表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/380

第187話 暗闇の大穴


 凄まじい勢いの水が私達の頭の上を通り抜ける。


 範囲も異常で街から相当離れた所にあるこの場所からでもこの水が見えているんじゃないかな?

 

 そう感じる程、大量の水……。

 

 これは魔法?それとも何か毒とかあったりして……?


 こういう時こそよく利く鼻を使う。

 水からは何も匂いがしない……と思っていたんだけど、なんだか鉄のような匂いを捉える。

 

 もしかしてこれ……。


 空を見上げると水は勢いを落として徐々に消えていく。雨のように水が降ってくるけど、痛みも無いし、勢いも普段の空から降ってくる雨のように弱い。

 ただ、水とは別にあるモノが一緒に降ってきた。


 それは人だった。


 大柄の男。


 見たことのある服を着ていてあまり乗り気にはなれないが、助けるべきだろう。

 尻尾を使ってキャッチしようとした時だった。


 サツキが降ってくる水を操り、その男を水のクッションでキャッチする。

 水を使うのが得意なサツキだからこそできる芸当だ。男をゆっくりと下ろして状態を確認する。


 しかし――

 

「死んでる……」

「ええ!?この人って確かAランク冒険者の吹雪避けになってた人だよね?……どうしてこんな……」


 ショナは悲しげな表情をその荒くれ冒険者の亡骸へ向けていた。

 私達はこの人に散々嫌な事を言われたけど、こうも簡単に命を落としてしまうとさすがに可愛そうだ。


 おそらくAランク冒険者の吹雪避けになって、体力も相当消耗していたはず。

 そしてこの水が決定打となり、命を落とすことになった。


 星の欠片にとってランクの低い冒険者の扱いはこんなものなのだろうか?

 

 もしそうなら、絶対にこんなギルドが花園を抑えてトップに立ってほしくない。


「というか、この人が飛ばされたという事は……この中に……」


 底が見えない大きな穴の中を覗き込む。

 太陽が昇っているというのに不自然なほど何も見えない。こんな中に飛び込むなんて、正直足が竦む。


 そうなんだろうけど、一応マツバに再度尋ねてみた。


「魔力はこの穴からじゃないよね?」

「残念ながらこの穴からだ」

「……」


 そうだよね……私、高い所とか海とか苦手なんだよね。

 高いところに居ると足を踏み外して落下しないかとか不安になるし、海は暗いし、水のせいで上手く魔法が使えなくなる。

 

 うぅ……この中に飛び込まなきゃいけないのか。不自然なほど真っ暗なクレーターに飛び込むのは暗がりの海にダイブするようなそんな感じでとてつもなく嫌だ。

 

 魔法でゆっくり下りられるからどれだけ深くても大丈夫……まあこの下がマグマだったり、ずっと何も無い奈落だったら終わりだけど……。

 しかし男が吹っ飛んできたからにはそういうわけでもないんだろう。


「行くよ皆!!」


 ショナの掛け声と共に全員で穴の中へ飛び込む。穴の暗い部分に身体が入って行く。何も見えなくなるのならと目を閉じて神経を周りに集中させる。

 

 どうせ何も見えなくなるであろう暗がりなら視界をあえて絶ち、匂い、音などに意識を向ける。


 しかしそこで奇妙な事が起きる。瞼を閉じているから見えないものの、瞼の裏に光が少し入ってくるのを感じる。

 

 朝、目が覚めそうな時に何度も目を閉じる事がある。その時に太陽の光が反射して眩しくて眠れない。まさに今その状態だ。


 恐る恐る目を開けたその時――


 ガクッ。


 足が何かに触れてそのまま体制を崩してしまう。

 

 地面……?あんなに暗い穴だったのに……?

 

 まだ視界が闇に覆われてから1秒も経っていない。早すぎるが、私は目を開ける。


 そこはまるで海の中に居るような神秘的な光景が広がる空間があった。

 海の中でも太陽の光が強いとエメラルドグリーンの綺麗な水の中が見えたりする。


 もちろん綺麗な水の中や熱帯の海に限るんだけど、何故かそこは水の無い海の中のような不思議な光景だった。


「どういうこと……?」

「わぁー!綺麗な場所だねっ!」

「まあ確かに……ってあそこ!!」


 呑気な事を言っていると思ったら次の瞬間、フーリアは私の後ろを指差す。

 恐る恐る後ろを振り返るとそこには、巨大な白い花を甲羅の代わりに背中に乗せた緑色の亀が居た。


 そしてそれと対峙するのが私達の先頭を行っていたAランク冒険者達。


「くっ……あの馬鹿はまだ戻ってこないの!?」

「俺達の壁になるしか脳が無いのに、それすらこなせないとは情けない」


 最後の男の声……どこかで聞いたことはあるような……?

 

 先ほど亡くなったあの冒険者の事を言っているのか。

 まさか死んでいるとは知らず、こんなことを口に出して……もしあの光景を見たら……。


 いや、きっと何も感じないかもしれない。

 そう感じさせるほどに彼らは冷淡だった。しかし私達が驚いたのはもう1つ別の違和感があったからだ。


 ターゲットの魔物、Aランクの2人の冒険者。そこまではここに居ても何もおかしくないんだけど……。

 

 中に後一人いた。


「あらら~?。来てしまいましたか」


この声……もどこかで聞いたことがあるような……?


「お前は……誰だ!!」

「これはこれはぁ~。保守派の新星……サツキ殿ではないですか」

「どうして俺の名前を……!?」

「良くも悪くも有名な方ですから」


 サツキの名前はここ最近まで全く知らなかった。

 一般人はなかなか知らず、だけどある界隈では有名人……。それは恐らく魔導騎士(エーテルナイト)だろう。

 

 という事はこいつは……!!


「私もあなたと同じ魔導騎士(エーテルナイト)ですよ。ふふふ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ