第182話 違和感
ジャスミンの街にはもうないけど星の欠片のギルド内は小汚い感じだった。
荒くれの冒険者が集まり、酒場のようなお酒の匂いが充満していてとてもじゃないけどそんな所で依頼を受けたいとは思えないもの。
しかしここスノードロップの街の星の欠片のギルドはとっても綺麗に内装が整えられていて、荒くれの冒険者が多いのに似つかわしくないピンクの外壁やお洒落な灯が置いてある。
美意識が高いのかな、とっても綺麗で思わずは私は唖然としてしまう。
「えぇ……」
ここに住んでいる人はギルドの扉をぶっ壊したとは思えないと感じてしまう程に綺麗だった。よくこんなきれいな所で依頼を受けてる冒険者が人の家の扉を蹴破るわね。
後マスターが女性だからか内装が可愛いし。
「ふふ、いいでしょう?これがギルド星の欠片の支部シリウスよ」
「うぅ……女子力で負けてますよスノードロップさん!!」
何故か誰よりも悔しそうにしていたのはショナだった。
ギルドの様子を見て完全に負けを認めている……というかあの目は少しだけこのギルドを気に入っているね。
どんなギルドかはともかく、内装が可愛いとそう言う物が好きな人を寄せ付ける。
荒くれの男性冒険者が多い一方でスタイル抜群の女性冒険者も多い理由がそれか。女性受けするギルドの内装……。
そりゃあ全然改修もされず、寒い街で風が侵入してくる汚い花園のギルドへ入りたい人は居ないだろう。
そんな圧倒的な敗北を期している状況の中、スノードロップは笑う。
「ふふふ、ギルドとは見た目ではないのよ」
「それは私も同感よ。しかしマスタースノードロップ、過ごしやすさというのはそのギルドへ通う時のモチベーションになるわ。あっ雪女は古い人間だからモチベーションなんて分からないかしら?」
「あらあら、マスターシリウス……元はと言えばあなた達がギルドを壊すからでしょ?」
「証拠は?自分達でやってるんでしょ野蛮な雪女」
「……あらあら~」
ギルドマスター同士だというのにここまで仲が悪いとは……。
ジャスミンとリゼルとはまた違う感じで常にバチバチみたい。
「こんなギルドマスターより私達の所へいらっしゃい」
「えぇ……」
「今なら一ヶ月、飲み物飲み放題よ」
「うぅ!!」
「依頼も良いのを沢山回すわ!」
「うぅ……花園が負けた……!!」
既に星の欠片の魔の手に掛かってしまったショナ。
そんないい話に乗って今後何を要求されるか分かったものじゃない。
騎士のような凛としたギルドマスターは見た目こそ真面目そうに見えるけど、スノードロップとの会話を聞く限りまともじゃない。
そんなまともじゃないシリウスは私達をギルドの掲示板の前へ連れて来る。
それをみたスノードロップは眉を顰める。
「あらあら依頼の多さを自慢したいの~?そんなことでしか私に勝てないのだから仕方ないけど」
「なわけないでしょ雪女。勝負は依頼を達成した数で決めましょう」
「……そっちのギルドの依頼をこの子達に受けさせると?」
「なんならそっちの依頼でもいいわよ?あ、でも少ないか~」
「……脳筋女」
「なんか言った?雪女」
2人はガミガミと言い合いながら勝負の内容を決めている。
2人とも喧嘩しているように見えるんだけど、なんだろう……そこまで仲が良くないわけじゃないのかな?
嫌味を言い合っているけど、そこに悪意をあまり感じない。
いや相手を陥れようとする意志は感じるんだけど、まるで昔は仲が良かったみたいな……なんだか複雑な空気が2人の間には流れていた。
「それじゃあどうするのよ」
「そうね。星の欠片にある一番難しい依頼を最初に達成したら、そのギルドの勝ちにしましょう」
「はぁ……?」
スノードロップはそう提案するがシリウスはあまり快く思っていないみたい。
どうやら依頼の数をこなす方が良いみたい。
しかしそこへ荒くれの冒険者が割って入ってくる。
「マスター!俺はそれでも構いませんぜ!」
「しかし、これは……」
「俺達を信じてくださいよ~ククク、そっちの方が……色々と……」
「どうしたの?」
「え?あ、いえ!なんでもありません!!」
逆に荒くれの冒険者はそんな分かりやすい勝負に乗ってくれる。
私達からしても依頼の数をこなすよりも一番難しいのを1つ選んで先にクリアした方が勝ちで良い。
敵ギルドの依頼を沢山こなすなんてなんだかいい気持ちしないしね。
ただ……なんか企んでいそうだ。
「はぁ……分かりました。勝負の内容は一番難しい依頼を先に達成した方が勝ちでいいわね?」
「私が提案したのだからいいに決まっているでしょう。脳筋は1分前に言ったことも忘れるの?」
「いちいち鼻に付くわね……うっ……!!」
すると突然、シリウスが頭を押さえて苦しみだしだ。
どうしたんだろう……急に……。
なんだか苦しそう……?まるで何かに抗っているような。そんな様子を見たスノードロップは険しい顔になる。
「来たわね」
「え?」
その言葉の意味を私達はすぐに理解することになる。
シリウスはまるで人が変わったかのように表情や声色が変わる。
「ふん、本当にそんな勝負でいいのか?」
「ええ……シリウスそれでいいわ」
「負けても文句言わないように」
「分かってるわよ」
先ほどの悪態を突いていた時とは違い今度は淡々としている。
こっちの方がまだ仲が悪くないように見える。しかしこっちの方がなんだか不安になる。先ほどみたいに言い合ってくれていた方が楽だった。
先ほども言ったけど私達はこの街へ来てまだ一度も休んでいない。長い馬車の旅からすぐにギルド星の欠片との勝負が始まろうとしていた。
何を狙っているか知らないけど絶対に勝つんだから!




