第163話 サツキの女神剣
毒の砂が目に入ってしまったサツキへ容赦なくオリオンの剣が振り下ろされる!!
魔法の存在をすっかり忘れていた私は警告するのが遅れてしまった。というか私は景品みたいに保護されている状態なので叫んでも聞こえないかもしれない。
毒の砂が目に触れてしまったサツキはきっと想像もできない程の激痛を感じているはず。
しかしそんなサツキに対して容赦なくオリオンは剣を振り下ろされていて、さすがにそれ以上はやりすぎよ!!
そんなことを考えていても状況が好転することはない。
そのままサツキの剣を握る腕を狙って剣の刃が落ちていく――オリオンはサツキの腕を斬り落とすつもりだ!!
「俺の……勝ちだ!!」
「やめ――――!!」
そう私が叫んだ時、オリオンの剣がサツキの腕に触れる前で止まる。
「何!?」
「見誤ったな……アンタが魔法を使えるのなら俺だって使えることはわかるだろ?」
「まさか……俺が魔法を使う事を……!!」
「当たり前だ。弱点を隠せるのは魔導騎士の特権だからな」
聖剣や魔剣は属性や特性が固定されている。
魔法はたくさんの種類があるので有利に思われるかもしれないけど、魔力が必要になってくるので最初から魔力量の少ない人は沢山の魔法を使えない。
剣士は剣にさえ認められれば強力な力を扱うことができる。
私の炎帝剣は炎で破壊するシンプルな炎の特性を持っている。
だから大量の水で覆われたり、柔軟でぶつけられると毒や麻痺をさせてくる物を投げつけられるのが苦手だったりする。
しかしそれは魔法を使うことで攻略できるわけで、対抗できる魔導騎士の強み……か。
そう言えば私はずっと炎の魔法しか使ってこなかった。
これを機に他の魔法を覚えてもいいかもしれない。
まさかこの戦いで学ぶことがあるとは思いもしなかったわ。
それよりもサツキが無事だったことに安心した。だけどどうやって毒の砂を無力化したんだろ?
あまり魔力の動きが見られなかったので何をしたのか分からなかった。
「ちっ……」
一瞬の隙を突いたことにより、サツキはいつの間にかオリオンの頬を刀の刃で浅く斬っていた。
掠めた程度だけど、オリオンの顔にようやく焦りが見えた。
「お前……!!」
「悪いけど……ルークのためにも全力でやらせてもらう!」
「まだ全力ではなかったといいたいのか?」
サツキはようやく水を剣に纏わせた細かく振動させるとオリオンの放つ砂を触れただけで斬り、水の特性で砂を固める。
「なんだよ……その切れ味……」
「お互い触れたら負けってことだ」
「ま、まさかそんな事しないよな……?」
「お前の毒の砂……目に触れていたら良くても失明だった。そっちがその気なら俺にも考えがある」
「だ、だが……お前は治癒魔法で癒したんだろ!!治せるなら良いだろうが――」
「違う……俺は魔法で水の膜を目の周りに張って防いだだけだ」
「そんな細かい事までできんのかよ……!魔導騎士の血を引いていない欠陥品のくせに……!!」
どうやら剣の性能もだけど、魔法の腕もサツキの方が上だったみたい、私が魔力感知をあまりできなかったのも目に薄い膜を張るだけの魔法だったから。
剣術のみが優れていても重要な2つで後れを取っているオリオンはサツキに押され続けている。
というかこれはもう……。
「な、なんだよお前……!!他の保守派とはまた違う……」
「お前が戦ったのは直接転移してきた魔導騎士になったばかりの素人ばかりだろ?この世界で赤子の頃から魔導騎士やっているから戦い方には慣れている。その違いだ」
サツキの言動からして、魔導騎士になるには他にも条件があるみたいね。
なんにしても転生前の記憶があるサツキは幼い頃から私のように魔法を学んだり剣術の鍛錬を積んでいたんだろう。
さらに女神の転生で力も貰っているから才能も高い。
才能、努力、前世の知恵……それらを合わせ持った魔導騎士は他に引けを取らない。
2年という年の差はサツキにとっては差にもならない。
「クソ……」
「これで終わりだ……女神剣 大いなる大海!!」
馬鹿な程に大量の水が闘技場に満ちる。
そしてその水は刃となり、オリオンを襲う。
ここで使うなんて結構えぐいんだけど……ま、まさかそんなにも怒ってくれているということなのかな。
一般人にそれを使うなんてやりすぎだと思ったんだけど……オリオンは五体満足で気絶している程度で済んでいた。
「ただ脅しただけだ。少しは痛い目を見せてやりたくなった」
他の保守派に対してもオリオンは何か仕掛けていたみたいだし、根に持っているんだろうか。
ストーカーみたいな事をしているけど仲間想いなのは伝わってくる。
試合が終わるとサツキは真っ先に私の方へ近づいてくる。
なんだか凄く清々しい顔をしている……嫌な敵を倒してスッキリしたのだろうか。
そして私の目の前まで来て――
「勝ってきたよ」
「は、はぁ……」
「あれ?」
まるでピンチのヒロインに駆けつけてきた王子様のように手を差し伸べながらそんなことを言う。
何を期待しているのか知らないけど、この戦いは勝手に私の許可なくやっていたことを忘れないでほしい。
せっかく差し伸べられた手なので取らせてもらう。この豪華な椅子は私には似合わないからね。とっとと立ち上がってこの場を去りたかった。
手を取って立ち上がると試合を見ていた人達からの拍手の音が聞こえてくる。
なんだか恥ずかしい気持ちになりながら私達は闘技場を後にした。