第143話 繋がり
悪い女神と聞いて思い出すのはやっぱりあの祠の事だろう。
「わ、悪い女神……まさか祠に書いてあった……」
「祠……?まさか魔導騎士の歴史を知っているんですか?」
「魔導騎士というか勇者ルークの話を最近になって知りました」
「勇者……なるほどこちらではその様に伝わっているのですね」
「……そう……ですね」
勇者と伝わっている事を知らない?なのに勇者ルークは知っている……話が噛み合っているようで違和感がある。
魔王教団は魔導王を復活させるために組織されたと聞いたんだけど、まさかその魔導王が女神……?
「祠の話を読んだ限り、女神って世界を滅ぼしかねない力を持っているんですよね?」
「そうですね」
「しかしそれをどうして魔導騎士であるあなたが知っているんですか?」
「それを応える前にまずは私の話を――私は革新派から保守派へ寝返るつもりです。裏切りなどの行為は好きではありませんが……もうあの人達にやり方には付いていけません」
「それとどういう関係が……」
「革新派は最初の魔導騎士の血筋が多く、数多くの伝承が残っています。これは既にサツキさんにも話してあります」
「それを私たちにも……?」
「サツキさん達と仲が良さそうなので……」
もしかしてサツキが外で待って居るのってこれをベガに教えてもらったから伝えるためなんじゃ……。
だとしたらここで話を聞いてしまうのは申し訳ないんだけど……。
多分12月1日の冬の寒い外でずっと待ってるんだよね。
しかしベガは止まらない。
「革新派の方達の中に魔王教団と繋がっているモノが居ます」
「な、なるほど……」
なんとなくそれは考えていた。
だってあからさまに魔王教団に星と関係する名前を持った人達が居たんだもん。
それでも確信が得られたのは重要だ。
ただ1つ気になるがその星を関係する名前を持った魔王教団の人達は魔法か剣どちらかしか使っていなかったところ。
「そんなに大勢が魔王教団に出入りしているとは聞いたことがないです」
「ふむぅ……」
本当に革新派の魔導騎士と魔王教団が繋がっているのか?
そうだ、名前……繋がっている魔導騎士の名前を聞けば何か分かるかもしれない。
「それなら……一番有名な方なのですがマレフィックという狂暴な魔導騎士が居るはずです」
「マレフィック!!」
「知っているんですか?」
「実は前に……」
祠であったことをベガに話す。
話を聞いたベガは青ざめた顔で驚いていた。
「よ、良く生きていましたね……」
「見逃してくれたというか……巨大ワニは取られたんですが」
「巨大ワニ……?伝承の聖獣……ではないでしょうし……どうしてそんなものを彼が狙ったのか分かりませんが……とりあえず無事でよかったです」
「伝承の聖獣……?」
「あ、その話はいつか他で今は関係ないので」
聖獣とか居るんだ……。
だけどその話は今は関係ないみたい。
「まさかその人が魔王教団の一員だったなんて……」
「あくまで噂程度ですが……少なくとも表立って魔王教団は名乗っていないはずです」
それじゃあまだ確信があるわけじゃないのか……いや、疑い過ぎるのは前世からの私の悪い癖かもね。
ベガは長年生きてきた私の感性を持ってしてもつけ入る隙の無い子だ。
「とりあえず話はこんな所です」
「ありがとうございますベガさん」
「いえいえ~、そう言えばこれは全く関係のない話なのですが……その節、私が試合をさせていただいたフーリアさんは?」
「用事でどこかへ行ってしまいました」
「そうですか……健闘を称えたかったのですが、仕方ありません。またゆっくり話せる機会が待ち遠しいです」
そういえばどこへ行ったんだろう……話は変に盛り上がってしまい、気づけばお昼時。
ベガは話を終えると部屋を去って行ったのでこれから昼食を取ることに。
「どうする?」
それは寮で食べるか外へ出て外食するかの二択だった。
寮だとまたデネブと鉢合わせになる可能性があるので外食が良かったんだけど、フーリアと鉢合わせた時の方が気まずい。
絶対に来ないで!と言われてしまったんだから、急に鉢合わせでもしたら付けられたんじゃないかと勘違いされるかもしれない。
ここはフーリアのためにも寮で食事を取るしかない……か。
「大丈夫、私達には外で待って居るあの人が居るんだから!」
「あ、そうだね!」
「こういう時の保守派の魔導騎士だよ!」
サツキは何かあったら助けてくれると言ってくれたし、皆で食事を取ればいい!
そんな理由で食事に誘うなんて何とも申し訳ないけど仕方ないよね。
私達はサツキとマツバを入れた5人で一緒に昼食を取る。
「そう言えば知っているか?魔王教団に――」
「あ、その話はベガに聞きましたよ~!」
「え……俺、外で待ってたのに……」
ショナの純粋な言葉に遮られていたたまれないサツキの言葉を聞いて申し訳ない気持ちになる。
食堂では魔導騎士も多く居て何故か奇異な目で見られていた気がするけど、サツキ達のおかげかそれ以上の事は無かった。
そうしてベガが訪ねてきた以外は何も無かった休日が終わろうとしていた……しかし私達には不安が残っていた。
それは――フーリアが帰ってこない。
そろそろ寮が締まる時間……締まると中に入れないので帰ってこられないとあの子は野宿する羽目になる。
そんな心配をしていた門限ギリギリの時間、慌ただしく廊下から足音が鳴り響く。
そして私達の部屋の扉が音を立てて開いた。
「はぁ……はぁ……」
「「「フーリア!!!」」」
門限ギリギリでフーリアは帰ってきた。何か重い荷物を持って……。
「何してたのフーリア?」
「……」
私の問いに何故か黙りながらゆっくりと近づいてくる。
な、なんだろう……?まさか怒られる……?
何かしたのか頭の中であったことを思い出すけど……思い当ることがない。
そんなことを考えているとフーリアは大きな袋の取っ手を私の方へ向けてきた。
「はい、これ」
「え……?何?」
「今日は12月1日……ルークの誕生日でしょ」
「もしかしてプレゼント!?」
顔を赤く染めて恥ずかしそうに俯きながら手渡して来たそれを困惑しながらも受け取った。




