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第199話 不完全な魔法


 シリウスを戻すために私は癒しの炎を使った。


 シリウスの身体は全身が炎で覆われる。私も限界まで魔法の力を引き出した。

 しかしずっと炎で燃やし続ける事はできない。

 魔力にはまだ余力があるんだけど、そろそろ「不死鳥の炎」を解かないと……。


 私はヴェルダンディーの身体から炎を払う。

 癒しの炎に包まれたヴェルダンディーは未だに動かない。言葉も発せず、目も閉じたまま。足元には先ほど落とした細剣が落ちていた。


 その時だった。


 シリウス……願わくばヴェルダンディが目を覚ます。

 その様子を見たスノードロップは心配そうに声を掛ける。

 

「ヴェル……?」

「うっ……スノー……?」


 先ほどのような刺々しい部分がさっぱり消え去っている。

 人格が戻ったのかどうかは見ただけでは分からない。その人の普段の雰囲気で判断するしかない。

 

 そしてそれが分かるのは……スノードロップだけだ。


 そのスノードロップは目に涙を浮かべて喜んでいる様子だった。

 成功したみたい……まさにそう安心した時だった。


「ドロップゥゥゥウウウウウ!!」

「お前は……!まだシリウスのままか!?」

「私がそう簡単に消えるか……!!せっかく、生き返ったんだ……私は女神様に転生させてもらった。使命がある……!!」

「あなたは何を言って……」

「ククク……小娘、条件は飲んでもら――うっ!?」


 またしてもシリウスは苦しみだす。


「はぁはぁ……出てこないで……!!」


 どうやらヴェルダンディーはまだ戦っているみたい。

 

 私の魔法が不完全だった……?

 前に魔王教団へ行ってしまった生徒を救った時も侵食具合で助けられる人と助けられなかった人が居た。

 

 確かヴェルダンディは1年前から第2の人格に乗っ取られていた。


 私の炎ではせいぜい薬を服用して数日の子を治すのがやっとだったし、間に合わなかったのかな。

 おそらく服用する薬の量にもよるんだろうけど1年間もずっとシリウスに乗っ取られていたのにスノードロップの前では2人の人格が混ざり合った会話をしていた。


 もしかしたらヴェルダンディとシリウスはほとんど混ざってしまっているのかもしれない。

 解放するには私がシリウスのみを炎で焼くしかない。

 

 しかしそんなことできるのか……?


 私の炎は人を任意で選択して癒すか燃やすかを決められる。

 だけど1つの身体の中にある人格を指定するなんてやったこともない。そもそもできるかどうか……。


「このままでは一生身体を奪い合うだけだぞ?」

「じゃああなたが出て行って!この身体は私の何だから……!!」

「女神様のために尽くせるんだぞ?私に身体を寄こせ!!」

「嫌っ!!」

「それなら……仕方ない」


 シリウスは何を思ったのか地面に転がる剣を握り始める。

 その瞬間では彼女が何をしようとしているのか分からない。


「身体を奪えないのなら……このまま……!!」


 しかし、その言葉で全てを察する。シリウスはヴェルダンディーの身体ごと死ぬつもりだ!!


 私は急いで止めに入る。

 この距離なら間に合う!狙いは剣、それを炎で弾く!!


 ――その時だった。


「罠よルークさん!!」

「え……?」


 スノードロップの言葉で立ち止まるが遅かった。

 シリウスは剣を自分の首……などではなく、私に向けて振り下ろしていた。


「せめて、まだ私が優勢な状態を利用して……ここに居る全員皆殺しにしてやるっ!!」


 そういうことか……!!


 まずいこのままだともろに攻撃を受ける。いくら頑丈な獣人の身体でもこれは死ぬ。

 しかしどうすることもできず、私は目を諦めて閉じる瞬間、パリンパリンッと甲高い音が響く。

 

 首が斬れる音じゃない。恐る恐る目を開けるとそこには氷のつららを受けて左腕を封じられたシリウスが居た。


 この氷魔法はスノードロップが使ったもの……。


「皆殺しにするですって?ヴェルの身体でそんなことさせない!」

「不意打ちなんて卑怯じゃない?もしかして殺す気?」

「貴女が人殺しになるくらいなら、ここで殺す。吹き荒れろ氷柱の吹雪ぃぃぃぃいいいいいい!!」


 スノードロップの無慈悲な氷魔法がシリウスを襲う。吹雪に氷柱を乗せる魔法。

 氷の針が風と共に襲ってくる。

 

 しかしそれをシリウスは片方の手で細剣を握り全て落としきる。


 これがギルドマスター同士の戦い。


 次はシリウスが攻撃を仕掛ける。少し離れた距離から細剣を突きで前に出す。


 距離が離れているので攻撃は当たらない。

 しかし細剣の先から氷柱が伸びてスノードロップを襲う。


 スノードロップはギリギリで避けたモノの長い髪が少しだけ切られてしまう。


「……ッ!」

「スノードロップ……せめてあなたを殺して魔王教団の約に立つ!!」

「……ねぇシリウス、あなたのその身体……元々は花園の支部フローレの副ギルドマスターのモノなのよ」

「……何が言いたいの?」

「ギルドマスターと副ギルドマスターにはね?明らかな力の差があるのよ……」


 次の瞬間、シリウスは吹雪に包まれて足元から凍り始める。

 また超絶空間凍結魔法……しかも街全体じゃなくて一人の人間に対して……。こんなのに捕まったら最後……誰も逃れられない。

 

 現に未だに凍り付いた街の人達はそこから動けないでいた。

 フーリア達も氷の中に閉じ込められているが身動きが取れないわけじゃない。氷の中は空洞になっていてずっと剣で氷を斬っている。

 

 スノードロップは皆を守るために氷で閉じ込めた。


「クソォォォォオオオオオオオ!!」

「何か……方法を必ず見つけるから……それまで氷の中に居なさい!!」


 スノードロップの氷はシリウスを完全に閉じ込める。

 星の欠片シリウスのマスターが戦闘不能になったことで私達のスノードロップでの戦いは終わった。

 

 私はまだまだ力が足りない事を痛感する……。

 

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