第144話 天秤
フーリアがずっと外へ出ていた理由はまさかの私の誕生日プレゼントを買いに行っていたという予想外過ぎるモノだった。
正直驚いたというか……そもそも私自身、誕生日の事を忘れていた……。
母上が亡くなってから私の誕生日を祝ってくれるのはメイドのアナくらいで嬉しいけど、もう必要のない行事だと思っている。
精神年齢はアナ達よりも上だし……。
だからこそショナ達には私の誕生日を伝えていない。
フーリアは幼い頃からの友達で私の誕生日を知っている数少ない人だけど、まさか祝ってくれるとは思いもしなかった。
てことは私はもう17か……?あれでも1年生は15歳からだから……今日で16……?
今まで今年で16だと思ってたからずっとそうだと思ってた。
ここまで自分の誕生日に興味を無くすとなんだか悲しくなってくるね。
前世でも自分の歳を忘れる事があった。年齢に興味が無く、誕生日も祝ってくれる人なんていなかったはずだから。
まさかここでもその弊害がでてしまっていたとはね。
「いーな!私も欲しかった!」
「ショナはいつなの?」
「入学式の次の日!」
「早過ぎる」
「そう……だから祝ってもらえなかったよ」
その日に関しては忙しい時期なので仕方ないと言わざるを得ない。
ちなみにユウリはハーベストに居る間には誕生日を迎えていたらしい。
それを聞いたショナは驚いて声を上げる。
「えええええええぇぇぇぇぇぇ!?なんで言うの!?どれだけ聞いても教えてくれなかったのに!!」
「ショナは知らなかったんだ……」
「ユウリとは2人より早く知り合ったけど……何故か教えてくれなかったんだよ!」
「……で等のユウリはなんで言わなかったの?」
「え、誕生日はうるさいから……主に家の人達が……だから嫌いになった」
お偉いさんの誕生日は豪勢だったんだろうけど、ユウリには合わなかったらしい。
何ともユウリらしい理由だ。
「まあでもユウリが誕生日教えてくれなかったのが暗い理由じゃなかったから良かったぁ~!!」
そしてショナはそんな理由を聞いて何故か安心していた。
「ん~だから気にしなくていいよ」
「ダメ!来年は絶対に祝う!!」
「えぇ……祝われたら私も祝わなきゃいけないじゃない」
「いいじゃないそれで」
「めんどくさい」
「そこは……頑張ろうよ!」
どうやら誕生日を明かさなかった理由は自分も祝わなければいけないという理由もありそうだ。
私を含めたこの4人はそれぞれには誕生日対して感じることが違い、複数の人と関わっている事を何故かここで実感した。
そろそろ気になっている誕生日のプレゼントを開けよう!
私は誕生日プレゼントが何のか手に取って出す……しかしそれを見て私は素直に喜ぶことができなかった。
なぜならそれは――。
「なんで……下着……」
「さ、最近大きくなって苦しそうだから選んでやったのよっ!」
「……サイズは――」
「合ってるわ」
「なんで知ってるの!?」
私は自分のサイズを誰にも伝えた事はない。
しかし覗かれた事は何回はあった。
ショナの家でお風呂に入る時にあった気がするんだけど……。その日から警戒していたはず……まさか私の警戒を掻い潜ってそんなことを?
いや、これはショナの家でお風呂に入っていた時に触られたからその時に計った奴かもしれない。
という事は絶対にサイズが合っていない!!そのはずなのに……。
「なんか見た感じぴったり……?」
「そりゃそうでしょ」
「いやいやいや……当たり前に言わないでよっ!」
デネブは女生徒を利用してまで私の事を調べるストーカーだと考えていたけど、フーリアも大概な事に気づいた。
だけどデザインは普通……というか地味なモノばかりだった。
個人的には勝負下着なんてプレゼントされるよりはマシなんだけど……そもそも友達にこういうものはプレゼントしないでしょ……。
「それで苦しくないでしょ?デザインもルーク好みよ」
「……それはありがとう」
友達とはいえ女子は下着を送り合うものだろうか?
絶対そんなことは無いと思うんだけど……まだこの世界で女の子に転生して16年……不思議な事もあるもんだ。
て思ったけどそう言えば今までそんな友達がいなかった。
悲しくなってくるのであまり考えるのはやめよう。
「結構買ってるね……でもなんかサイズが大きいのもあるよ?」
「それはルークの成長具合を観察していずれ着られるようなサイズを買って来たわ。デザインも大人になるにつれて――」
フーリアは饒舌に説明し始める。
まるで好きなモノを語るオタクのようだ……。
私でも分からないこの成長をどうしてフーリアは想定できるのか。まさか……ずっと私の事を観察していたとでもいうのだろうか。
普段からフーリアに睨まれているからそれはそれで怖いんだけど……。
しかし、実の所ありがたいので頂いておこう……怖いけど、苦しいのは事実だったので!
意外過ぎるフーリアのプレゼントは少し考えさせられるものだったけれど、結果嬉しい事に気づいた。
だってあのフーリアから貰えたんだし!
嫌いな人にプレゼントなんて送らないはずだから少しはマシになったのかな?
そんなことを考えながらプレゼントを自室へ持っていく。
その瞬間、フーリアは私の肩に手を置いて小さく呟く。
「あっそうそうルーク」
「何フーリア?」
「その下着、付けたまま他の誰かに見せたら殺すから」
「ひぃ……!?」
嬉しかった感情が一気に冷めるのを感じた。




