第161話 イブ
ここはエステリア学校が保有する小さな闘技場。
俺サツキはこの闘技場で戦う事になってしまった。
どうしてこうなったのか……それは分かっている。それは……俺の意志の弱さが原因だ!!
このサツキという身体は16年前に生まれた。
それから物心が付いたころに前世の記憶が突然入ってきて、魔力を手に入れてしまう。
そのせいで親から気味悪がられて捨てられた所をサジタリオン様に助けてもらった。
俺が色々な前世の知恵を披露するとサジタリオン様は気味悪がるどころか楽しそうに話を聞いてくれたのを覚えている。
前世は女の子だったので夢はケーキ屋さんだった。
その知識を活かして美味しいスイーツを食べてもらったっけ……。
そんな前世は女の子だった俺が闘技場に居る理由……それはルークのためだ。
あの子が嫌な事を言われたりされたりするとイライラする。その気持ちを抑える事が出来ずについ喧嘩を買ってしまった。
そういえば前世の子供の頃の記憶でクラスメイトの男の子が他の子に喧嘩を売って追いかけまわしていたのを思い出す。
あれを見て馬鹿だなぁ……と当時は考えていたんだけど……。
まさか俺がそれと似たような挑発に乗ってしまうなんて思いもしなかった。
「これが男なのか……!!」
16年の月日を経てこの身体に慣れたと思ったんだけど、まだ自分の知らない事がある。
ルークには申し訳ない事をしたな……嫌われていなければいいが。
ちなみにあの子はまるで懸賞を祭るかのように豪華な椅子に座らされている。
凄く顔がムスッとしていて居心地が悪いんだろう……ただ正直そんな彼女も可愛いと思ってしまう自分が居たり……。
って俺は何を考えているんだ!!
そう言えば豪華な装飾はある意味この時期にはピッタリでもある。この世界にはないけど今は12月24日のクリスマスイブ。
賭けってことは……もし勝ったらどうなるんだろ……?もしかしてルークを……プレゼント的な感じで……。
「って俺は何を考えてるんだ!!」
「何考えてんの?てか始まるわよ」
「フーリア……ああ、すまな――」
「負けたら殺すからね」
「……はい」
フーリアに睨まれてしまい緊張しながら闘技場の中へ移動する。
俺は確かにこの世界では男だけど、元の世界では女の子だった。
つまり実質同姓と言ってもいい。そんな子を好きになることは無い!!
……だけど、確かルークは逆に元男だったとか。
それって異性として見ても別におかしくないのでは!?
自分でもよく分からないんだが、頭の中でずっとそんな事ばかり考えてしまう。
なんだか顔が熱くなってきた。
しかし勝負の時間は刻一刻と近づいてくる。
移動して数十秒でこれから戦う場所が見えてきた……あまり馬鹿なことを考えている場合じゃないよな。
一度深呼吸をしてスイッチを入れ直す。
もし俺が彼女に好意を持っていてもここで負けたらあいつらの手に渡ってしまう。それだけは絶対に嫌だ!!!!!!
「お~燃えてるなサツキ」
「当たり前だ!!!!!!」
「いいけどさ、せっかくの休日なんだから早く終わらせようぜ」
この試合の約束は学校のある日に結ばれて、どこかで戦える時間が無いかと探した結果、休みの日になった。
その間、色々と頭を冷やす時間はあり、最初こそどうしてこんなことをしてしまったんだとか。
あんな安い挑発に乗るなんて俺は馬鹿なのか……とか。色々な事を考える時間があったんだが、いざこの場に立つとなんだか燃えてくる。
これが男の子というモノなのだろうか。
まあいい、やるからにはやる……この先輩を倒して、サジタリオン様への謝罪もさせてやる。
「やってやる!!」
「ガキが……まあじゃあそろそろやるかぁ」
余裕そうなオリオンもそろそろ準備をする。
アイツは毒々しい紫色の剣を携えている。
魔導騎士を相手にする場合の戦いは特殊だ。
本来剣か魔法しか使えないこの世界の性質上、片方を相手にする場合は魔導士なら近づき、剣士なら距離を取って魔法で力を削ぐ。
魔導騎士だからこそできる一般人に対してのデカすぎるアドバンテージ。
しかしそれは魔導騎士同士だと無くなる。
純粋な剣術と魔法を合わせた激しい戦いが予想される。
さらに大体の剣には1つの属性しか宿っていないが、魔法は違う。
その種類だけ使える魔法があり、適正はあれど全ての魔導士は理論上すべての魔法を使える。
例外があるとすればルークのような固有魔法くらい。
せっかくのクリスマスイブをこんな戦いに使う事になるとは思わなかったなぁ。
実はクリスマスイブというのは分かっていたからルークにプレゼントをと用意していたんだが……。
その文化が無くても知っている者同士ならいいだろう。
この勝負に勝ったらクリスマスプレゼントを彼女に渡そう!!
そんなこんなで俺達の戦いが幕を開けるのだった。