第138話 秘密
突如フーリア達が戦っていた巨大ワニが風の魔法と剣で真っ二つになった。
風ならフーリアが居るけど魔法は使えない……唯一魔法が使えるユウリは巨大ワニから少し離れた所に居て魔法を使った形跡がない。
つまりこれは……第三者の介入!!
「皆ッ!!」
魔力切れのせいで動けない身体を洞窟の壁を使って腕だけで立ち上がる。
魔力は切れたけど剣士としての身体能力はそのまま……それでも壁を使わないと立ち上がれない程だった。
立ち上がり巨大ワニの方を見てみると風で舞っていた砂埃が収まる。
直後、ショナとユウリが私の方まで戻ってきた。
「2人とも!フーリアは?」
「げっ……あの子、退いてないの?」
「フーリア!!」
私の声は聞こえているはずだけどフーリアはこちらに見向きもしない。
砂埃の中から巨大ワニを倒した2人の人影が見える。
「巨大ワニ討伐完了だ」
「……」
中から出てきたのはおそらく魔導騎士の男性……。そして首に重そうな首輪を付けている奴隷の少女だった。
フーリアは突然割って入ってきて獲物を横取りされて怒っている。
きっと彼女は止まらないだろう。
「ちょっと!これは私達の獲物なんだけど?」
「ん?お前、俺に命令するか?」
「俺って……誰よ」
「ふむ、下賤な女だ。まあいい、今日は気分が良いから教えてやる……俺は死星マレフィック魔導騎士だ」
「また魔導騎士……」
「様を付けろ。気分が良いから赦すが、下手したら首を落としていたぞ」
マレフィック……星って付いているからには魔導騎士の子孫だよね。
年齢は見た感じ19歳くらいの青年。漆黒のように黒い髪に同じく黒い瞳を持った不気味な男だ。
身体から黒い靄が見えていてその異質な存在感を放っている。
「巨大ワニは殺した」
「それは私達の獲物だってば!!」
「だが殺したのは俺だ。そうだなハマル」
「はい……」
奴隷の少女ハマルは言わされているようだ。しかしそれが気に入らないのかマレフィックはおもむろにハマルという名の奴隷の少女を蹴り飛ばす。
ハマルの身体が死んだワニの硬い鱗にぶつかって痛そう……。
あんな少女に当たるなんて最低!!
水色の長い髪に水色の瞳、首には奴隷の首輪を付けて服も貧相なモノしか与えられていない。
年齢は私達くらい。
「ちょっと何してんのよ!」
「お前はさっきからなんだ?俺の視界に出て来て俺の話に入ってくる。目障りだ」
「はぁ!?」
まずいな……フーリアとマレフィックは相性が悪いみたいだ。
早く引き離さそうと!!
ショナにフーリアを止めるようにお願いしようとした時、既にそこに彼女の姿はなかった。
そして次の瞬間にはフーリアを抱えて戻ってきた。
凄く速い……いつの間にこんなに強くなっていたんだ。
「ちょっと何するのショナ!私達のワニが取られる!!」
「ここは……彼に譲ろう」
「どうして!?」
「魔導騎士……様には関わらない方がいいから」
「ショナ……」
ショナはそれを嫌という程思い知っている。
そのため、私がお願いするよりも早くフーリアを庇いに行った。
「物分かりが良いな小娘」
「どうして……そのワニが必要なんですか?」
「ふむ、お前達には分からないだろうがコイツは特殊な生き物でな?何か重要な秘密を隠し持っているから持って帰るんだ」
「はぁ……?それってアンタも知らないんじゃ――」
「わあああああ!!フーリア!シーッ!!!!!!」
「んぐっ!?」
これ以上不敬な事を言わせまいとショナはフーリアの口を塞ぐ。
その様子を奇異な目で見つめていたマレフィックだけど、どうやら怒ってはいないみたい。
怒ってはいないけど何故かこちらをずっと見ている。
いや……私の事を見ている?
「そこの赤髪の女……お前、魔導騎士か」
「え……いや……」
「分かるんだよ。俺は魔導騎士の革新派の中でも優れているからな!!」
「……」
「図星か。しかし魔導騎士が情けない……まさか魔力切れで動けないとはな」
「……」
こっちの事情は知らないみたいね。ということは先の私の魔法は見られていないか。
それにしても魔力感知で魔導士だとバレるのはまだ分かるけど剣を出していない状態から剣士でもあると察したこのマレフィックとはいったい何者なの……。
とりあえず沼の水を抜いたことは隠すべきね。
「そんなわけないでしょ。ルークはここの沼の水を1人で抜いたのよ」
「フーリア!?」
何言ってるのこの子っ!?
私が隠そうとしていたことをあっさり話してしまった。
しかしそんなことを聞いてマレフィックは高笑いする。
「ガハハハッ!!そんな小娘にできるわけないだろ!!!!」
「なッ!!さっきから小娘小娘ってアン――んぐあっ!?」
次はもう逃すまいとショナは雷を使ってフーリアの身体に電流を流す。
麻痺させて動けなくした。
えげつないけど……助かった。
「まあいい、それより赤髪の女……お前ルークと言うのか?」
「は、はい……」
「ふん……お前やお前にその名前を与えた者はいずれ罰が下るだろうな」
「え……」
「分からないのならいい。じゃあこいつは貰っていくぞ」
ハマルの名前を呼んで巨大ワニの半分を持たせる。さらにマレフィックももう半分を持ち上げる。
マレフィックはともかく、あんな少女のどこにそんなパワーがあるのか。
奴隷でやせ細っているのに凄い腕力だ。
巨大ワニを盗られてしまったのはムカつくけど、あれには関わらない方が良い。
巨大ワニの硬い鱗……それも背骨の部分をまるで紙を切るように軽やかに斬った。
あんなのパワー自慢の私でも不可能だ。
それだけアイツは剣士として格上だった。
マレフィックの姿が見えなくなるのを確認して私達はため息を同時に付いた。
「「「はぁ~」」」
「ん~!!」
1人痺れてしまい、ため息すら付けない子が居るけど……。
最悪な結果をギルマスに報告しなければいけない事に何とも言えない喪失感を感じながら巨大ワニと戦った湖の底を見やる。
沼の水抜きをして、汚いものを再生の炎で浄化しただけあって綺麗だ……水は無いけど。
よく見てみると炎で浄化して巨大ワニも退かされて沼の中の様子がはっきり見えるとそこには遺跡のようなモノがあった。




