炎の魔法が発動すると同時にその魔法をコントロールを得る。私は炎を操る魔法が得意だ。
私の戦闘スタイルは炎帝剣に炎を纏わせ、その炎ごと操る事で宙を舞う剣に変える。
そんな緻密な炎操作魔法を使ってきたから、この程度の炎なら簡単に操れる。とりあえず炎を空へ向けて放出する。
本当はこの男子にカウンターをお見舞いやりたいところだけど……それは可哀そうなので我慢した。
これほどの炎の魔法を空に放つとなるとそれだけ目立ってしまう。
案の定、空に炎の柱が放出されて周りの人達が集まってくる。
「な、俺はこの女に向かって炎魔法を使ったのに……!!」
「あ、あなたの炎は操って空へ飛ばしました」
「なっ……!!俺様の炎をこんな女に……!!」
女だからと甘く見られるのは今に始まった事じゃないけれど、何度も言われると悲しい気持ちになってくる。
だけど力の差に性別は関係ない事は分かってくれたはず。
これで喧嘩なんて無意味な事はやめて――
「こんの……!!」
と考えて居た私が馬鹿だった。彼は喧嘩を止めるどころかその逆でさらに怒りを露わにする。
炎を操る魔法で相手の魔法のコントロールを奪うには魔法を扱うレベルに差がある時じゃないと無理なのは彼も知っていると思うけど。
理解していない……?
それともただのプライドか。
これ以上は騒ぎを起こしたくないのでどうにか穏便に済ませられないか考える。
しかしこんな時に適切な言葉が浮かばない……コミュニケーション能力に関しては低レベルだから……。
そこへ豪華な服を着た男の子が声を掛けてくる。
「少しいいかな?」
「あ?……ッ!!レイン殿下……ッ!?」
男子生徒はその男の子を見て萎縮してしまう。
殿下……それって王様のご子息ってことだよね?
その殿下と呼ばれた人……レインはまたも私達と同い年くらいの少年。
顔立ちは整っていて金髪の騎士で剣を腰に差している。
しかし妙だ……彼からはほんの少しだけ、微量だけど魔力を感じる。
ただ優そうな感じでどこかサジタリオンを彷彿とさせる。顔は似ていないんだけど彼の纏っている雰囲気がどことなく同じだ。
「何の騒ぎだ?」
「殿下っ!また星の欠片学校の生徒が私達花園にちょっかいをかけてきたんです!」
私の後ろに居た女子はレインにそう訴える。
私達は喧嘩の前の状況を見ていないから何とも言えないけれど、彼女達が言うには彼らがわざとぶつかってきたという。
当然の如く、相手の男子はその訴えを否定する。
「は?お、お前らが邪魔だったんだろうが!!」
「……なるほど、双方の言い分は分かった。で、君はどう思う不思議な狐の少女」
私に委ねるつもり……?
この場合どう転んでもどっちかの生徒には恨まれる気がするんだけど……。
ここは素直に私の考えを伝えるべきね。
「え、えっと、どちらが先かは見ていません。ですが」
「ふむ」
「あ、えっと、先にそちらの男性の方が私……あ、いやそっちが先じゃないか……」
「ふむぅ……?」
話す内容は大まかに頭の中で纏まっているのになぜか口に出すことができない!!
何かの魔法の影響かと疑ってしまうところだけどただ単にコミュ力の問題である。
そこへ助け船を出すべくショナが説明してくれるという。
「殿下!私たちが最初に見たのは二人が同時に魔法を撃とうとしていたところです!!」
「ほう」
「ですが、ルーク……あ、その不思議な狐の少女なんですが!この子は話すのが苦手な子なんです!!」
一言余計だが、本当のことなのでなにも口出しできない。
ショナは説明を続ける。
「この子は炎ヘの耐性と炎魔法への理解が凄いんです!」
「お、おう……それは……ん~凄そうだな……?」
「はい!なので喧嘩を止めてほしいとお願いしたのですが、その間に入って二人の炎を受けた後、そこの男子が最初に放った炎よりも強力な魔法を使いました」
「先程の炎の柱はそれか、しかしどうして空に?」
「ルークの炎を操る魔法ですっ!」
「そんなに魔法の練度に差があるだと……?」
レインは私を見て驚いていた。同い年にしか見えないからこそ、力の差があるとは思えないんだろう。
それもそうか、あれは上級炎魔法「炎弾」。
威力が凄まじく、こんな近距離で喰らったらどんな人でも塵と化す。そんな強力な魔法を操ったので驚くのも当然。
レインは一度男子に問う。
「彼女の言葉は真実か?」
「い、いえ……その……」
「嘘ならはっきり言えばいい。まあ周りの人に聞けばすべて分かってしまうが、そのとき嘘だった場合はわかっているな?」
優しい雰囲気を纏っていたレインは一変して男子生徒を睨みつける。
その目に睨まれた男子生徒は怯えていた。
「ひぃ!?すみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
そう叫んで男子生徒は仲間のグループの人達と一緒に去っていった。
なんとか一件落着、争いも終わり集まっていた人たちも散っていく。
女子生徒からはお礼を言われて、炎の魔法を使ってしまったことへの謝罪ももらった。これで心置きなく宿を見に行けるというところでーー
「お前達は待て、何者だ?」
やはりレインに止められてしまった。
さて、相手は皇帝のご子息なわけだから疑われないようにしないと……。




