第194話 2体目の聖獣を
突如として現れたのはマレフィックに匹敵する程の魔導騎士ネプチューン。彼女の目的は聖獣を倒す事みたい。
それが達成されたからもう私達には興味が無い様子だ。
しかしながら、条件は飲むんだからこれで満足して欲しい……どうして一向に帰ろうとしないんだろう。
6人全員がネプチューンから視線を外さない。
そのネプチューンはと言えば倒れているレオを不敵な笑みを浮かべて見つめていた。
その様子をじっと覗いていると……。
「貴様ら、まだ居るのか?」
「あ、あなたが先にどこかへ行かないと背を向けられないのよ!」
「そうか、だが……私にもまだやるべきことがある」
「何よ……それ」
「聖獣の死体の回収だ」
リリィータートルの死体の回収……マレフィックも確か顎鰐を回収していたっけ。
それならこの死体を回収したいって言うのもごく自然のこと。
だけど先程話していた事を思い出すと亀の身体を奪われるわけにはいかない!!
せめてあの時のように女神に出会わないと!!
多分私が近づけばリリィータートルは私の身体に流れるはず、ここは吸収してそんなつもりじゃなかったと言って許してもらうという姑息な手を使うしかない。
「それ以上近づくな」
「え……?」
私が聖獣の死体に近づいたら身体に吸収されることは知らないはず……。
しかしネプチューンは私のその行動に違和感を覚えたみたい。
「お前が私に近づく意味が無い。殺されないために刺激しないはず、なのに私に近づこうとしているのは奇妙……そうは思わないか?」
「……」
「ガキだな。その表情が全てを物語っているじゃないか」
どうやら表情に出してしまっていたみたい。
こうなると下手に近づくことができない……それにしてもこのネプチューンはよく見ている。
膨大な魔力、腰差している剣、殺気。
力の差なんてものはやり合ってみないと分からないものだけれど、本能がやめておけと訴えているような……。
だからこそここはもう諦めないといけないか……聖獣の身体の回収は無理だとそう判断した時だった。
亀の身体が眩い光を放つ。
「こいつ、まだ動けたのか……」
すぐにそれに対処するためにネプチューンは剣を構える。レイピアのような剣。
それを亀の頭部に目掛けて放つ――。
亀は何の抵抗もできず、光が収まり再びぐったりと倒れる。
「少々驚きましたが、こんなもの……っ!?」
ネプチューンが何かを言おうとしたまさにその直後だった。
亀の背負う百合の花がネプチューンを巻き込んで花粉を飛ばす。
私達は離れていたから良かったけど、あんなの食らったら花粉症になってしまいそう……。
距離を取って離れていると花粉の中から何かが飛んできた!!
亀の背負っていた百合の花だ。
巨大だった百合の花は小さく縮んで手のひらサイズになっていた。花粉を物凄い範囲に広げて出してしまったからだろうか。
私はそれを優しく受け止めた。
それにしても物理的におかしいけど……。
いやまあ剣と魔法の世界で物理やら科学やらを行ってもどうしようもないか。
「ふぅ……何とか逃げきった!」
「え」
そんなことを考えて居た時、ふと手のひらから妙な声が聞こえてくる。
まさか……と思いつつ手のひらに乗った百合の花を見てみると……。
「どうした?」
「花が喋った!?」
この声は亀のモノだ。
まさかあの場からこんな奇怪な方法で抜け出してくるなんて思いもしなかった。
というか百合の綺麗な花のど真ん中に亀の頭が生えていて気持ち悪い。
「ケホッケホッ……貴様……ッ!!あ……クシュンッ!」
「えっと……その……大丈夫?」
「お前に……クションッ!心配されるほど弱く……ハックションッ!!ない!!」
もしかしてネプチューンは花粉症を発症しっちゃったのかな。
なんか少し可哀そうだ。
クールな見た目とは裏腹に女の子らしい可愛いくしゃみをしながら、花粉で赤くなった瞳を擦りつつ、しかし先ほどの殺気は一切逃さずにこちらを睨む。
「その花を渡せ!!さもないと殺すッ!!」
「ちょっと待って!あの人めっちゃ怒ってるじゃない!!」
なぜか私に飛び火している。
これを渡さないと殺されてしまう……この花には悪いけど、優先するべき命は仲間達だ。
花の中央には亀の顔が浮き出ていてその瞳から涙?雫?が落ちている。
命乞いをしているように見えるんだけど、正直気持ちが悪い。
「分かりました」
「ちょ……!主様!?」
私は花を前に突き出す。
「け、賢明なックションッ!!判断だックシュ!」
「あ、ありがとうございます……大丈夫ですか?」
「大丈夫だ……ハックションゥ!!!!」
花粉でくしゃみが止まらないネプチューンの事を刺激せず、これなら近づいても文句は言われないでしょう。
「こうなったら……!!」
その次の瞬間、亀はまた同じように花粉を散らす。
しかしその勢いは弱く、私の鼻にすら届かない。一体何をしてるんだこの亀……いや花?
そんなことを考えていた時だった突然手のひらの花と亀の身体が眩い光を放ち始める!!
これには見覚えがある。これは顎鰐を倒した時と同じ……!!
まさかこいつ、最後の力を振り絞って力尽きた!?
その瞬間、私の意識がリリィータートルが放った花粉のように飛ぶ――。
「クソ……亀ぇ!!」