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第165話 氷

 

 突然の緊急事態、それもフロストという名前を聞いてギルマスにも容赦なく掴みかかりいち早く話を聞こうとフーリアは身体を揺する。

 まだ子供なのであまり強く揺すったりすると危ないんだけど、それどころじゃないみたい。

 

「宝剣を持ってる奴が居たの!?」

「待て待て私じゃなくてそれを知ってるのは彼だ」


 ギルマスはそう言うと部屋へ男性冒険者を迎え入れる。

 どこかで見た事があると思ったら私達がギルドへ初めてやってきた時に扉から元気よく出てきた人だ。

 トゲトゲの頭にヘッドバンドを頭に巻いた少年。

 

「どういうこと!?」


 フーリアはその男性冒険者へ切り替えると同じように強い力で男性冒険者の胸倉を掴んで大きく揺らす。


「ちょ……フーリア!その人の目が回ってるよ!」


 ショナが止めに入るも時すでに遅く、男性冒険者は目を回して動かない……。


「あ……」

「やっちゃった……焦りすぎだよフーリア」

「うっ……根性無いわねこの男!」

 

 何とも理不尽な言われようだ。

 このままだと何があったのか分からない。ギルマスもあまり詳しく話を聞いていないみたいだし……。少なくともアーミアがまた絡んでいるのは確かみたいだけど……。

 

 手を翳して治癒しようとしたその時、ギルマスがそれを止める。


「待て、治癒をするのか?」

「はい……そうですけど……」

「この馬鹿が眠っている間に聞いて起きたいんだが……それは吸収した巨大ワニの力か?」

「いえ……私の治癒魔……あっ……」


 ギルマスは私が魔法と剣を扱えることを知らないはず……。

 

 治癒魔法が使える事がバレたらまずい。

 しかしギルマスは特に何も無かったように応える。

 

「バレンタインの魔法か……てっきりその獣人の力と巨大ワニの力でも使うのかと思ったが」

「バレンタインの魔法を知ってるんですか?」

「まあ、私はお前の記憶を覗いたからな?」

「あ……そういえばそんなこと……」


 ギルマスは吸血鬼で血を飲むことでそれをエネルギーにできる。

 ただしギルマスは普通の人としての食事もするし、血だって毎日飲む必要もない。

 逆に飲んでしまうと飲んだ血の所有者の記憶を辿り、若返ってしまう。もう既に小学生の年齢まで若がったギルマスはこれ以上血を飲むことはできない。


 これ以上飲んだらミジンコになってしまうだろう。


「でも……魔導騎士(エーテルナイト)ではありませんから」

「騎士という程の腕も無いからな」

「……」


 クソ……ぐぅの根も出ない!!


 魔導騎士(エーテルナイト)だと間違われて態度を変えられるのが嫌だったのに……なんだか恥ずかしい。


「良くて魔法剣士だな」

「……はい」

「まあそんなことはどうでもいいとして、その獣人?の力は?」

「あっ……これは……」


 記憶を見られているのならほとんど私の事は分かっているはずなので、隠しても意味が無いと思い、ルミナの事も話した。

 獣と一体化するという奇妙な現象を聞いてギルマスは目を見開いて驚いている。


「それは何というか私に似ているな……!?」

「ギルマスに……ですか?」

「私は吸血の鳥のようなモノの血を飲んでこうなった。ルミナは生きているが血もまた生命といってもいいからな」

「なるほど……でもルミナの事は飲んではいませんけどね?」

「私は飲んでしまった血を吐き出したいんだが……お前もルミナが離れてくれないんだろ?」

「飲んでないですが……離れて欲しいのは確かですね」

「部分的には似ている所があるのかもしれない」

「まあそう言われてみれば……」


 ギルマスは吸血鬼でいる事が嫌みたいだ。

 血を吐き出して人間に戻りたいとギルマスは言っている。


「まあもしルミナの出し方が分かったら私にも教えてくれ」

「吸血鬼は嫌なんですか?」

「ああ……私は100年生きた。もう同年代の友も死んだ。そろそろ私も寿命で死にたいんだよ」

「なんだか……寂しいですね」

「ありがとう、だが自然の摂理だからそっちが正しいのよ」


 そうは言うけど……こうして良くしてもらっている相手が居なくなるというのはなんとも言えない気持ちになる。

 できれば長く生きて欲しい、そう考えるのは当然だろう。


 でも本人が望んでいるのならルミナを身体から出す方法を見つけたら教えることを約束した。


 聞かれたくない話は終わったのでそろそろ男性冒険者を起こしてあげないと!!


 ずっと気を失っていたわけだしね。

 治癒の魔法で起す。


「はっ!?ここは一体!?」

「あの……何があったのか話していただいても良いですか?」

「何……あぁぁぁぁぁぁあぁああああああ!!」


 治癒魔法を掛けるために近づいたせいで男性冒険者の大きな声が耳を揺らす。

 この男性冒険者の声が大きいというのもあるけど、私の耳が普段よりも何倍も鋭いせいだろう。


 頭の上に出来た狐の耳を塞ぎながら彼の話を聞く。


「ギルマス!バレンタインの街がアーミアを名乗る女性が魔王教団を率いて完全に滅ぼされたって言っていました!!」

「は!?」


 な、なんでここでバレンタインの街が出てくるの……?しかも完全に滅ぼされた……?


 それってつまり残っていた街の家々も人も皆……。


「ま、待ってくださいではお父様は?」

「君は……?」

「ルーク=バレンタインです」

「君が!?そ、それは……」


 私がバレンタインの人間と知ると男性冒険者は酷く動揺していた。

 話すべきか話さないべきか悩んでいる様子を見て、ある覚悟をしなければいけない事を察する。


 だけどまだ少しの可能性はある……それを信じて私は彼の言葉を待った。


 しかし、現実というのは甘くない。

 

「残念だけど……亡くなられたと報告を貰った」

 

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