第158話 獣人を嫌う国
私達は魔王教団と戦った後にエステリア学校の寮へ戻ってきていた。
あの後落ち着いたころに何があったのかサツキから聞いた。魔王教団へ寝返った元生徒達はほぼ全員捕まえてエステリアの監獄に入れられているという。
事情聴取も当然行われて犯行の意図は語らなかったものの、全員が同じように【魔導騎士をこの世界から追い出すため、魔王教団に協力した】と言っていたらしい。
中でも魔導騎士だったサツキにやられてしまったアレンは取り調べの際中に訳の分からない事を叫び続けて――やがて、息を引き取ったという。
おそらく彼もまたリゼルと同じようにあの薬を飲んだことで死期が早まったのだろう。
同じく、薬の影響を強く受けていたライカはまだ辛うじて生きているみたいだけど……あまり先は長くないと伝えられた。私の魔法でも完璧に薬を抜くことはできなかったみたい。
後これは関係ないかもしれないけどギルドの倉庫に隠していたギルマスが吸血鬼化させた馬が全部死んでいたらしい。
倉庫から出されていて日光を浴びた事で灰になったと言っていた。
吸血鬼は日光の下では生きられないなんて難儀なモノね。なのにギルマスは日光の舌でも生きているのに……。
どういう原理何だろう。
そんな事を考えているとフーリアとショナがその話を聞いて思ったことをそのまま口にする。
「全く持って意味の分からない襲撃だったわね」
「ほぼ全員が魔王教団のそれもエステリア学校の元生徒達だったわけだしね~」
私達をおびき寄せるために今後開拓の予定の湖を占拠したのは間違えない。
だけどそれを私に伝えてきた奴隷少女ハマルどころか、マレフィックの影も形も無かった。私達を誘導してエステリアの街を狙った犯行だと思ったけど街へ戻っても平和そのもの。
「本当に目的がはっきりしないね」
「……」
「どうしたのフーリア?」
今はその襲撃のあった翌日の朝、学校があるので朝食を済ませている最中に話し合いをしていたんだけど……。
フーリアからは奇異な目でずっと見られ続けていた。
それもそのはずか……私は今や狐の耳と尻尾の生えた獣人になっていたのだから……。
確実に人族なんだけど、ルミナとの同化が解けなくてずっとこのままになっていた。
とりあえずあの場に居た魔導騎士のサツキが魔王教団の呪いを受けてこうなったと適当な事を言って誤魔化してくれた。
魔導騎士の言葉なので誰もが強く言えない状況を作り出してくれたおかげだけど、私はいい気分じゃない。
だから当然食堂内ではフーリア以外にも奇異な目で見られているんだけど……それを指摘する者は居なかった。普段なら獣人にあまりいい印象を持っていないルエリアという国では拒絶される。
今まで国には獣人らしい種族は居なかった。
人族かエルフ族、後はドワーフ族も居るけど人族以外はそれらしかない。
獣人は嫌われている……。
無駄にプライドの高い貴族が多いから臭い獣人はお断りなんだろう。
「私って匂うの……かな?」
「えー?いつもいい匂いだけど……確かに耳とか尻尾とかどんな匂いするんだろ?嗅いでみていいー?」
「いいよ、ショナ。でも素直な感想でお願い」
匂いなんて気にしたこと無かったのに……。
これも女として転生したせいかそれとも前世が興味無さ過ぎたのか。
そんなことを考えているとショナが私の耳に鼻を近づけた瞬間、ピタッと止まった。
その距離だと細かい匂いなら気づけない……まさか臭すぎて止まった!?
何があったのか私は恐る恐る見上げるとフーリアがショナをギリギリの所で止めていた。
「待って、それ以上近づかないで」
「え?でもそうしないと匂い分かんないよ?この距離だと普通に良いの匂いしか……」
「嗅いじゃだめ!わ、私が……ハァ……やるわ……ハァ……」
「えー私も……いっ!?……まあ、任せるよ」
フーリアに睨まれているのだろうか……正面に座っているショナが覆うように私の前に立っているので隣に座るフーリアの顔は見えない状態だ。
年齢的には女子高生のフーリアに臭いと言われたら結構へこむけど……彼女は一体どんなことを言うのだろうか。
「なんか……暖かい匂い」
「獣臭いってこと?」
「全然そんな不快な感じじゃなくて……なんていうか匂いを嗅ぐと炎を想像するような感じ?」
「炎って匂い無いと思うけど……」
「まあでも臭くはないわよ」
「そ……」
私は表情に出さず応えたものの、内心は凄く嬉しかった。
女の子の今は念入りに身体を洗っているはずだし、そうしないとアナに怒られるから自分の意思じゃないんだけど、アナにちゃんと洗うように言われていて助かったよ。
とりあえず匂いの問題は大丈夫そうだし、何も言われないと思うけど、やっぱりこの耳と尻尾は慣れない。
それにやたらと周りの視線を集めるから恥ずかしい……。
「くっ!!」
フーリアが凄い形相で私へ視線を向けている人達を睨む。
するとそれに驚いた人達は私を見る事を止めた。
「あ、ありがとうフーリア」
「ふん……!」
この耳と尻尾に慣れるのは大変そうだ。
ただ、身体は凄く調子がいい。
人間の状態では感じられない程に研ぎ澄まされた神経、見える景色も鮮明で綺麗。一部遠くから聞こえる心無い言葉以外は調子が良い。
これなら高い身体能力のまま剣も振るえそうだ。
不安と期待が入り混じったこの不安定な状態で私は学校生活を送って行けるのだろうか……。




