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第15話 1年生の試練 

  

 フーリアに起きた出来事は私にとっても衝撃的だった。

 クレストはそれだけ話すと寮の方へ戻って行く……。

 私に考える時間が必要だろうと気を使ってくれたようだ。

 

 心なしか空が雲で覆われて雨粒が降ってくる。それがさらに私を暗い気持ちにする。

 

 あの話はクレストが知っている情報のみで、もしかしたら本人からはもっと辛い事を聞けてしまうかもしれない。

 あの話だけで終わらないのならあの子があんなきつい性格になるのも分かった。

 

 しかし、それが分かっただけで何の解決策もない、それどころか私も家の事で悩みがあって他の心配をする余裕は無い。今の私には何もできない事を痛感する。

 

 そんな暗い気持ちのまま次の日を迎える。


 実技の授業があったはず、手を抜けばバレてフーリアに嫌われ、本気でやれば勝ててしまい彼女のプライドを引き裂くことになる。

 さらに家の事も遠のいてしまう……。

 

 回避方法はフーリアと戦わないことだけかぁ……。

 

 あの子が見逃してくれるとは思えない。実技の授業までには何か方法を考えないといけない。


「そうそう、今日の実技の授業は魔導士の生徒と合同だ!剣士としての力を見せてあげなさい」


 そう、騎士の先生が言う。

 

 今年度の1年生は全員で40人と少なく、剣士22人で魔導士も18人とほぼ半分に別れている。

 40人で実技の授業って大変そうだけどこれは好機じゃないかな?うまく紛れ込むことによってフーリアの目を盗み対戦相手として戦うのを避ける。

 

 そんなことを考えていると隣に座っている少女が声を掛けてくる。


「魔導士が居ようと関係ない。勝負よルーク」

「フ、フーリア……でもせっかく魔導士の人達も居るんだしここは――」

「か・ん・け・い・な・い」

「は、はい……」


 そう隣に座っているのは何を隠そうフーリアで私に対して避けていたり、嫌っているような様子なのに実技の授業ではいつも声を掛けてくる。

 

 嫌いなら離れるものなのに……それだけライバル意識が高いという事?

 

 フーリアとやり合わないといけない事に絶望していると先生は話を続ける。


「なおこれはただの実技の授業ではなく、試験です。剣士、魔導士の中で選りすぐりの者を決めます。トーナメント形式で試合を行っていく勝ち抜き戦になっています」

 

 てことはフーリアと戦う可能性は減るわけか。このまま勝負が確定するよりはマシか。

 トーナメント形式だから勝ち上がったらいずれ戦う事になるけど……。

 

 フーリアは隣で不服そうな顔をしている。


「私と勝負する前に負けないで」


 フーリアはそれだけ言い、先生の話が終わり、授業も終えると同時に剣士教室を出て行った。

 そんな様子を見ていたショナが声を掛けてくる。


「相変わらずだね……ははは」

「笑えないけどね」

「……あの子の事、もう少しちゃんと見て上げてね」

「……どういう意味?」

「さぁ?それを自分で探すのも試験だよ」

「何の試験……」

「んー友達を取り戻す試験?」


 そんな試験はやりたくない……取り戻すとか以前に居なくならないでほしい……。

 

 今考えられるあの子とまた仲良くなるための方法はホワイトの宝剣を取り戻す他ない。

 そしてそれは私の手だけでは不可能。クレストの手を借りられればいいけど、それも私が役に立つ人間であることを認めてもらうしかない。

 

 それはすぐにはできないから今はフーリアと当たったら手を抜くことしかできない。気づかれるけど、試験だから結果が全て……多少、怒られても試験の結果が良ければきっと喜んでくれるよね!


 そんな風に考えているとまるで考えを見透かしているようにショナは言う。


「あは~先は長そうね」


 まるでこの問題の答えを知っているみたいな言い方……。

 

 はぁ……!やっぱり女心は分からない!!

 

 総じた人生経験の長さはこの世界の同年代の子よりも倍以上あるのに女としての経験は15年しかない。

 

 さらに今まで引きこもりがちだったから人との関りも少なく、誰よりも女心を理解できていない気がする。

 

 そういえば今日の最初の授業は剣術の歴史を学ぶモノだった。

 かつて歴史上最強と言われた勇者ルーク=バレンタインの話。

 彼はまさに一騎当千の実力を誇っていたとか。世界を支配しようとした魔王を相手に勝利を収めた伝説の勇者の話。

 

 そう言えば先生の話ではその魔王を信仰する組織があるとか。まあそれは今の私達には関係ないと思うけど……。

 

 授業の時にとある生徒が疑問に感じた事を質問していたっけ……確か内容は……。

 

「あの……そんな組織があったらどうなるんです?」

「当然、滅ぼす。世界征服なんてものはしちゃいけない。人を圧迫して一部の人間が得をする世界なんて不幸しかない」

「えっと……魔導騎士(エーテルナイト)は――」

「それ以上は不敬だよ。神の寵愛を受けし魔導騎士(エーテルナイト)は人では不可能な剣と魔法を二つとも扱える特別な存在なんだから……」

「そうなんですか?俺の住んでいた場所は結構その……魔導騎士(エーテルナイト)達によって貧困に悩まされていて……」

「まあ全てが良い人とは限らないのかもしれないがそれ以上はやめておきなさい」

「……はい」


 神の寵愛を受けし者達で魔法と剣を両方使える神のごとし一族で各国の王よりも権力があるとされている。


 そんな魔導騎士(エーテルナイト)は神様同然、誰も逆らえない。


「先ほど話した歴史上最強の騎士ルーク=バレンタインの事を知っている人も居るのだとか。話を聞いてみたいものだが……」


 先生がそれだけ言うと授業の終わりを告げる鐘が鳴り、実技の授業の話をされた。

 

 連絡だけ終えるとすぐに片付けてそそくさと教室を出ていった。

 実技の試験その準備のため忙しかったんだろう。

 私達も実技の試験のために移動する。会場は学校にある小さな闘技場でこの都市の観客も入れるようになっている。

 

 1組2人ずつで戦うとして20組、一日では終わらない。2日かけてやるみたい。


「さあさ、闘技場へ行こう!」


 ショナは私の肩に手を乗せて外へ出るように促してくる。

 授業の準備をするのは良いんだけど……。

 

「ユウリはどうするの?」

「ユウリはもう闘技場に居るんじゃないかな?」

「早いね」

「あの子、とっとと闘技場に入って早飯するつもりだろうしねぇ~」

「えぇ……」


 ユウリは魔導士だから剣士の私達とは別の授業を受けている。

 だから一緒に行こうにも行き違いになって時間に間に合わなくなる可能性がある。

 ユウリの性格を理解しているショナは確信を持って言っているようだ。


 それならいちいち魔導士の教室へ行く必要もない。

 私達は試験会場へ向かった。

 

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