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第177話 スノードロップ


 ギルド花園の支部フローレの外観は一言で言えばボロ屋だった。

 そしてそれに負けじとも劣らないのが内装……。

 

 外でもないのに地面から伸びた木のツルが見えていて壁を覆っている。窓はガタガタで寒い雪の街の風を通している。

 天井を見上げると少しだけヘコんでいるので多分、雪掻きが行き届いていないから積もっているんだろう。

  

 ただそんなボロ屋だけど、ギルドのメンバーは意外にも多い。


 いやボロくて小さなギルドの中だから多く見えているだけかもしれないけど……。

 皆、厚着で服を着こんでいた。

 ハーベスト帝国は1年中気温が穏やかだと聞く、そのためフーリアはとても軽装で下は長いズボンとまだマシなんだけど……。

 

 上は肩を出したセクシーなものを着ていた。


 綺麗な足を見せるのはいいが、寒くないのだろうか?


「何よ?」

「尻尾……もう一本貸そうか?」


 既に私の尻尾はサツキとフーリアに2本取られている。ショナはこのパーティの会話担当なので、尻尾を手放して率先して話を聞くことに転じている。


 ユウリは寒くないみたいで私の尻尾をそこまで必要としていない、だから後3本余っている。

 多少はこれでよくなるだろう。


 マツバは元よりそこまで必要ないみたい。

 

「し、仕方ないわね。借りといて上げるわ」

「はいはい、でも強く握らないでね」

「分かってるわよ!……はぁ~…………」


 我慢しているのが丸分かりなくらいに震えた声をしている。

 頬に尻尾を擦りつけて気持ち良さそうなんだけど、それは私から生えている事を分かっているのだろうか?


 少し恥ずかしいのだけれど……。


 そんな様子を見ていたギルドマスターのスノードロップは上品な笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、愉快な方達ですね」

「あ、すみません……それでお話なのですが……」

「まずは手紙を読んでもいいですか?」

「あ、はい……」


 手紙にはリリィが私達を紹介した理由が書かれているはず、それを読んでから判断するみたい。

 黙々と読んでいるスノードロップ……その表情には一切の曇りがない。


 そしてすべてを読み終えるとスノードロップは手紙をテーブルの上に置く。


「なるほどです」

「ど、どうですか?」

「まあいいですよ!」

「本当ですか!!」

「ただ……」


 快い返事を貰えた矢先に何やら不穏な文言が……。 

 おそらくこの身体に付いて知っている事を教えて欲しいと書いてあったんだろうけど、スノードロップは何かを言いたげだった。

 何か問題があるのだろうか。スノードロップは私の耳と尻尾を一瞥する。


「確実にその力を取り除くのは難しいですね」

「そうですか……」

「しかし!緩和する方法はあります!!」


 難しいと言った直後にすぐに訂正する。

 なんだこの人は……上げて落としてまた上げてきたぞ。


「まあしかし、それには1つ条件があります」

「じょ、条件……?」

「はい!」


 なるほど……初めからそれが狙いか。 

 何か交換条件があるからこそ、まどろっこしい事をした。穏やかで優しそうなのに狡猾な人みたい。


「それはジャスミンの街の時のように私達を助けてください!!!!!!!」

「え?」


 何を頼まれるのかと身構えていたらどういうお願いなんだ……。

 救うと言っても何をどうすればいいのが具体的に教えてもらいたい。それにこのギルドに問題なんてあるのだろうか?


 私はギルドを見回す。


 当然一瞬でギルドの内装が変わっている訳もなく、先ほどと同じ光景が広がっている。


 ボロボロの建物……。

 

 なるほど、問題だらけみたいだ。


「掃除とかですかね?」

「あ、いや……そう言うのではなく……いやある意味掃除かも?」


 何が言いたいのか率直に応えて欲しいんだけど、スノードロップはまるでこちらを試すように様子を伺っている。


 本当に素直に言ってくれればいいのに!!


 そんなことを考えて居た時だった。


 ドォーンッ!!


 ギルドの扉の方から何やら大きな物音がする……しかし振り返った瞬間には遅く、ギルドの扉が吹っ飛んでくる。なんか……デジャブだ。

 

 この国のギルドの扉は吹っ飛ばないと気が済まないのだろうか?

 扉の向こうにはおそらく蹴って飛ばしたであろう男性の姿が見える。強面の見るからに悪そうな人だ。


「おいおいおい、ここに若いガキが入って行ったらしいなァ??」

「噂をすれば……何の用です?」

「あ?ババアに興味無いんだよォ!!!!」

「……」


 ババアと呼ばれたスノードロップはずっと穏やかな表情を崩さない。

 

 が、フーリアのわずかな表情に気を付けて見ていた私にはわかる!!スノードロップはブチギレていると!!!

 

 ただマスターを務めているから、そんな事では動揺しない。それどころか嫌な事を言われても落ち着いているように見せる。

 

 ギルドマスターの器なのは確かみたいだ。


「そいつらかァ!!」


 そんなスノードロップの事なんてお構いなしにその男は私達の方へ向かってズカズカと寄ってくる。

 

「何の用でしょうか?」


 サツキが率先して話を聞く。

 ジャスミンの街では女だからと馬鹿にされたのを覚えているけど、今回はサツキやマツバも居る。


「ふん、こんなギルドはやめて俺のギルドへ来い!!」

「え……?」


 何を言われるのかと身構えていたら内容は予想外のものだった。

 

「見てみろこのギルドをボロボロで誰も直そうとしない。雪の街だというのに風が常に入ってきて寒くまともに暖も取れねえ!!」

「……」

「俺達、星の欠片の方がいいぜ?」

「いや、俺達はマスタースノードロップさんに話があって――」


 なんとか穏便に済まそうとしていたサツキ、ギルドに入るんじゃなくてお話を聞きに来たと説明をしようとしたまさに次の瞬間。

 

 彼もギルドの扉の如く吹き飛ばされていた。


「ぐっ!?」

「な、何を……!!」


 突然の事にいつも大人しいマツバが声を荒げる。


「あぁ?このギルドにしか用が無いのなら勧誘は終わり、お前達が星の欠片に入らないのなら興味無ぇ!!ボロギルドと一緒に凍えて死ねよ!!がはははははははっ!!」


 突然現れて人の話も聞かず、一度断りを入れただけで人を攻撃してくるなんてなんて野蛮な冒険者ね……。

 

 その男は笑ってギルドを出て行く。

 

 なんなんだアイツ凄くムカついたんだけど!!


 男が去ったのを確認して私は急いでサツキに治癒の魔法を施しに向かうのだった。

 

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