第153話 呼ぶ声
魔王教団殲滅作戦の最中に湖の周りの山から巨大ワニの頭が突き破るようにして出てきた!!
あの時、フーリア達が戦った巨大ワニよりさらに大きい……。
上半身だけだと言うのにどうやって生きているのか……そもそも目が真っ白で生きているようには見えない……というかめちゃめちゃグロい!!
何せ、上半身だけで切断されている部分は血がただれて常に赤い液体が滴り落ちている。
さらに一番苦手なのが、血を纏ったお肉の中央の骨が少し出ている。こういうのすっごく苦手なんだよね。
魔王教団はあんなものを飼っていたなんて……そう思っていたんだけど巨大ワニを見たアレンは驚いていた。
「なんだ、あれは?」
「あれはあなた達、魔法教団のモノじゃないの?」
「俺達がそんなことをするわけないだろ……大体あんなワニ見たこともない」
あの巨大ワニは恐らくフーリア達が戦った奴だ。
頭にショナが突き刺した時の跡が残っているから間違えない。
それに上半身はちょうどマレフィックに斬られた所だと思う。
そんな異様な巨大ワニを見て、サツキはアレンに対して怒鳴る。
「くっ……!おい、アレン!!このままだとあのワニに皆食われてしまう……ここはまずあれをどうにかしよう!!」
「気安く名前を呼ぶな!!」
「おわっ!?くぅ……なんてパワーだ……」
サツキの決死の訴えも虚しく、剣を振り下ろす。
このままだと本当にここにいる皆、あの巨大ワニに食べられちゃう!!
それほどのサイズに肥大化していた。
マレフィックが持ち帰った巨大ワニの半身ということは間違えなく、マレフィックが改造したか魔法で動かしているかのどれかだろう。
「マレフィックが巨大ワニの死骸に何かした?」
「巨大ワニ……どうしよ……」
他の冒険者達がエステリア学校の元生徒と戦っているので手が空いているのは私達4人くらい。
アレンをサツキ1人で相手してもらうしかない。
ラグナは先程吹き飛ばされた拍子に足が曲がっていて動けそうにない……。
それでも上半身だけ動かしてアーティファクトを操り魔王教団を止めている。
あれもあれで化け物ね……。
偶然か残っているのは私達スイレンの4人……これはやるしかないのか。
だけど山ほどの大きさの巨大ワニの頭……胴体は無く、赤い肉片の断面が見え隠れしている化け物が相手。
大丈夫かな……下半身がなくてもワニだから強靭な顎で噛まれたらひとたまりも無い、指示を少しでも間違えると誰かを失うかもしれない。
そうならない為にもよく見て的確に倒す。
よく観察するけどやっぱり疑問に感じてしまうのはあんな状態でよく動けるな、ということ。
巨大ワニを見ていると胸の中がゾワゾワとする。
気持ち悪いものを見て……という理由だけじゃない。
いや待って……これは……!!
次の瞬間、胸の谷間の間からルミナが顔を出す!?
「コォーン……!」
ルミナは悲し気な鳴き声を上げる……。
まるであの巨大ワニの痛々しい光景を見て悲しみのあまり嘆いているようだ。
「どうしたのルミナ?」
「さぁ……さっきから苦しそうに鳴いていて……」
「……あの巨大ワニに向かって鳴いてる……?どうしたのルミナァ〜?あ痛っ!?」
ショナがルミナの頭を撫でようとした時、その手をフーリアが弾く。
「なになになに!?」
「ルークの…………中にずっと居たんだから色々と触ると蒸れて……まずいでしょ!!」
「はぁ……!?」
「あ、汗とか付いてるかも……」
「……触っちゃダメと?」
「ダメ!」
「ん~凄い独占欲!!」
あれ?もしかしてだけどフーリアは……ルミナの事が好きなの!?
それかもしかして……私の汗が汚いと思われてる!?
た、確かに最近やたら膨らみが大きくなったことで蒸れるようになったけど……。
に、匂いがフーリアまで届いていたというの……!?
「そんな……」
「ルーク、何してるの?早くあの巨大ワニを倒すわよ」
「はい……」
「他人行儀なのは辞めて!絶交するわよ!!」
「ぅぅうううう!!分かったよ!」
くそ……この恨み、あの巨大ワニにぶつけてやる!!
私達スイレンの4人は魔王教団の戦いの中をくぐり抜けて行く。
しかしその様子をロナはよく思っていないみたいで戦いの隙に呼び止めようと叫ぶ。
「何してるのあなた達!あんな化け物に……早く戻りなさい!!」
離れた所からそんな声が聞こえてくるけど、無視した。
フーリアに絶交されないため、戦うというのもあるんだけど、あの巨大ワニは私を呼んでいる気がした。
私達はあっさり巨大ワニの真下までやってきた。
周りに魔王教団が居るけど巨大ワニに驚いて逃げようとしているので、ほとんど障害物はなかった。
しかし洞窟の出口は1つ。
そこへ魔王教団が向かうと冒険者達が返り討ちにする。
だけど人数差が圧倒的で冒険者側の手が回らない。何人か洞窟へ抜けて逃げて行ってしまった。
「グガァガァアアアアアアアッ!!!!!!」
耳を覆いたくなるような酷い鳴き声だ。そりゃ身体の半分の断面が山の斜面に直接乗っているからね。
痛みがあるのならそれは想像を絶するもののはず。
ルミナはそれを伝えるためにあんなに悲しそうに鳴いていたのかな。
そんな巨大ワニを哀れに思いながら観察しているとある違和感に気づく。
それは巨大ワニの断面に触れている山が抉れているということ。
そういえばあの奴隷の少女がどこへ行ったのか結局分からなかった。
出入口は塞いでいた訳だしね。
ということは最悪、第2の出入口があったということじゃないかな。
この巨大ワニはマレフィックが持っていたものだし、嫌な予感がする。
いやしかし今はマレフィックよりも大事な事がある!!
「皆……!戦える?」
「今更何を……アレは私達3人で1度倒したんだから」
「そうだったね……」
「だけど次は……ルークも手を貸してよね」
「フーリア……!」
臭いとかなんだかんだ言われたけど、私の事を嫌がっていないんだよね!!
フーリアが私を求めてくれている……こうなったら絶対に何が何でもあの巨大ワニをぶっ倒してやるんだから!!!!




