第180話 狙い
フーリアとショナは挑発されて相手の誘いに乗ってしまった。
結局あの星の欠片の人達は私達の話を聞くことなく自分達のギルドへ戻って行った。おそらく、訂正される前にギルドマスターへ報告したかったんだろう。
「フーリア……ショナ……」
2人には申し訳ないけどさすがに呆れてしまう。
仲間を悪く言われたり、何か被害があればそう言った行動にも多少納得できるんだけど……。
確か前にも同じような事があった……二度目はないと思っていたんだけど、どうやらそれは私の思い違いだったみたい。
というか内容がただの胸だからなぁ……。
去っていった星の欠片の冒険者は最後に「約束は守れよな」とニヤニヤと笑みを浮かべていたのを思い出すとむしゃくしゃしてくる。
相手の狙いは私達をこのギルドから追い出す事らしい。そんな挑発に乗る必要はないのに……。
しかしスノードロップはこれが狙いだったみたいなんだよね。
どうしてこんな面倒な事を私達に押し付けるのか。私達が勝てばこの状況から抜け出せるとでも思っているのかな。
だとしたら多分逆効果だろう。私達が勝てば、より警戒されて嫌がらせも過激になるだろう。
そんな事を考えながらギルドの掲示板を見つめる……こっちのギルドへは依頼も全然来ていない……。
その光景にため息を付く。
「はぁ……」
「ルーク、私達は確かに判断をミスしたかもしれないわ」
「どうしたの急に……フーリア?」
「でもそれはね?余裕がある人だからこそ言えるのよ」
「何の話?」
「……くっ!だから!!ルークやユウリみたいにそんな大きなものを持ってる人には余裕が無い気持ちはわからないってこと!!」
「なんでそうなるのよ」
「はぁ……分からないなんて変わってしまったわね」
フーリアは幼い頃の私を知っている。
だけどそれ以降はエステリア学校へ入学するまで知らない7年がある。
だからフーリアはそれを言える立場ではないはずだ。少なくともあの頃のフーリアはもっと甘え上手だった!!
一番変わったのはこの子だ。
そんなことを訴えてやろうと考えたんだけど、彼女の目を見てそれを諦めた。
なんかすごく怖かった……。
まるで否定するなという圧をヒシヒシと感じ取る。
「ルーク、あまり言ってやっちゃダメだ」
その言葉を口にしたのは前世で女の子だったというサツキだった。
もしかして彼……いや彼女にもそう言う経験があったのだろうか。
「アンタはそういうデリカシーはあるのねストーカーだけど」
「ストーカーじゃないって!!」
サツキとフーリアの距離が急に近づいたような気がする。
ずっと仲良くするようにと望んでいた。今目の前にその光景が広がっているというのになんだろう少し胸が苦しいような。
まさかこれは大切な友達であるフーリアを取られるかもという苦しみ……?
それとも――
「うぅ……分かったよ。ごめんなさい」
「なんで泣いてるのよ?ってルークが泣くと尻尾の温度が低くなるんだけど!!泣かないで!!」
「くぅぅぅ……!!!!」
何と不便な身体になってしまったんだ……はやくルミナを引き離さないと!!
「馬鹿な事を言っているのは良いが、そろそろどうして戦いを容認したのか。それをスノードロップさんに聞かないか?」
スノードロップが説明をしてくれるところで乱入してきたからね。
せめてどうしてこんなことをしたのか、説明を聞かないと納得できない。
「ふむ、あなた達の愉快な会話を聞いて、それで忘れ……楽しかったのだけれど、さすがに納得できないわよね」
「当たり前です!ユウリがあなた達のギルドメンバーに魔法を教わっていましたが、関係のない俺が聞いても分かりやすく、尚且つ完璧な魔法でした」
「よく見ているわね?マツバくんだっけ?ユウリさんの事が好きなの?」
「……彼女の身体の症状を気に掛けているだけですよ」
「魔体症か」
「……それも気づいていたんですね」
ギルドマスターを任されるだけはあるということか。
魔体症だと分かっているのなら猶更戦わせてほしくなかったんだけどな。
「その子は魔体症の症状を克服しているのでしょう?」
「どうしてそこまで……」
「本来魔体症の子は身体の一部を延々と魔力へ変換してそれを放出してしまう。だけど彼女にはそれがない。変換も血などの体液、または余分な脂肪と言った所かしら?」
そこまでお見通しだとは思わなかった。この人の目は本物かもしれない。
「君達には彼らとの正式な試合を受けて欲しかったの」
「……」
「我々も実力には自信がある。しかし、君達は少々特別だとジャスミンから聞いた」
あの手紙にはそんなことが書かれていたのか。
どうやら、リリィが書いてくれた手紙がこんな結果を引き起こしたらしい。
簡単にギルドへ入ることが出来た半面、まさか面倒ごとに巻き込まれるなんてね。
「その特別な力を見せびらかして欲しいんだ」
「な、なんでそんな……」
「おそらく彼らはそれを狙うだろう。そこに私は勝機があると確信しているんだ」
「そんなことを言われても……」
「それとも、この話を下りるか?それならその獣人化を解く手がかりも教えてやれないな」
「うぐっ……」
こうして私達はスノードロップの勝手な作戦に巻き込まれることになった。




