第167話 無念
結局この日は何もすることができずに終えた。
ルミナの力があればバレンタインの街へ行くこともできるんだけど……。絶対にダメだとフーリア達に止められてしまう。
彼女達の意見だけならともかく、ギルマスも無用に動くなと言うので仕方なく従った。
私はバレンタインの街へ向かわなくて正解だったのか、それとも向かうべきだったのかは今の私には分からない。
だけど少なくとも今の私は向かっていないこの状況を後悔している。
夜も眠れない日が3日ほど続いた頃、学校を終えた私達へギルマスからの報告を受け取る。至急手紙に書かれた住所まで行けという。
学校終わりで疲れているけど、聞かないわけにはいかない。どうせ寮に戻ってもすること無いんだし、この悩みを晴らすには行くしかない。
書かれた住所の先へ向かうとそこは豪邸だった。
「ここで合ってるの?」
「合ってるはずだけど……バレンタイン邸より大きい……」
「一体どこの貴族よ私達を呼びつけたのは!」
フーリアは怒っていた。
その理由は恐らく、バレンタイン邸とホワイト邸はほぼ同じ位の広さだから必然的に負けている事が悔しいんだろう。
フーリアはいい子だけど貴族だからプライドも高い。
私はそこの所はどうでもいいんだけど、この家の主に聞かれたら怒られるから大きな声で叫ぶのはやめてほしい。
そんなことを考えていた時だった。
「僕の家だよ」
聞き覚えのある声が背後から近づいてくる。振り向くとそこに居たのはサジタリオンだった。
「学長先生!?え?え?学長先生の家なんですか!?」
「というか国から借りてる拠点だね。僕も雑務を終えてやっと帰ってこられた」
「……学長先生なら学校で声を掛けてくれればいいのに」
「まあそうなんだけど、じっくり話す必要のある話だから誰にも邪魔はされたくなかった。それよりもルークさんを呼んだんだが……中に入ってくれるかい?」
「私達は……」
「本人が良いなら良い……ただ……身内の話なので聞かれたくないなら……」
やっぱり……覚悟するべき話の内容みたいね……。
駆け付けたい気持ちをずっと抑える3日という時間があったせいでやたら私は冷静でいる。いや、これは冷静というよりは……。
他人事のような……だけどここは異世界で……ある意味では他人事のような話。感情がぐちゃぐちゃになってよく分からなくなっているんだと思う。
それに父上とはまともに話したことがほとんどない。
それも相まって最悪な結果になっていたとしても涙すら流さないんじゃないか。……私は薄情なのかもしれない。
泣いている所を見られるのは嫌だけど、この気持ちのままならきっと大丈夫だ。
「良いですよ。皆の事を信頼しているので」
「そうですか……後、僕の後ろに居るサツキくんにも聞かせて上げていいのかな?」
「え……」
サジタリオンに隠れていて分からなかったけど家の物陰からこちらを覗くサツキと堂々と道のど真ん中に立っていたマツバがそこに居た。
堂々としているマツバに対してサツキがよそよそしくしているので逆に怪しい……。
「なんであんたがここに……!」
「そ、その……寮から出て行ったから」
「もう本当にストーカーじゃない!?」
「違う!!」
もう何度目かのこのやり取りを聞いていると少し気が楽になる。
私には今、この達が居るんだ。だからどんな話でも前を向く、そんな覚悟を決めてサジタリオンの家へ入る。
外が豪邸なら中も豪華……無駄に広くて装飾品の量も桁違いだ。
その中でも目を見張ったのが女神の銅像……どこか巨大ワニと戦った時、見た夢に出てきた女神様にそっくりだ。
そんなことはどうでもいい、私はサジタリオンに案内されるまま客人用の部屋に入る。人は私達以外誰も居ない。
「まず最初に結果から……残念だけど僕達が着いた頃には全てが終わっていた」
「それじゃ……」
「ああ、魔王教団には逃げられた」
「じゃあエステリア近郊で起きていた襲撃は……」
「陽動……本命はバレンタインとホワイトの家を滅ぼす事だったみたいだ」
「滅ぼ……されたんですね」
「……そうだ。バレンタイン婦人とルーンさんは魔王教団に連れていかれた可能性が高い遺体が無かったからね。街は跡形も無く消えて……まるで何かを探していたのか街の色々な個所が破壊されていたと」
「そんな……」
前のアーミアの件でも魔王教団が関わっていたし、バレンタインとホワイトの街にこだわっているみたいだったけど……まさかそこまでするなんて思わなかった。
これから復興していくと父上から聞いたばかりだったのに……そう言えばホワイトの街で何かしようとしていたみたいだけど何だったんだろう。
もう今じゃそれも分からない……。
それも含めてどうなったのか聞くにはあの質問をするしかない。
「ち、父上はどうなりましたか?」
「……我が魔導騎士には魂干渉魔法という固有魔法がありまして、死者と一時的に会話ができる魔法が使える者が居ます。先ほどの話は死霊となったバレンタイン殿から聞いた話です」
「……そうですか」
「案外、冷静だね?」
「そう……ですね。現実味が無いから、その様子も見ていないので……」
多分違う……。
私が本当にこの家の人間ではないからだろう。身体はバレンタインだけど、魂が違う。
そのせいで父親が亡くなっても泣いていないだけ……。
そんな風に考え居た時だった。
「それならいいけど……後、ここからが本題なのですが……」
「本題……?」
「ええ、魂干渉魔法によりバレンタイン殿に話を伺い。ルークさんに伝えてほしい事があると……」
「父は何と?」
サジタリオンは一度喉を鳴らす。その一瞬の間がとても長く感じた。
どんな言葉が出ても私は驚かない、ちゃんと冷静に全てを知る。
「一言一句そのまま伝えるよ」
サジタリオンは咳ばらいをすると話し方を変えて教えてくれる。
「ゴホンッ……すまないルーク。俺は本当は君の父親ではないんだよ」
「え……?」




