第193話 4つの星
これ以上、彼の言葉を聞きたくなったからレオを無力化した。
殺さずに手加減はしたはず、この世界では生きるか死ぬかの戦いを強いられることが多いが、私には前世の倫理感がある。
そのせいで人殺しはしたくない。
人の道は踏み外したくないって獣人になってしまって言える事か分からないけれど……。
フーリア達に危害を加えそうだったのと聖獣にここまで敵対されたのはこいつのせいだしね。少しは痛い目を見てもらわないと!
さて、後は聖獣の誤解を解かないと……。
「ふん、仲間同士で争いとは……そうか、我を捕えた功績を自分のモノにするつもりか!!」
「そうではなくて……聖獣様は騙されているんですって!!」
「騙しているのは貴様だろう!我は真の主のために負けられぬのだぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
凄いパワーで穴から出て来ようとしている。
亀は仰向けになって甲羅の代わりに生えている花を穴の底に沈めている状態でもがく。
けれど、ユウリが掘った穴は深く大きい。亀では昇るのは難しそう。
前世の友達の家に行ったときにバケツの中に亀が入っていたのを見た事がある。そこから出ようともがいていたけど、それにそっくりだ。
まさにそんな感じだった。
この状態なら話も聞かざるを得ないだろう。
ということで私達はここへ来た経緯を聖獣に話した。
頑固な聖獣だし、話しても全く聞いてくれない可能性だってある……そう思っていたんだけど……。
「そんなことが!?じゃあ騙されていたのはワシ!?」
「そ、そうですね……二匹の聖獣……ルミナと顎鰐は恐らく私の中に居ますが、二匹共勝手に力を貸してくれてるんです」
「それでお主は聖獣との一体化を解くためにここまで来たと」
「この依頼であなたを討伐しないと街に魔物が下りてくると言われて……その報酬として色々知ってそうな人に聞けたので」
「あれ?じゃあワシを捕えに来たのでは……?」
「聖獣とは知らなかったので……魔物ならともかく、聖獣を倒す気はありません」
「ほっ……」
聖獣は安心したように一息つく。
もしかしてもう私の話を信じてくれている……?どんだけ信じやすいだこの亀。
単純だけど、嘘は付いていないのですぐに信用してもらう分には良いだろう。
ただ……そうかこれだけ単純だからこそ、あんな奴の話を信じてしまったわけね。
「それで、あなたも聖獣ならルミナと顎鰐を離す方法知りませんか?」
「どうだったか……最近物忘れが激しくてな。だが、確か――」
「何か方法があるの!?教えて!!」
「待て待て!年寄りを乱暴に使うな!」
レオ達が起きる前に早く済ませて、聖獣にはどこか別の所へ行ってもらおう。
背中の花びらを1つ貰って討伐の証拠にすればいいでしょ……。
あ、でも聖獣に合ったらまた神様に会えるとか言っていたような?
同化の解き方が分かったら次はそれを聞いておこう。
そんな次々に聞きたいことがあるんだと再確認していると、リリィータートルはようやく思い出した。
「そうじゃ!同化は聖獣妖狐の能力じゃった!」
「これ、ルミナの力なの!?え、じゃあ顎鰐は?」
「聖獣は死後、ルークの名を持つ者に力が受け継がれる。だが、それは近くにその聖獣の死骸があればな」
「なるほど……」
顎鰐の亡骸がすぐそこにあったから、力を強制的に取り込んでしまったわけか。
しかし私が取り込んだのは上半身だけ……もしかして下半身も取り込まなきゃダメだったのかな。
だからあの時、女神様とお話しする時間があまりなかった……?
確か下半身はマレフィックが持っている。
「聖獣は本来、死んでも生き返る。女神の力によってな」
「でも私の中に……」
「なお、その時代にルークの名を継ぐ者が居れば、その者が死ぬまで生き返れない」
「そんな……」
「じゃがその分、お主に力を貸せる。顎鰐も主の力に慣れるのなら本望じゃろう」
「そう……ですか……」
聖獣は私を助けるために女神が送ってくれたモノだ。
本能的に私を守るように刷り込まれているのなら、力を貸してくれてもおかしくない。
逆に私が女神の敵に回ればこの亀のように敵対する。おそらく道を踏み外した時ように改心させるためだろう。
「なのでその同化を解くにはルミナに語り掛ければ……」
「それができないんです。声が聞こえなくなってしまって……」
「ふむ、それじゃあワシには無理じゃ!妖狐に精通する妖魔族に聞くんじゃな」
「そうですか。後もう1つだけ聞きたいことがあります」
「なんじゃ?」
どういう原理か分からないけど、聖獣に合えば神様の話を聞ける。
そのことについて聞こうとしたまさにその時だった。
昼間なのに何故か太陽の光が届かないこの不思議な空間の空から黒い小さな星が亀の真上に落ちてきた。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッ!?」
亀が断末魔を上げる。
この穴に入る前、崖から見下ろしても底が見えなかったのに、いざ入ったら底は思ったよりも浅かった。
この穴の中から空を見上げても同じく暗くなっていて空が見えなかったはず。
だけどその黒い星が落ちてきた後、暗がりの空は晴れ、太陽が姿を現す。
まるでこの時を待って居たかのように。
「ターゲットの殺害を確認、聖獣は死んだ」
「ちょ……!!何して……!!!!」
「……」
「――ッ!?」
叫ぶフーリアを鬱陶しそうに睨みつける……それは、ネプチューンだった。
帰ったと思ったらずっとあの黒い空の上で待機していたのか。
「お前を殺すつもりはない。ここは交換条件で場を納めないか?」
「どういうこと?」
どういう訳かネプチューンに戦う意思は無いみたい。
「この聖獣を殺したのは私だ。星の欠片側である私達の勝ち、お前達はその承認になり、これを聖獣ではなく魔物として扱う事」
「なんでそんな……」
「条件を飲まなければお前以外を殺してやる」
「――ッ!!!!」
その冷たく重い言葉に固唾を飲む。
まだこいつとはやり合わない方が良い……マレフィックと同じ気配がする。
リリィータートルには悪いけど、この条件は飲むべきだと判断した。
「わ、分かった。でも一つ聞きたいのだけれど」
「なんだ?」
「あなたは一体何者なの?」
「魔導騎士革新派にして魔王教団のリーダームーン様の直属の部下、四屑が1人ネプチューンいずれお前を迎えに来る者だ」




