第195話 海の神様
顎鰐が私の身体に入ってきた時と同じ……またこのフワフワした感覚だ。
今回は海の中のような光景が広がっていて身体の感覚は前回と同じでほとんどない。ということはこの次は……。
後ろから何かの気配を感じる。おそらく女神が居る!!
あの時、聞けなかった話の続きをようやく聞ける。
「あの……!!」
後ろを振り返ったその瞬間、私は凍り付いた。
物理的にではなく、精神的にというか……。あの時の美しい女神様が居ると思ったんだけど……。
そこには半裸で海パンの暗い青年が立っていた。
「えぇ……」
「初対面なのに酷いじゃないか……」
「え、ごめんなさい」
「あ、いいよ別に……期待されて落とした僕が悪いし……」
「……」
「……」
見た目はとてもかっこいいんだけど、なんだか私に似たオーラを感じる。
というか早速だけど、これ以上話が進まない……。顎鰐の時は全然話を聞く時間が無かった。今回もその可能性があるし、どうにかして話題を振らないといけない。
海のような綺麗な景色を眺めながら何か話題のきっかけが無いか探す。
「……」
「……」
「女神じゃないんですね」
「女神が良かった?」
「まあ……」
「女神は美しいからね。男より女の子の方が花があるからね……。でも君だって元々男じゃん」
「……まあ」
仲良くできるかもしれないと一瞬思ったけど、ここまで来ると同族嫌悪しそう。
2人で睨み合っている時間が少しだけ続くと海パン神様の背後に綺麗な女性が現れた。その女性は海パン神様の頭を叩く。
「時間が無いんだから……何、意地張ってるのよ」
「……だって、態度悪いし」
その女性は顎鰐の時に現れた女神様だった。
聖獣の力を取り入れれば会えるとは言っていたからね。ただ前回は女神のような美しい装いに羽衣を付けていたのが、今回は海という事で凄く際どい恰好をしている。
本当に目のやり場が困る!!
「やっぱり女の方がいいんだな」
「……ごめんなさい」
「仕方ないよ。女神は皆、美しいから彼女もそうだった……」
一体誰の事を言っているのだろうか。
今の所、この女神様としか出会っていない。
「ちなみにあなたは何の神様なの?」
「僕は見ての通り海の神」
この海の中のような空間を見てそうじゃない方がおかしい。
それよりも気になるのが先ほどの言葉だ。
「彼女って?」
「そうだね。そろそろ話そうか」
もしかしてその彼女というのが話に関わってくるのだろうか?
そんなことを考えて居ると海の神様は先程とは違ってスラスラと話し始める。
「リリィータートルはこの世界ができて300年だから今から600年前にこの世界に居るまずはそこから……」
そんなに長い話を聞く勇気はない。重要な部分だけ聞く。
海の神様は不服そうな表情を浮かべているけど、とりあえず聞き入れてくれた。
「愛の女神からは君を転生させた神様の事を聞いたんだね」
「この世界から消えた女神様だとか」
「うん、僕の聖獣が誕生した300年代には彼女の手がかりはない」
「そうですか……」
「ただ、英雄ルークが訪れて一度リリィータートルの力を持って行ったよ」
「え……?」
英雄ルーク……確かこの前は勇者だったような。
どっちも意味としては似ているけど、ニュアンスは少し違う。
同じ名前の人が大昔にも居たというのはなんだか不思議な気分だ。
「ルークの名を持つのは世界に1人しかいないしね」
「本当に不思議ですね」
「……」
なんとなく予想していたけれど、私と同じ名前の人が過去で何かを成し遂げていたみたい。
600年前の伝承などは残っておらず、初めて聞いた称号だけどね。
まだ話はあるのだろうか?とりあえず次の言葉を待って居るんだけど……一向に口を開かない。
「それで続きは?」
「うーん、あの時は英雄ルークが知恵を使って民を助けた以外特にないんだよね」
「はぁ……?」
「言っただろ?あの時代に彼女は居なかった……だから教えようにも何も無くてね」
「彼女……?」
「君を転生させた女神だよ」
まさか彼女ってあの女神の事を言っていたのか!?
もしかしてこの海の神様は私を転生させた女神の事を知っているのか。
「君を転生させた女神は魔王教団で魔導王と崇められているみたいだよ」
魔王教団のフルネームは魔導王教団。
その思想は魔導王の復活であり、魔法の神様を現世に呼ぶことだった。
「まさか魔王教団の目的って……」
「魔導王と呼ばれる彼女を現世に降臨させること」
あの女神様が魔導王だったなんて……。
見た目は本当に女神のように美しかった。
ここまで聞くとあまり現世にその魔導王を降臨させたくないみたいね。
もしかして現世にあの女神様が光臨するとこの世界が滅びるとか……?
確かにそれは嫌だ。せめてこの人生は最後まで生き抜きたい。せっかく可愛い女の子だしね!
「ということで僕が説明できるのはこれくらいかな……」
「少ないですね」
「沢山移動させたかったんだけどね……君が今いる火山口に閉じ込められて、リリィータートルの栄養である光も遮られていて封印されていた」
あの暗がりはリリィータートルの背中の花に光合成をさせないモノだったらしい。
そうすることで力を大分失ったリリィータートルは外に出る事ができず、ずっとあの火山口で生きながらえていたという。
ずっと待って居たなんて……本当に申し訳ない気持ちになってきた。
なんにせよこれで魔王教団の目的とその降臨させる者が何なのか分かった。
まさか私を転生させた女神だったとは思いも寄らなかった。
だけどこれからどうするべきだろう……魔王教団を止めたいんだけど、マレフィックやネプチューンは私以上の強さを持っている。
まず正面から戦って勝てない……いや不意打ちでもおそらく無理だ。
「それならハーベスト帝国の中央都市の地下に居る聖獣に合う事をお勧めするよ」
「ハーベスト帝国の地下に聖獣が!?」
「ああ、同じハーベストに居る聖獣を司る神同士だからね」
そんな街中に聖獣が居るんだ。
リリィータートルの力だけでも魔物を引き寄せるのに……大丈夫なのかな。
「500年前の聖獣を送り込んだ……もう少し詳しい話が聞けると思う。後君に少しだけ力を与えるよ。リリィータートルの盾を強化しておいてあげる」
「やっぱりあの魔法ってユリカの魔法ですね?」
「ユリカちゃんは英雄ルークの子孫だからね」
だからリリィータートルの盾……「白百合の盾」が使えたのね。
それにしてもあれ以上に強い魔法になるのか。
それならここまで来たかいがあった。
ちょうど私達が向かおうとしていたハーベスト帝国中央都市。
そこに一番新鮮な情報を知る神様の聖獣がいる!!




