第170話 決意
「ルークさん、落ち着きましたか?」
「は、はい……」
年甲斐もなくみっともない所を見せてしまった。
いや……私の年齢は16だから年相応か。
借りたハンカチを涙と鼻水で濡らしてしまった。さりげなくサジタリオンはこのハンカチを私にくれると言ってくれた。
それも含めて皆に恥ずかしい所を見せてしまったから目を合わせられない。
唯一サジタリオンは年齢が倍近く違うのであまり恥ずかしくない、どちからかというと同年代の子に見られるのが苦にかんじてしまう。
「そうか……もう少しゆっくりさせて上げたいんだけど、時間も迫っている。子供はそろそろ帰る時間だし、明日も学校があるでしょ?」
「そう……ですね」
「なんならここからの話が本題なんだけど……」
サジタリオンは私の事を心配してくれているみたい。
私はバレンタインの血を引いていないかもしれない……だけど私のこの世界でやることは決まった……話を聞いてそれを確信する。前世の自分の事を辿るのも大事だけどいつかは……。
私がバレンタインを――!!
そんなことを考えて居るとは知らないであろうフーリア達は心配してくれている。
「話なら私達が聞いておくからルークは私の膝で泣いてていいよ」
「そこまで子供じゃないから大丈夫だよフーリア」
「……………………そう」
なんでこの子は不服そうな顔をしているんだ。
そんなに子供っぽい所を見たいのか、それか大穴で今の私が耳と尻尾が生えてやたらとモフモフしてるから触りたいとか……泣いている今なら頭を摩っても誰も文句を言わないだろう。
確かにもふもふふわふわしたものは老若男女問わず人気だけど……。
今気になるのは話の続き、私は皆に大丈夫と伝えた。
フーリアはどこか納得していない様子だが、それは気にしないようにする。
「その件の狼の話だね」
「雪山でしたっけ……でもこの時期は辛いのでは?」
「だから夏頃に長期の休みがあるだろうからそこで僕達を手伝って欲しい」
狼は人類を滅ぼせるような強力な魔物。
それに襲われないためには何故か分からないけど主と呼ばれている私が居ないといけない。
主と呼ばれているから一緒に来てほしいんだろう……その狼が何の目的で雪山でずっと身を隠しているのか。
「それなら俺も行きますよサジタリオン様」
サツキもまた気になっていたんだろう。
雪山へ入る時が来れば一緒に来てくれるという。とてもありがたいんだけど、それを聞いたフーリアも身を乗り出して大きな声で叫ぶ。
「私達も行きます!」
「フーリアさん……おそらくその狼は今まで会ってきた何よりも恐ろしい相手になる。万が一敵対視されたら……」
「それはルークやサツキだって同じじゃない!」
「そうだけど……ここは俺達に任せてくれないか?」
「……サツキはそう言ってルークと2人きりになろうとしてるでしょ!!」
「そ、そそそそんなことはない!!ルークの大切な友達だからこそ危険な目には合わせられないだけだよ……!」
「ちっ」
サツキが素直に気を使ってくれているというのにフーリアはそれを無下にしてしまう。彼女は人との対話が苦手なだけだ。きっと本当はサツキとも仲良くしたいはず。
しかし2人ともどことなく距離を作っているように見えるんだよね。
どうにかしてもう少し仲良くならないかな?同じチームとは言わずとも緊急事態の時は連携しないとだし!
そんなことを考えていた時だったサジタリオンから意外な提案をされる。
「あ、それなら今日から夏までの間に強くなるためのトレーニングを皆ですればいいんじゃないかな?」
「トレーニング……?みんな鍛錬は疎かにしていませんよ?」
「自分達で鍛錬する分にはそれでいい。だけどもっと強い人からアドバイスを貰いたくないかい?」
「それって……」
「君達は学生だしね……強化合宿みたいな感じかな」
もしかしてサジタリオンが教えてくれるのだろうか?でもアーミアに倒されてたし……。
それは子供を襲えないというサジタリオンの考えがあったからで実はめちゃくちゃ強いかもしれない……?
しかしサジタリオンはもっといい適任が居るという。
「強い人は保守派に居るから」
「サジタリオン……様より強い人ですか?」
「強い。けど承諾してくれるかは彼ら次第かな~」
「それでも可能性があるのなら……私はもっと強いなりたい!!」
「それは自分のため?ホワイト家のため?それともルークのため?」
フーリアは強さへのこだわりが人一倍強い子だ。
保守派の強い人に教えてもらえるのならこれほどのチャンスはないだろう。
しかしフーリアの返事次第で彼女はここに置いておくことになるかもしれない。それだけサジタリオンも慎重になっているということ。
この場で一番危ういのはフーリアだからね。
「私は、多分自分のために強くなりたいんだと思うわ」
「ほう」
「強くなって家の事もだし、皆に置いて行かれるのも嫌だし……それに……み、皆と一緒なら強くなれる気がするから……」
「仲間は大切だよね……その気持ちは忘れちゃいけない」
「はい」
この一年でフーリアはだいぶ変わった。
最初は仲間なんて要らないという態度だったのに、今では皆の事を想ってくれている。
だからこそ私は危険な目に合わせたくないんだけど……。
「ということだからルークさん。皆で狼の所へ行ってくれないかな?」
「正気……ですか」
「君が仲間想い過ぎて危険な所へは行かせたくない気持ちは分かる。だけど近くに信頼できる人が居るとこれほど力になるものはない。それこそ君のお狐様以上の力をね」
「……」
「彼女たちを連れて行かないのなら、君もダメだよ。君達は4人でチームなんだから」
「わ、分かりましたよ……」
そう私が応えた瞬間、フーリア達は喜んで跳ねている。そんなに嬉しいのだろうか。
ここまで言われてしまったら仕方ないし、フーリアが嬉しそうなのでもう何も言わなくていい。それに皆が近くに居たら心強いというのも分かるし。
だけどやるならとことん強くなる!!
そんな決意を胸に私達は前に進んで行く……刻一刻と近づいてくる足音は私達の未来へ進むモノなのか……はたまた狼が背後から襲ってくる前兆なのか。
今の私達には見当も付かない。




