第192話 ユウリの策
ルークが1人で戦っている。
私も本当はあの子の隣で戦いたいんだけど……力が及ばないせいでこうして離れて戦う事を余儀なくされた。
あの子は1人先へ行ってしまう。もしかしたら私じゃもう追えないほどに……。
そんなのは嫌だ!!
あの子は1人で聖獣を何とかしようと考えて居るんだろう。
だけどあの子を1人にはしない……幼い頃の空の親友をひとりになんてしたくない。
そんなことを考えて居た時だった。ルークが取り込んだ聖獣……顎鰐の力を使って大きな岩を亀の聖獣にぶつける。
今までにない凄まじいパワーを発揮していた。
「おわっ!?凄いパワーだな……」
「顎鰐って言ってたね?やっぱりルークはその力も取り込んでたんだ!」
「だが、このままだと……」
ルークと聖獣の戦いは激しいもの。
聖獣が暴れれば地面は揺れ、マグマが溢れ出す。
そのマグマを炎の魔法で操って聖獣へぶつける。聖獣はマグマの熱さには耐えられる。溶岩をぶつけられても身体が後ろに揺さぶられるだけ。
どれだけ硬いのよ……。
まあいい、私達はできる事をやるだけ!!
ユウリ以外の4人で聖獣の懐まで突っ込んでいく。
「ちょ、皆!!離れてっ!!!!」
ルークは私達の突発的な行動を見て驚いている。
多分なんの作戦も無しに突っ込んでいるように見えているんでしょうね。だけど私達だってルークに頼らなくても戦えるって所を見せてやるんだから!!
「余所見をするとは何事だ!!やはりお主は相応しくない……!!」
「またそれ!?」
花に魔力を集めた渾身の一撃……。アレは強化されたルークでもまともに食らったら消滅する。
幸いなのはルークが私達の対局に位置する所で攻撃を受けてくれているということ、聖獣を中心にルークが反対方向で私達へ攻撃が向かないようにしてくれている。
私達は狙われていない。
この状況を待って居たわ!!
ユウリの作戦通りに私は魔剣を取り出す。
「魔剣アスタロト吹き荒れて!!」
剣に黒い風を纏わせてそれを振るうと暴風が起こり、聖獣を襲う。
「よし来た!聖剣ライコウ!!ビリビリやっちゃえー!!」
剣に雷を纏わせたショナは私の風と同時に放たれる。
「これで仕上げだ!!水神刀ワダツミ!天を穿て!!」
最後にストーカー男による水の追加で私達の放った技が合わさり、聖獣の周りに嵐が吹き荒れる。
すると小さい竜巻ができて聖獣を覆った。
聖獣の亀が背負っていた花は魔力の吸収ができなくなったのか、光を失った……?
花に集まっていた魔力が途切れて収まる。
「なんだと!?」
聖獣ですら驚いている事態、まさかユウリはこれを狙って……?
さらに聖獣の足元がボコッとヘコむ。
これはユウリの最後の魔力……。彼女はもうこれ以上、身体の一部を魔力へ変換できないし、溜めた魔力も無い。
ここから魔法を使うとなると寿命を消費することになる。
だからもう彼女には頼れない。
ここはルークの手を借りないといけない。
「ルーク!!亀を思いっきり殴って!!」
「……え?はい!?」
「いいから早く!!」
「わ、分かりました!!」
ルークは驚いているみたいで何故か口調が丁寧だった。
だけどすぐに私達に協力してくれる。炎を拳に纏わせて、さらに顎鰐の力を乗せて聖獣の頭を殴った。
すると大きな亀の身体はヘコんだ地面のさらに下へ沈んでいく。
「空洞!?」
ルークの言う通りユウリは最後の魔力を使ってやったことは地面をへこませるために聖獣の足元の地面をスカスカにした。大地を操って移動させている。
これが彼女の作戦、嵐で聖獣を閉じ込めて動きを封じる。何故か魔力吸収が止んだのは想定外だったけれど、その中で穴に聖獣を閉じ込める!
殺すのがダメなら動きを封じてしまおうという判断。
動けなくなった亀の聖獣を見てルークが私の方へ近づいてくる。
「おおっ凄いね?」
「ふっルーク、あなただけに頼っているだけじゃないのよスイレンとその他はね!」
「その他って……」
さすがにここまでやるとは思っていなかったのかルークは感心していた。
正直すごくうれしかったわ!
なんだかんだ冷静な判断ばかりでここまで驚くことは無かったからね。
ようやく約に立てた気がした。
「貴様ら……よくもこんな……!!」
聖獣は地面に埋もれてあられもない格好をしていた。声からして多分雌なんだよね。
亀って何年生きるか知らないけど、これだけ大きいとすごく長生きなんでしょうね。よく見てみるとこの花には見覚えがある。
ルークとユリカが使った防御魔法みたい。
そんなあられもない姿になっている聖獣の前にルークが立つ。
「話を聞いてくれませんか?」
「お主に話すことは無い!!」
「ちゃんと話を……!!!」
しかしその時だった。
少し離れた所から炎の攻撃が飛んでくる。
それをルークが聖獣に当たる直前で受け止める!!
「レオ!!」
「チッ邪魔すんなよ」
「あなたのせいで面倒な事になった。挙句の果てにこの聖獣も……さすがに許せない!!」
「はっ!ようやくか……俺はこの時を待って居た。俺が得意な炎で俺を倒したお前を今度こそ……!!」
「炎帝十字斬!!」
ルークは怒りの表情を崩すことなく、そのまま剣を振るった。
超高速の剣はもはや私では捉えきれない。
ただの握力で振っているだけの技術もへったくれも無い剣術……しかし振り向くとレオともう一人の星の欠片の女はその場に倒れていた……。
これが手加減無しのルークの強さ……!!
追いつけたと思ったのに、私はまだまだなの……?




