第196話 絶体絶命
目が覚めるとそこは雪山のリリィータートルとの激戦を繰り広げた火口の中。
どうやら意識が戻ってきたみたい。空を見上げると真っ暗だったのに今では太陽が顔を出している。神様が言っていたっけ、あの暗闇はリリィータートルを封印するためのモノだって……。
魔法でこの空間を暗くして隠していたんだろう。
誰がそんなことをしたのか知らないけど、そのせいで光合成が出来なくなったリリィータートルは力を蓄える事が出来なかった。
力があればあのネプチューンに弱った所で不意打ちを受けても死ななかったんじゃないだろうか。
「やってくれたな」
そのネプチューンは私を見て呟く。
手のひらを見てみるとそこにもう花は無かった。
リリィータートルが自分の本体を花に変えて、力を使い切り、死ぬことで私の身体に無理やり流れたってわけね。
なんと迷惑な……。
ネプチューンからは凄まじい程の殺気を感じる。こちらを睨みつけていてと輝も無く怖い……。
それもそうか、手に入れるはずだった聖獣が私に取られてしまって、もう取り返せないんだから……。
ネプチューンはゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ちょ、ちょっと待ってください!!私は本当にあの花をあなたに渡すつもりでした!!!!」
「……」
我ながら哀れな命乞いをしているが、ネプチューンは全く聞く耳を持たず、少しずつこちらに近づいてくる。
やばい、このままだと戦闘になるかも!!
万全の状態でも勝てるかどうか分からない。それに皆、疲労している。ネプチューンの魔力は今まで出会って来た人の中でも膨大過ぎる魔力を保有していて、近づいてくるだけで魔力の圧に気圧される。
皆まともに動けそうにない。
私がどうにかしないと……!!
「……」
剣を構える私を見てもなお、ネプチューンはその歩みを止めない。
そして私の剣が届きそうな距離まで来た!!
もう……やるしかない!!
いつでも動けるように彼女を警戒する。
が、なぜだろう……向こうからは闘気を感じない。怒っているのは分かるんだけど、攻撃をする気配がない。
いや、油断させて不意打ちを狙っているのかもしれない。
私はネプチューンから目を逸らさない。
「はぁ……まあ概ね想定通りです」
「え……?」
「その力は差し上げます……が、いずれ返してもらうのでそれまで大事に育てておいてください」
「何を言って……」
「まだ聖獣はたくさん残っていますから……それを回収してからでも遅くない。なので今日の所はお互い無かった事にしませんか?それともあなた以外のここに居る全員殺してあげましょうか?」
「――ッ!!」
一瞬、背筋委が凍るほどの悪寒がした。
彼女の言っている事は本気になればその通りになる。
そう思わせる程の威圧。
その後すぐに表情は和らぎ、空を見上げる。
「安心しろ。少なくとも今は殺すつもりはない」
「どうして……?」
「まだ、存在価値があるからに決まっているだろ?もういい?私は帰って報告へ行かなくてはならないんだ」
そういうとネプチューンは倒れているレオ達を鷲掴みして持ち上げる。
「やはりお前は……」
最後に不穏な言葉を残すとレオ達を持って穴から跳んで出て行く。
脚力も凄まじい……。
これが革新派を率いるムーンの幹部……。敵対している保守派は本当に大丈夫なのだろうか。
少なくともあの領域にたどり着くのに何十年もかかりそうだ。
特別な力でもない限り……。
「はぁ……はぁ……良かった……」
私はともかく、他の5人は生きた心地がしなかっただろう。
皆、いつでも戦えるように構えていたけれど、そこにどこか諦めている部分もあった。
戦ったら負ける事は目に見えていただけに命があったことに安堵する。
それにしても私達を活かす意味……か、なんだか嫌な予感がするな。
「まあ……とりあえず、街に戻ろう!!」
「ここから……街……」
行きはあの吹雪だったわけだからね。
だけど今は快晴、今のうちに穴を出て街へ戻れば今日中には付くだろう。山の天気が変わらなければね。
とりあえず来た道を戻る。
その間にネプチューンの魔力を覚えていたマツバはここであることに気づく。
「あの女。もうここら辺には居ないぞ」
「ここら辺……マツバのそのストーカ……センサーはスノードロップの街まで届くんだっけ?」
「そうだな。つまりもう街には居ないってことだ。後ストーカーじゃないからな」
それなら一安心だ。
ただマツバの話だと一度街には寄っていたみたい。
おそらく戦いの結果をギルドへ伝えているはず、この勝負は私達か星の欠片、どちらが先に依頼を達成するかというモノ。
残念ながらあの魔物……基、聖獣を倒したのはネプチューン。
それを伝えられているとなると負けは確定か。聖獣だから殺せなかったと主張できるけど、それは言わないようにとネプチューンにくぎを刺された……無かったことにしなければいけないからね。
スノードロップには申し訳ないけれど、私達はこの街を去るしかなさそうだ。
あまりスッキリした気持ちになれないまま、私達は下山する――するとその時、背後から狼のような遠吠えが聞こえた……?
だけどその声は一度だけで振り返っても何も居なかった……しかし。なんだか懐かしい不思議な感覚を覚えた。




