第172話 白百合の盾
再びハーベスト帝国へやってきた私達は中央都市へ向かう前にジャスミンの街へ寄った。
ここまで3日はかかる距離だけどサジタリオンの馬を強化する魔法を使う事で半日で辿り着くことができる。
相変わらず速い魔法だから、覚えたいんだけど……人以外に能力を付与したことが無いので私には向かないだろう。
それに……速いからの問題が出てくる……車酔いならぬ馬車酔いだ。ちょっと気持ちが悪い……。
乗り物酔いかな……前に一度あったけど、それ以降はこんなことなかったのに!!
乗り物酔いで余裕が無い私は馬車から遠い所を見て少しでも和らげようとしていた。
そんな私の横ではサツキとフーリアが何やら話をしている様子だ。
「馬を強化する魔法って……限定的ね」
「サジタリオン様がその名前を受け継ぐと同時に得た魔法と聞いたことがあるな。固有魔法に近いかもしれない」
「ふん、じゃあアンタもなんかあるの?」
「え!?お、俺は……何も無いな……」
「なんだ……ルークと同じなのかと思ったけど」
「え?」
「確か、魔導騎士はたまに普通の子から魔法と剣を扱える子が生まれて来てその子が魔導騎士になるって」
「あ、あぁ……それが俺だ」
「なるほど……ね」
フーリアは私とサツキを交互に見やる。
何を考えて居るのだろうか。実質私は魔導騎士と同じではあるから何か不安に思う事でもあるのか……私はそんな大層な存在になる気は無いんだけどね。
それか改めて前のサツキとオリオンの試合で魔導騎士同士の戦いを見て思ったことがあるんだろうか。
普通に剣か魔法だけを使っていた時から私が感じていたのは不便だという感覚だった。
どれか片方だけを使う場合、どうしても手数の少なさに悩まされた。
魔導騎士と魔法しか使えない人、剣しか使えない人とは明らかに差が生まれる。
魔導騎士が強くて神格化されるのも分かってしまう。
フーリアは今、その力の差を感じているんだろう。この合宿でそれを超える方法が見つかればいいんだけど……。
ジャスミンの街に着くとギルドから少し離れた馬車の乗り場でリリィとユリカを下す。
「なかなかに速いお馬さんでした」
「楽しかったぁ!!」
本当に酔うレベルのスピードで気持ちが悪いのだけれど……他の皆は余裕みたい。
馬車酔いは入学の時に一度したけど、それ以降は何度も乗っても同じような事は起きなかった。
また馬車酔いが起きてしまった。
神経があまりに鋭くなったからか気持ちが悪い……?
もしかしてこれはルミナのせいだったりして……なんてそれじゃあ入学の時も同じようにルミナと混ざっていないとおかしいよね。
今はそんなことは忘れて、合宿だよ!
「そういえばジャスミンの街で何をするの?目的は中央都市でしょ?」
「そうですね。私はジャスミンに残るので下ろしていただきました」
「どうしてリリィさんもルエリアへ?」
「ユリカの付き添いです」
「ユリカちゃんの?」
「はい!中央都市の方から連絡があり、移動用の馬が枯渇しているとのことで、ハーベスト帝国から――」
「直々に!?」
「はい!ハーベスト帝国は魔導騎士を信仰していませんが、この国のトップレベルの魔法と剣を扱える魔導騎士が居るので」
「でも信仰していないんだよね?」
「信仰などではありませんよ?ハーベスト帝国からすれば友人と言った所です」
あくまで友人か……。
信仰まで行かなくても最強クラスの魔法と剣を使える2人の魔導騎士だから囲い込みたくなるのも必然だろう。
「せっかくだから街で少し休んで行こう」
「サジタリオン様?急ぐんじゃ……」
「そこまで急用じゃないし、馬車酔いしてる子も居るからね」
「あ……すみません」
「なんでサツキくんが謝るのか分からないけど、まあ少し休もう」
サジタリオンは私の事を気遣ってくれているみたい。
しかし皆に申し訳ない……。
早く治おさないと……それにまだ乗るんだし、次乗る時はバレないように治癒の魔法でも掛けておくか。
しかし止まっていても馬車に乗っていると気持ちが悪くなるのでここは久しぶりにギルドへ向かう事にした。
しかしその道中で問題が起きた。
「止まれ~!!」
少し離れた先の方からおじさんの気の抜けるような声が聞こえてくる。
何かしてしまったのかなと思ったんだけどそうじゃない。
その声の主は馬車を動かしていた主で止まれと叫んでいたのは私達にではなく逃げ出した馬にだった。
どうやら馬が暴走したみたい。
炎の魔法で――いや、そんなことをしたら馬が焼け死んでしまう。
安全に暴走する馬を止める方法……私はふとユリカを見て思い出す。
そう言えば彼女の魔法を一度使ったことがある。それで防ごう!
「白百合の盾!!」
ユリの花を象った魔力の塊が私達の前に現れる。
馬はそれに衝突するが微動だにしない。
やがて馬は暴れる事が出来ずにだんだん静かに大人しくなる。結構すさまじいスピードで暴走していた……おそらくまだサジタリオンの魔法が効いていたんだろう。
アレに轢かれたら死ぬんでいたかもしれない。
そう感心していた時だった。
「なっ!?どうしてあなたがその魔法を!?」
「え?リリィさんそれはどういう……」
「それはユリカの固有魔法【白百合の盾】ユリカと同じ血統の子しか扱えない魔法ですよ!?」




