第150話 王子の号令
何とか魔王教団の薬を飲んで強化されたライカを無力化した。
彼女は力を使い果たして、弱々しい目でこちらを見つめながら大人しく縄で縛られている。
この子の命が助かって良かったけど、この目が何を訴えているのか分からない。
そんなことを考えて居るとは知るよしもないラグナは急に吠える。
「さぁ次は洞窟の中だ行くぞお前ら!!」
「まってラグナ」
「なんだよロナ、ビビってんのか?」
「そう言うわけじゃない。ただギルマスは時間を稼げって言っていたでしょ!」
湖の出入り口はこの洞窟のみ。
時間を稼ぐならこの出入り口を塞いでいた方が賢明だろう。
私達が依頼で来た時は他に出入りできる場所は無かったはずだからね。
「だが!連中が一斉に出てきたらどうする?さすがに外の騒ぎには気づていると思うぜ?」
「騒ぎに気づいて狭い洞窟の中から出てくるのなら好都合、もし人数差がある場合でも少ない数をお互いにぶつけるしかなくなる」
「ちっ……じゃあ俺が洞窟の中を見張る。出てきたらぶっ飛ばす!!」
「……殺さないのならいいわ」
とりあえずギルマスが助けを呼んできてくれるまで待つことになった。
しかし……何だろう何か嫌な予感というか気配がする。
「どうしたのルーク?」
「いやぁ、なんだか寒気がするんだよね」
「寒さを感じにくい身体でしょ?」
「そうなんだけど……そうじゃなくて」
私体質で身体が常に常人よりも熱くなっている。そのため寒さを感じる事はほとんどない。あるとすれば私の剣の熱を冷ます程の冷気を放つくらい。
ただ……この寒気には覚えがある。最近あった……そう……。
頭の中でその時の光景を思い出す。
それは学校の廊下の窓越しに見えていたボロボロの……。
「奴隷の少女ハマル……?」
あの時に見つめられていた時と同じような寒気だ!!
辺り一帯を見回すと洞窟の断崖絶壁の頂上にあの時の奴隷の少女、ハマルが立っていた。
「あなたは!!ここにあの魔導騎士が居るの!?」
「……早く来て」
「は……?」
「早く中へ入ってきて……じゃないと私は……」
それだけ言うと奴隷の少女ハマルは隠れてしまう。
断崖絶壁で登るのは大変だから洞窟を通らないと追えない!!
まだ少し嫌な寒気が残っている……まるで身体にハマルの魔力を無理やり流されているような気味の悪い感覚。
「ルーク……あれって」
「魔導騎士……マレフィックの連れていた奴隷の子だね」
「げっここに居るの……?」
ショナ達は私よりも近い所でマレフィックを見ていた。
だからこそ分かっているんだろう……アレとは戦わない方が良いと……しかしそれを知らない好戦的な冒険者達はその名前を聞いて興味津々だ。
どうせギルマスが来るまで暇だし、他に話した出来事なので何があったのかを伝える。
すると誰もが魔導騎士と聞いて苦い顔をする。
「魔導騎士がなんで魔王教団に?」
「さぁ……」
神のような存在と教えられている人達からすれば魔導騎士を相手にしたくはないだろう。
もし何かあれば自分達がどうなるか分からないんだから……。
しかし私の思っていた反応とは少し違った。
「いや、魔王教団に協力してる魔導騎士なら殺しても誰も文句言わないんじゃないか?」
「何を言って……そんなことをしたら……」
「考えてみろ。魔王教団を滅ぼすのには保守派の魔導騎士達も協力していた。その魔王教団に属する魔導騎士なら……クククッ」
「ラグナ……!!」
「革新派の魔導騎士には散々、舐められてきたんだ!たまにはこっちがやってもいいだろ!!」
その言葉に冒険者達は同調し始める。
魔導騎士を相手に指揮が下がると思いきやむしろ全体的に上がった……?
よほど革新派の魔導騎士に恨みがあるのかな。
保守派の事はあまり気にしていないみたい、それならサツキ達が敵視されることは無いから良かったけど……。
全体的に指揮が上がった所でようやく待ちに待ったギルマスと沢山の兵士と残りの冒険者、そして凄く豪華な装飾を纏った青年が駆けつけてくれた。
「ちゃんと待っていたか」
「おうギルマス!ようやく来たか!!とっとと魔王教団をぶっ潰そうぜ!」
「見張りは居ると思っていたけれど……誰も死なせていないようで感心したわ」
「えへへ、ありがとうございます!まだまだ戦えるんで早く中へ……」
先ほどまでの話の流れを知らないギルマスはラグナのやる気満々な様子に鬱陶しそうにしていた。
そこへ駆けつけてきた豪華な装飾を纏った青年が割って入ってくる。
「第一王子のメフィスト=ルエリア=フォン=エステリアだ。今回もまた冒険者の皆さんの力を借りさせていただきます」
この国の第一王子であり、次の国王と呼ばれているメフィスト王子。
クレストと同じ金色の髪を持った顔の整って綺麗な服を着たまさに王子様だ。
柔らかい表情からサジタリオンを彷彿とさせるし高身長で年齢も20代前半くらいの好青年。
そんな第一王子の言葉を聞いていると――
「俺も駆けつけに来た」
「サツキ……」
そしてもう既にパーティメンバーとさえ錯覚してしまうようにそこにはサツキが居た。
「サジタリオン様とマツバさんは?」
「……サジタリオン様の方が来てほしかったか?」
「どちらがというか……強い方が居てくれるとありがたいのですが……」
「……エステリア学校の校長だから、襲撃などに備えてくれている。俺じゃダメなのかよ……」
「なんか言った?」
「何でもない……」
どうやらサジタリオンはこの湖占拠が陽動でエステリアの街へ襲撃に来ると考えているらしい。だから今回は街に残って警戒しているという。
ちなみにサツキを見ても誰も何も言わない。
これも保守派という事で信頼されているのだろうか。
それとも革新派が酷すぎるのか……。
「さぁ皆、今日まで魔王教団を退けるために良く戦ってくれた……残りの魔王教団の殲滅のために洞窟へ潜入する!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
王子の号令で私達は洞窟の中へ入っていく。
不安があるけど、今は目の前の敵に集中しないとね!!!!