第155話 進化
巨大ワニの上半身をさらに真っ二つに斬り離すことができた。
これで巨大ワニは完全に動かなくなる……そう思っていたんだけど、頭だけになっても巨大ワニは動いている。
ピチピチとまるで海から陸へ打ち上げられた魚のように頭だけが跳ねている。
「きんも!!」
フーリアの言う通りとても気持ちが悪い……。
しかしあの状態で生きているなんてどんな生き物……。
最初は2階建ての家くらいの大きさのワニだったのが今や山を越えている。
大きさが最初の切断される前の頃と同じくらいのサイズに頭だけで追いついていた。
「もう1回やる?」
「フーリア……でも2回目は流石にきついでしょ?」
「全然、私ならもう1回くらい……!!」
強がっているみたいだけど、彼女が疲労しているのは見て分かる。
次は巨大ワニの頭を攻撃しないといけない……。
噛まれたら今度こそ一撃で死ぬレベルの巨大な顎に挟まれる危険性がある。
なるべくそんな危険な事をさせたくない……という考えがあるのにフーリアと力を合わせないとあの巨大ワニもう1回真っ二つにできないのも事実。
ユウリも魔力切れでこれ以上負担は掛けられない。
こうなったら冒険者……最低でもギルマスの力を借りるか?
そんな時、突然ルミナが私胸から飛び出して来た。
「コォーンッ!!」
巨大ワニを前に可愛らしい鳴き声を上げて何かを訴えているみたい。
その声に反応して巨大ワニはルミナを見下ろす。
ピチピチと魚のように跳ねていたのが大人しくなっていた。
動物同士もしかしたら何か通じ合うものがある?それとも他に何か……?
巨大ワニは次の瞬間には大きな口を広げて耳が痛くなるような叫び声をあげる。
動物とお話はできないので急にそんな叫び声をあげた理由は分からない……私は思いっきり耳を塞いだ。
巨大ワニは頭だけなのに器用に跳ねて私達の方へ突っ込んできた。
瞬く間に空を覆う程の巨大ワニが私の真上まで飛んできて――
「ルミナッ!!」
咄嗟にルミナを庇う。
だけどこれ……やばいかも!!
「「「ルーク!!!」」」
死を確信していたその時、フーリア達の声が聞こえた……。
ここで終わりか……。
そう思った時だった。ルミナの身体が光り輝く……また私に力を貸してくれようとしている?
だけどなんだか今までとは違うような。
いや、今はそんなことを言っている場合じゃない。
この状態から助かるにはルミナの力を借りるしかない!!
――
ルークが巨大なワニに食べられてしまう瞬間、憎たらしいあの女狐の身体が光り輝いた。
あの狐と同化する魔法?術?みたいなものはあまり使って欲しくないんだけど、今はそんなことを言ってられないか……。
油断していた……あんな跳ね方で一瞬にして距離を詰めてルークを食べちゃうなんて。
口の中から出て来るにはルミナの力を借りるしかないけど……。
「アレをここでやって大丈夫なの?」
「ルミナの力を見せてしまうと危険……だけど、あの力があれば勝てるよね」
「そうね、何かあった場合は私達で何とか誤魔化しましょう」
「私達……か。まさかフーリアからそんな言葉が出て来るとは思わなかったけど」
「何よ」
「ううん、大切なルークの誕生日を隠して一人で祝おうとしてプレゼントも一人で用意するような重い愛情を持ってるわけだけど……」
「なっ……!!別にそんなんじゃないわよ!!」
「今朝、ルークがプレゼントした下着を付けてるの知って喜んでたくせに」
「……」
「魔力を通せば胸が小さく見えるのもルークを他に盗られ――」
「分かったから!!それより……!!!!!!!」
くっ……まさかショナにバレていたなんて……。
話を誤魔化すために視線を巨大ワニへ向けさせる。
というのもルークが再びルミナと同化した。だけどそれは前に見た姿とはまた異なっている。
前は炎の狐の耳と炎の狐の尻尾だったのが、今回はリアルな狐の耳と尻尾が生えていた。
獣人かと見間違えそうになるけど、狐の獣人とは違って尻尾一本付いた異質な姿をしていてルークだけどルークじゃないみたい。
私も何かできる事はないのか。
剣を握りろうとした時、手が火傷で上手く握れない事に気づいた。握った剣を落としてしまう。
「無茶はダメね。ここはルークとルミナに任せましょう」
「うっ……ルーク!死んだら許さないから!!」
こういう時に素直に頑張ってと言えない自分に腹が立つ。
だけどそんな私の言葉にルーク?は振り返って――
「安心するがよい。妾が終わらせてあげる」
その言葉は私じゃなくて巨大ワニに向けられているようだった。
なんだかルークとは雰囲気も口調も違う……だけどなんだろう私は今のルーク?の顔にルミナの姿が被った。
ルーク?は巨大ワニの方へ走っていく。武器も構えず、口を大きく開ける巨大ワニの方へ。
あの子は一体何をしているの!!あのままだと嚙み殺される!!
そう思った次の瞬間――ルークが巨大ワニの噛みつきを回避して高く跳ぶ。
そして軽く、巨大ワニの額に手を乗せる。
「落ち着いて、妾の中へ」
ルーク?がそう言うと巨大ワニはルミナが放った時と同じ光を放ちながらポワポワと消えて行った。
その巨大ワニは光の粒になって切断した上半身もろともルークの中に流れていく。
意味が分からないまま、巨大ワニとの戦いは呆気なく終わりを告げる……だけどルークはまだ帰って来ていない。




