第142話 意外な訪問者
あれからフーリアの様子がどこかおかしいんだよね……休日は予定も無いのでお昼時に目を覚ます。
部屋のリビングへ向かうとショナとユウリがソファで寛いでいる。
しかしやはりそこにフーリアは居なかった。
「フーリアは昨日言ってた通り居ないのね」
「ルークおはよー!フーリアなら朝起きてすぐ街へ行ったよ」
「……何の用事だろう?」
「さぁ……だけど絶対に付いてくるな!付いてきたら絶交だからパーティ抜けるから!!!!って言われた」
「そこまで!?」
本当に何があったのだろうか。
それは本人しか知る術はない。
どこかへ行ってしまわないか心配だけどそこまで嫌がっている彼女に付いていくのは逆効果だ。
このままずっと寮に居れば戻ってくるだろう。
そんなことを考えていた時、3人も人が居るのに静かな部屋の扉のノックされる音が響き渡る。
トントンッ……小さなノックの音が静かな部屋に響く。
フーリアならノックをせずに入ってくるだろうし……一体誰だろう?女子寮に居て私達の誰かに関係があるとすれば……フレイヤかな?
頭の中で私達に用がありそうな女生徒を想像する。
ここは女子寮の中だから男子は入って来られない。
部屋の扉を開けるとそこに立っていたのは……全く知らない人だった。
黒い髪に黒い目……どこか日本人っぽい装いをした小柄な少女……。
だけど彼女から発せられる魔力は不気味な程に穏やかだった。
そして何よりも驚いたのが腰に立派な刀を差している。魔力持ちで剣を使うってことはつまりこの人は……。
「魔導騎士様……?」
「様は要らないです……私はベガ。その節、フーリアさんとお手合わせさせていただいた者です」
「あぁ……確か」
魔導騎士との親善試合でフーリアが戦って負けた相手、だけど何1つ嫌な感じがなかったって言ってた子か。
あの試合後にデネブとアンドロメダと名乗る魔導騎士が嫌味を言いに来ていた。
アンドロメダ達と一緒に居る所は見たことが無いのでこの子は革新派とはまた違うのだろうか。
「と、とりあえず部屋の中へ入りますか?」
「あ……もしよろしければお願いします」
革新派の魔導騎士とは思えない程ベガは大人しく良い子だった。いちいちお辞儀をしてからスリッパを並べて部屋に入ってくる。
お茶を提供するとベガは何も警戒することなく人啜りする……とっても上品な子だ。
「美味しいです……これはアマノの国のお茶ですか?」
「ギルマスが東の国から輸入して来たお茶です。知ってるんですか?」
東の国……確かハーベスト帝国よりもさらに奥にある大国だ。
名前は聞いたことが無かったけどそんな名前なのね……。
「それはもう!私達魔導騎士のご先祖様が作った国ですからっ!」
「そうなの!?」
「はい!だからこのお茶を久しぶりに飲むことができて嬉しいです!!」
魔導騎士だからと警戒していたけど、いい子なのかも?少なくとも私の目にはそう映っている。
だけど気になるのはどうしてこの部屋へ訪ねて来たのかその理由だ。
「あ、すみません……要件を忘れていました。あ、でももう1つ、外でサツキさんが待っていますよ」
「サツキ……?どうして?」
「さぁ?ただ女子寮よりも少し離れた所でずっとソワソワしていました」
「……ソワソワしていただけ?私を呼ぶように言われたのでは?」
「いいえ?ソワソワしていたのでそれをお伝えしておこうと」
「へ?」
「え?」
話がかみ合わないというかそんなあやふやな理由で部屋へやってきたってこと……?
さっきまで彼女に対して警戒心を持っていなかったのが嘘のように彼女を警戒する。
するとベガは何かに気づいたのか、手をアワアワさせる。
「あれあれ……?サツキさんとルークさんってそう言う関係じゃないんですかー?」
「そう言う……?」
「恋人では?」
「違いますよ!!」
「そうなんですねー。てっきり外で彼氏さんが待って居ると伝えた方が良かったのかと……」
「……」
私の薄い前世の記憶でも沢山の人生経験を積み、この世界とはまた異なる人達と対話し、ある程度は嘘を見抜いたり、この人とは関わらないようにするべきだと考えたりしていた。
そんな経験をしたことがある私でも彼女のこの応えに頭を悩ませる。
私の事をからかっているのか本心で言っているのか……?後者ならこの子は凄く天然な子なのも……?
「そうですかー……でもちょうどよかったです!」
「何が……ですか?」
「はい、私もあなたとお話をしたかったんですよルーク様」
「どうしてそんな敬称を……どちらかというと私の方が――」
「あ!ルークと言えば有名なお名前ですのでつい……」
「はぁ……?」
もしかして私のご先祖様のお話をしているのだろうか?
まさか魔導騎士に一目を置かれるほどとは……あの遺跡で見た通り一度世界を救っていたというのも間違えじゃないのかもしれない。
「話はもしかしてこれだけですか?」
「まだあります!!私は革新派ではありますが、彼らの思想こそ理解しつつも過激な事はしたくないんです」
「ほう?」
「魔導騎士として力を行使するのは来たる悪い女神の復活の際に戦うためですから!」
「革新派の思想って何なんですか?」
今更ながら革新派と保守派の違いについて気になったので聞いてみる。
保守派は私達のような一般人とも同じように接してくれるみたいなことをサツキは言っていた。
じゃあ革新派は……。
「私達革新派の最終目標は悪い女神を倒すことです」
「それにしては過激な人が多いですが……」
「お恥ずかしながら……午前ぞ様が伝えた目標も忘れて力があるのを良い事に自分勝手な人達が多いんです」
悪い女神とは勇者ルークとの戦いを描かれた祠に出てきた奴だろう。
倒したって書いてあったけど、もしかしてまだ生きているのだろうか?
「なので私も革新派を離れて保守派に付こうと考えているんです」
「もしかして私とサツキが付き合っていると仮定して声を掛けてきたのは……」
「それを口実にあなた達と親睦を深めるためです」
「なるほど……」
ただの天然だと思っていたけど、意外に狡猾なんだ。
「手始めにもう1つおそらくルークさん達が気になる情報を提供します」
「聞かせてください」
「魔王教団が復活させようとしているのがその悪い女神の可能性があります」