第189話 焔と炎
聖獣……この大きな亀が……?だとしたら倒すわけにはいかない!!
サツキは当然そんなことを伝えられて攻撃の手を止める。ストーカーしてサジタリオンの家まで付いてきた時は驚いたけど、あの話を聞いていたからこそ思いとどまってくれた。
しかし攻撃を止めたのは万が一それが本当だったらという話。当然、こんな怪しい男の言葉を鵜呑みにするわけにはいかない。
あくまでそうであるのならという過ちを犯さないため。
「聖獣だと?どうしてそう言い切る?」
サツキはネプチューンを試す。
ネプチューンは海のような色をした長い髪を靡かせてクールに応える。
「それは私が聖獣を狙っているから……これでは不足?」
「……だったらどうして俺の攻撃を止めた?あのまま撃たせれば――」
「死にませんよ?その程度の攻撃で」
「……なんだと?」
「リリィータートル、この世界において最高硬度を誇る魔法の花を背負った亀。その程度の攻撃ではビクリともしないでしょう」
リリィータートル、白百合の亀?……ユリカの「白百合の盾」と同じ名前。
少なくともその魔法に関係のあるもの。さらに固有魔法……。
「不死鳥の炎」と同じ条件が揃っている。
嘘と断定するどころかアイツの言っている事が真実の可能性の方が高そうだ。
「じゃあお前ならあれを止められるのかよ!!」
星の欠片のAランク冒険者の2人がリリィータートルと対峙する。
おそらくあの花の攻撃をもうさせないために魔力を溜める隙を作らないようにしているみたい。
だけどそれも時間の問題……多分このままではあの亀には敵わない。かといって依頼の達成を競う勝負を投げて協力し合うわけにもいかない。
「まあ私はそろそろお暇しますがね」
「……お前の狙いはあの亀なんだろ?」
「それはあなた達に任せますよ」
「俺達がアイツを殺すわけがないだろ?」
「そうでしょうか?聖獣には一言、言っておきました。今からあなたを殺し、魔法を奪おうとする野蛮な冒険者達がやってくるので気を付けてくださいね。と」
「……まさか俺達が来るのが分かって……!?」
ネプチューンはそれだけ言い残すと穴から出て行く。
本当にこれ以上何かすることは無いみたい。しかも星の欠片の冒険者を置いて行ってしまった。
マツバの言う事が正しければおそらくこの人が星の欠片の3人を先導していた張本人だ……なのにリリィータートルにわざわざそんなことを伝えるなんて……。
仲間じゃないの……?
あいつの言っている話が本当なら、あの亀の狙いは私達!!
亀はAランクの2人の冒険者だけじゃなくて、当然こちらにも牙を剥く。
口に魔力が集まっている……。魔法が飛んでくる!!
しかし花に魔力を集めていた時よりは遥かに少ない。おそらく水の魔法だろうし、サツキに防ぐのを任せる!!
私はあの亀を止めなくきゃいけない!!
「サツキここは任せるねっ!多分一番頑丈なのは獣人になっちゃった私だから、私が止める!フーリアとショナは私が攻撃を加えた後に追撃をお願い!!」
「おい!ちょっと待てルーク!!」
「待つのはお前だサツキ!ブレスが来る!!」
「くっ……ワダツミ!!」
マツバに止められて仕方なくその場に留まり仲間を守ろうとする。サツキには悪いけど、様子見も兼ねて私が向かうべきだろう。きっとサツキは男の自分が確認するべきだと言って向かって行ってしまうだろうし。
聖獣とは一度戦ったことのある私が最初に様子を見るべき。
そんなことを考えて居た時だった。
「待ってサツキ!あの魔力は!!」
「え、ちょ!?前に出て来るなユウリ!」
ユウリが何かに気づいてサツキの前に立つ。
そして次の瞬間、大地の防御魔法を展開する。そこへ亀のブレスが襲い掛かる。
問題はそのブレスが水ではないという事。
目を開けていられない程の眩い……これは光!!
「聖魔法!?」
驚いて私はその場に立ち止まる。
私は亀に向かって行っていたからその攻撃に巻き込まれないが、サツキ達は違う。
サツキは水の剣でさっきみたいに吸収してカウンターを狙っていたはず。しかしそれは相手の攻撃が水であった場合しかできない。
もしあれをまともに食らったら人間の身体では耐えられない。
しかしそれはユウリが大地の魔法で防御して何とか防いだ。さすが攻撃も守りも一流のユウリ。しかし彼女はその爆発的な魔力を一時的にしか使えない。彼女の魔力はほとんど空になってしまう。
こうなるとユウリの超火力に頼れない。
「くっ……しまった!!」
私が「白百合の盾」で防いでいればユウリをまだ温存できたのに!!
そんな後悔をしているとそこへ近づきすぎた私へ攻撃の魔の手が向かってくるのは必然だった。
亀は私に目がけて爪で攻撃してくる。亀だけど背負っているのは花、甲羅よりも軽いから動きが速い!!
「このっ!!」
私は炎の魔法で亀に反撃する。
その時、少し離れた所から炎の魔法が私の魔法と合わさって威力が増した。
亀はその炎に焼かれてしまう……身体が大きいから全体に行き届かないが良いダメージが入った。
でもこれは私の望んでいた結果ではない。
「一体だれが……!!」
炎を追加した方を見るとそこには――
「よう、久しぶりだな。クソ女」
「あなたは……?」
なんでそんな風に言われなきゃいけないのか疑問に感じているとそれは星の欠片Aランク冒険者だった……。彼は厚いマントを放り投げる。
そしてその男の正体が分かる。
星の欠片のAランク冒険者としてこの勝負に参加した人物、その1人は……。
ジャスミンの街から少し離れた場所で戦った炎の魔導騎士!!
「レオ!!」




