第164話 寒空の行方
少女漫画のような話は終わり、その日の午後はギルドで過ごすことになった。
まだ闘技場で戦った熱が残っているのでずっとあの場に居るのは私もサツキも気まずかったし、魔導騎士の革新派が倒されたという事で何か騒ぎにまきこまれるんじゃないか。そんなことを考えて、即ギルドへ移動した。
本来は寮で身体を休めるんだけど、魔導騎士の3年生を倒してしまったので他の革新派に恨まれることを危惧してここに来たんだけど、その状況にどこか納得が行かない様子でフーリアはきつい言葉をサツキに掛ける。
「ギルドへ来るのは良いんだけど……なんでそいつも居るの?今回の現況のクズなのに」
「……なんかもう、君に悪態を突かれるのは慣れたよ」
「はぁ……?悪態とかじゃなくてアンタは要らないの!!」
「酷いな……今日は頑張ったんだが……」
「だいたいアンタが変な挑発に乗らなければルークが見世物にならなくて済んだのよ!」
「それは……本当にごめんなさい」
男には引けない時がある。
それは一応分かっているつもりなので強くは言えない。だけど、もう少しくらいは私の事を考えて欲しかった。
それでもやっぱり戦う理由の1つとして重要だったのが、ムーンって人の存在だろう。
「そ、それだけムーンって人に会わせたくなかったんだよね?」
「ああ……革新派のトップで噂では何百年も生きた転移……あっやべ……この話はまた後で――」
「転移?魔法の事?」
転移とか転生とかの話はあまりフーリア達にして欲しくない……私のそんな意図を感じ取ってそれ以上離さないでくれた。
何者かについてはムーンに会わせたくないのなら考えても無駄かもしれないね。実際会わずに全てが終わることだってあるだろうし……。
ひとまず今はサツキも皆、無事だったことを喜ぼう。
「でも……ルークもルークよ!」
「なんで私!?」
「取り合いみたいになって、ちょっと嬉しかったでしょ!!」
「いや、それは本当にないから……」
「でもサツキに助けてもらえて嬉しかったんじゃない?椅子に座っている時に見たこと無い笑顔だったよ」
「それは……仲間だと思ってくれているのが分かったからで……」
「私だって仲間でしょ!!」
「そうだけど……!うぅ……!!」
仲間だからこそ嬉しいじゃダメなのだろうか。フーリアは頬を膨らませて怒っているけど……どうしてあそこまで機嫌が悪いのか分からない。
いや……そう言えば私に先を起こされるのを恐れているはずだからそのせいか。
ここはフーリアが求めているであろう言葉を伝えよう!!
「大丈夫だよ!フーリアは可愛いから!!」
「か、かわ……!!」
こうやって自信を付けさせないと、それに可愛いのは本当だよ。
こうして顔を赤くして黙って居ると本当に可愛い。これにもう少し表情が柔らかいと良い。
でもそれだといずれフーリアに相手ができるってことか……それはちょっと嫌だ……。
あれ?もしかしてフーリアも同じことを考えて居て、サツキに盗られるから怒ってるみたいな……?
「無いか」
そこまで大切ならここまで悪態は付かないと思うし……素直に慣れていないのならわかるけど、少なくとも私には分からない。
ギルドに避難してきたとはいえ、午前だけですっかり疲れてしまったのでギルドでの依頼は受けない。
今日はギルドで学校の試合後の熱が冷めるのを待つとしよう。
しかしそこへギルドの受付嬢が私達の所へ近づいてくる。
「スイレンの皆さん、今お時間はありますか?」
「はい!どうしたんですか?」
「先日の魔王教団襲撃により得た情報をあなた達にも共有します。後、報酬も」
「報酬!!……あれでも情報を学生の私達にですか?」
受付嬢は袋に入ったお金をショナに手渡してくれた。
その流れで話を続ける。
「あなた達は既にBランクの冒険者。学生の範疇を超えているんですよ」
「それほどでも……えへへ!!」
報酬を貰えてさらに褒められて嬉しいんだろう。ショナは笑顔で頭に手を当ててデレデレしていた。フーリアもこれくらい分かりやすかったら良いんだけど……。
前の魔力に侵食された冒険者が動かなくなる事件の時は話すら聞けなかったのに……これもひとえに私達の実績の賜物だね。
しかし、やっぱりランクが上がるとこういった話を聞く羽目になるのね。
情報を得られるチャンスはあるけど、それに巻き込まれる可能性も出てくる。
受付嬢の話では大半の貴族の子達は実家に帰させるのが決まったらしい。
多くの貴族の子供を処刑するわけにはいかなかったから、実害を及ぼさない子達は罪を免れた。
赤信号でも皆で渡れば怖くない……そんな言葉が成立するような結果だから英断だとはいえないね。
ただし、話している内容が支離滅裂だったり、まるで多重人格のように不安定な人は拘束しているという。
薬の影響……。
私なら少しくらいは緩和できるんだけど……。
「ルーク、リスクは負わないでおこ」
「分かった……」
フーリアは私の考えを先読みしていた。皆の迷惑になるのならここは我慢する。
最初から魔法を使える体でこのルエリアで過ごせば良かった。
そして受付嬢の話はここからだ。
「あの場に一瞬だけですが、マレフィックを名乗る魔導騎士が居たらしいです」
「あの場に!?一体どこに隠れて……」
「隠れていたのではなく、別の出口から逃げた事が分かりました」
「え……」
「巨大ワニが居た場所、山が抉れてそこから抜け出したみたいです」
あの穴、やっぱり何かあったみたいね。
受付嬢の話ではマレフィックに鼓舞されて元生徒達は私達に襲い掛かってきたらしい。だけど一緒に戦ってくれる思っていたマレフィックはどこかへ行ってしまった。
元生徒達に罪を背負わせて自分は高みの見物を決めていたのか。
何とも卑劣な男だ。
そんな話を聞いた直後の事、血相を変えてギルマスが私達のテーブルへ走ってきた。
「お前達ちょうどいい所にいた!!」
「ギルマス!あ……でも私達、今日は依頼を受けませんよ?」
「そんなことはどうでもよい!大変な事が起きておる!!」
「大変……まさかまだ魔王教団……?」
「そうだ!お前達の話していフロストとかアーミアとか言ったか――」
フロストの名前を聞いた瞬間、フーリアは誰よりも早くギルマスに駆け寄った。
その名前を聞いて気が気じゃないみたい……。
午後は平穏に過ごせると思っていたのに、まだ何かあるらしい。
