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第134話 最悪なスタート


 胸糞悪い試合が終わった翌日。


 エステリア学校は寮があり、私達はそこに住んでいるので朝早くに目を覚ましては朝食のために食堂へ向かう。

 ハーベストでは知っている人達や雰囲気の良いギルド内とは違う騒がしさがここにはある。

 

 ハーベストと違い、魔導士は剣士を、剣士は魔導士を下に見ている人も少なくない。

 険悪な雰囲気を纏いながら食べる朝食は味がしない。

 それでも食事を取っておかないと昼の授業まで持たないので、多めの朝食を選ぶ。最近妙にお腹が空くようになってしまった。

 

 ……おそらく成長期……私がそう思ったのには当然理由がある。


 最近どれだけサラシをきつく巻いても限界でそろそろ新しい下着を買いに行かなければいけない……。

 成長期って……こんなにはっきりわかるものなのだろうか。


 そんなことを考えながら食べ進めているとデネブが通りすがりに話しかけてくる。


「おい、ルーク。今日こそわからせてやるから勝負しろ」

「……今日は実技の授業が無いので」

「無くても戦える」

「それほど簡単なモノじゃないんですよ……試合をするにも事前に許可が要りますし」

「そんなのはどうでもいい。俺様が言えばいつでも戦える」


 ……この人はそこまでするのか。

 

 権力者というのは本当に嫌ね……って私も一応貴族だった……。

 と言ってもこの世界の貴族は上に王族が居て、さらにその上に神と称される人達が居るんだけどね。

 

 だから権力を振りかざした貴族ってのはこの世界じゃ少ない。

 その代わり王様よりも数は多いくせに悪質な権力者(エーテルナイト)が居る。

 

 このデブ……じゃなくてデネブがその1人だ。

 

 正直に断り続けてもおそらく無駄だろう。無理やりでも試合をするように言ってくるはず。


 自分の女になれと言われたら相当きついんだけど、そんなことを言ってくる気配は今の所無い。私に力を差を見せつけて服従させるのが目的だろう。

 昨日の戦いで辱めを受けたからプライドがまず納得いかないと許せないか。


 ならばそこをうまく使おう。

 これでも精神的な年齢はこのクソガキよりも1回り上だし!


「さすが魔導騎士(エーテルナイト)様ですね。私達では敵いません」

「ふん、そうだろう?魔導騎士(エーテルナイト)はこの世で一番尊い存在だ」


 何も尊くないから死ね!!とは口が裂けても言えない。

 むしろもう少し褒めて機嫌を直そう。

 

「そ、そうですね。全力でやったら負けるのは私ですし、どうか鞘を納めてください。痛いのは嫌なので」


 全力で戦った場合、昨日の試合を見る限り私の動きへの対応はまだ出来ていない。傷は追うかもしれないけど多分勝てる。

 それだけの実力は持ち合わせているという事は事実でこれはブラフだった。

 

 上手く引っかかるか不安だったんだけど……デネブの次の笑顔の表情を見て成功したことを確信する。


「そうか!まあそうだよなぁ!!あの時は俺様が油断していただけ、あんな炎を吐いただけの突進なんか誰でも捉えられる」

「そ、そうですね」


 それを本人の目の前で言っている事に気づいていないのかな。

 私に対して悪く言っているというよりも素で思ったことを言っているように感じ取れる。

 本当に絵に書いたような権力者だ。


 デネブは上機嫌になって試合の事を忘れたのか食堂を去って行った。

 背中が見えなくなった所でようやく気を緩める。


「はぁ……」

「お疲れルーク。嫌なのに目を付けらちゃったね」

「全くよ……フーリアも殺意をむき出しにしない。怖いってば」


 事前に学校では絡まれることが多くなるだろうとフーリアに伝えていたので何とか抑えてくれているが、既に我慢の限界に達しているようだ。

 元々沸点は低い方だからこそ、デネブとの相性が悪そうなんだよね。


 まだ朝……今日は始まったばかり。朝食を終えて学校へ登校して教室へ入ると早速デネブに絡まれる。

 

 授業の内容はいつも通り既に習った事ばかりで面白みに欠ける。それ故にどんな問題でも簡単に解くことができる。

 ただそんなことは知らず、自分の知っている知恵を見せびらかすようにデネブが自慢してくるんだけど……。


 ペラペラぺラと「これはこうでおまえみたいな貴族風情には分からないだろう」とか「あーこれね。アマノの学校で習った奴なんだが……ってお前じゃ分からないか(笑)」みたいなことを言われる。

 ちなみにそれが3日続いた。


 それでも学校には休みがあるので遂に休日がやってくる。


「ヴェアァ……」

「きもい声出さないでルーク」


 休日はギルドへ行って依頼をこなす予定だったんだけど、3日間による拷問を聞き続けてベッドの上で起きられずにいた。

 魔法を使い続けるよりも体力が要る作業だった。


 変に反感を買わないように気遣いしながら嫌な言葉も浴びせられ続けた。当然の如くセクハラじみた事も言われて病んでしまいそう。


「今日は依頼やめとく?」


 ショナは気を使ってくれる。

 だけどこのままベッドで寝ているとデネブの顔を思い出して鬱病を発症しかねない。

 ここは気分転換に外へ行くべきか。

 

「ううん、行くよ!」

「大丈夫なの?」


 ショナはいつも私の心配をしてくれる。

 本当は何もせずに休んでいたいけど、気分を変える事の方が大事だと自分にそう言い聞かせて勢いよく立ち上がる。

 

 するとなんだか胸の方が重かった。見てみるとサラシがズレていた。


「大きくなったね……なんか」

「なんかって……サラシを巻いてから行きましょう」

「何したらそうなるの?」

「何もしてないから」

「そういえば毎朝……いや朝も昼も夜もたくさん食べるようになったよね」

「……」

 

 だから本当に成長期なんだろう。

 サラシをきつく巻き直してから部屋を出る。


「さぁ学校での嫌な事を忘れてギルドの依頼を受けよー!!」

 

「「「おーッ!!」」」

 

 そんな多少無理をしてでも私は寮をでてギルドへ向かった。

 その道中でデネブに出会わないか恐れながら……。


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