第154話 不死身
上半身だけの不気味な巨大ワニとの戦いが始まる。
上半身だけということで移動手段が気になる所なんだけど、細い前足だけで這うように移動している。
その巨体に細い腕の力で大きな上半身を支えるのは厳しいのだろう動きが鈍い。
「ショナとユウリで巨大ワニの動きを封じて!」
「少しだけなら麻痺させられるかもだけど、前より一周り以上大きくなってるから長く続かないよ!」
「それでいいよ」
動きは鈍いけどあの顎に噛まれたら最後噛まれたところから切断される。
実質一撃必殺技持ちであり、そんな奴を相手にする場合の鉄則は前世で沢山ゲームをしていたので知っている。
それは……相手にターンを回さずに瞬殺することだ!!
鈍い巨大ワニの動きをショナは的確に捉えて一切の攻撃を許さず、ユウリが大地を操る魔法で木の根を操作する。
触手のように自由自在な木の根を使って巨大ワニを縛り、そこへ間髪入れずにショナが頭に雷の剣を突き差す。
「雷を落として、ライコウ!!」
雷の剣の名前をショナが叫ぶと、空から雷がどこからともなく出て来て巨大ワニの頭に落ちる。
しかし巨大ワニはその場で何が起こっているのか分からないような鈍い反応をしていた。
まるで雷を受けても何も感じていないみたい……。
それでも雷の影響で少しの間、身体が動かないのか身体を縛る木の根から出ようともがくことすらしない。
もしかしたら……痛みが無い……?
動きを封じられているこのチャンスを無駄にできない。私とフーリアは同時に剣を構える。
「フーリア、同時に斬るよ!!」
「私とルークで!?」
「うん、風と炎は合わさると威力が増すから」
「風と炎……私とルークが合わさると……!?」
私って風の剣のことだよね……?まあ間違ってはいないのかな。
これには私とフーリアが息を合わせるのが大事になる。
そんなこともまだ伝えていないというのにフーリアはこれまでに見たことも無い楽しそうな表情をしていた。
初めて見たけど、なんだか胸のあたりがゾワッとした。
今回はルミナのせいじゃない……気がする。
「行くよルーク!!」
「う、うん……」
巨大ワニは一度逃した魔物でもある。
間に入ってきたマレフィックが倒して持って行ってしまった。だからこそ私達の力で巨大ワニが討伐できるのが嬉しいんだろう。……そういうことにしておく。
なら私もその期待に応える!!
「炎帝剣!!」
「魔剣アスタロト!」
2人同時に巨大ワニの上半身の真ん中辺り、おそらく首に当たる部分を狙って剣を振り下ろす。
「焔薙斬り!!」
「死の翼!!」
炎帝剣の爆発的な炎とフーリアの魔剣アスタロトから放たれる黒い風の刃が巨大ワニの首に向かって行く。
風は炎に触れて、炎は膨れ上がり、風は膨れ上がった炎の勢いに乗る事で膨張する。
風と炎はぶつかり合っている限りずっと膨張し続ける。
これが私とフーリアの全力の一撃!!
しかし巨大ワニは前日に見た時よりも大きく、当然鱗も硬い。
「くっ……コイツ、前より遥かに硬いんだけど!!」
一度巨大ワニへ剣を振り下ろしたことのあるフーリアが言うのだから間違えないんだろう。
しかし私達のこの合わせ技は長く続けば続くほど勢いが増す。
弱点は燃料切れによる剣の精霊が力を使い果たしたら一時的に能力を使えない所と身動きが取れなくなる。
そして状況が良くないのはショナとユウリもだった。
「やば、こっちもそろそろ限界だよ~!」
「うっ……溜めてた魔力が……脂肪を魔力に変えないと……」
「あー!ユウリの可愛いお腹が……!!美人になっちゃった……」
「――っ!?」
限界という割にはまだ余裕がありそうな会話だけど……。
ユウリは魔体症の力を使っている。
身体の余分な脂肪と寿命を魔力に変えられるその力は強力だけど危険と隣り合わせだ。
寿命まで削らせるわけにはいかない!!
「フーリア、魔法も使うけど大丈夫?」
「どういうこと?」
「熱が、今でも私の隣に居るだけで熱いと思うんだけど」
「そんなこと?どれだけ熱くても耐えるわよ」
「ホントに?結構きついよ?」
「良いってば!子ども扱いは止めて!!私だってあなたの……このスイレンの仲間なんだから……」
仲間なんて要らないと言っていたフーリアにここまで言わせてしまったらもう引き下がれないよね。それに提案したのは私だし。
炎帝剣にさらに炎を追加する。
それは魔法で炎の勢いが倍に膨れ上がる。
魔法を使う事で魔導士であることが他の人にバレてしまう恐れもあるけど、今のこの戦闘中なら大丈夫!
「うっ……」
「フーリア!?」
「大丈夫だから……早く!!」
「分かった……」
熱でフーリアが火傷する前に終わらせる!!
剣に魔法を付与すると本来発揮できない力が発現する。
「女神剣……焔舞い!!」
天にも昇る炎の柱が一瞬だけ現れると同時に巨大ワニの首を落とした。
あまりの勢いで制御できず、地面にそのまま剣をぶつけてしまい凄まじい砂煙が舞う。
「うっ……ゲホッゲホッ!」
「ユウリ!一旦離れるよ~!」
ショナはユウリを抱きかかえて巨大ワニから距離を取る。
「ありがとショナ」
「やっぱり痩せてると軽いね」
「どうしてしょぼくれてるのよ……ルークとフーリアは?」
そんな2人の心配する声が聞こえてきた。
私は砂煙の中から叫ぶ。
「フーリア!一旦離れるよ!!」
「分かってるわよっ……ゲホゲホッ!!」
口の中に土が入ってきて気持ち悪いけど今は、すぐに場を離れる。
あの巨大ワニは上半身だけの状態でも動いていた。
さすがにあり得ないと思うけど……もしかしたら首だけでも動くかもしれない。
その危険性を考えて直ちに退く。
砂煙が収まるとそこにはぐったりと倒れる巨大ワニの首と首から下の上半身があった。
動いては……いないみたい。
「ふぅ……」
勝った。そう確信したまさに次の瞬間、ルミナが出て来て訴える。
「くぅうん!!」
「ルミナ……?……まさかまだ……!?」
勝ちを確信したその時、巨大ワニが再び動き出した。




