第132話 最悪な試合
革新派で編入してきたいかにも性格が悪そうな魔導騎士デネブとの試合が始まる。
魔剣パンドラ……どんな特性を持った剣なのかイマイチ分からない。それに不気味な渦模様が何とも気色悪い。
そしてそれを舐めるように見つめるデネブがより気色悪い。
「お前もこの剣のように愛でて上げるというに」
「……け、結構です」
「それは残念だ。お前もこの剣と同じ位綺麗なのに」
「は?」
「どうした?」
「あ……いえ……なんでもないです」
ついうっかり反応してしまった……。
あの不気味な剣に似て綺麗?前世の記憶があるから綺麗と言われても何か感じる事はない……ないんだけど……。
それでもあの剣に似ているというのは最悪すぎる!!
名誉棄損で訴えられるレベルだ……と言っても相手はこの世界の神と称されている人達だから訴えても無理だろうけど。
訴えるのが無理なら仕方ない、決めた!少しだけ痛い目に合わせよう。
それくらいなら許されるよね。覚悟しなさいこの馬鹿センス男!!
「そろそろ行きます」
「いつでもいいぜ」
デネブは剣を下した状態で構えもしない。完全に舐めている証拠だ。
私は炎帝剣を燃やす、威嚇のつもりだったんだけどそれでもデネブは剣を構えようとしない。それどころか魔剣パンドラを撫でている始末。
これは威嚇と警告、それを無視するようなら容赦しない。
この剣は圧倒的な炎の出力を一瞬で出せるのが特徴……だと最近気づいた。
それをうまく使う方法として一番いいのは……!!
「お前何をしている?」
剣の先を自分の身体よりも少し後ろの地面に向けて一気に噴出する!炎の勢いで押し出されて離れた距離もすぐに詰められる。
身体強化を使えば素早く距離を詰める事は可能だけど、剣士なのにそこまで高くない身体能力を上げるよりもこっちの方が断然速くていい!!
なんせ私には炎への耐性があるからね!!
同じ血を引いているヘラクレスが私の炎を直に受けても一切ダメージを負わなかった事から既にこんな荒っぽい使い方をしても大丈夫なのは分かっている。
「行きます!」
「なっ……!?まさか!?」
地面へ向けて炎を放ち、その勢いのままデネブの所まで距離を詰める。
デネブは焦って剣を構えるが、時すでに遅かった。
地面に向けていた剣を炎の噴出と同時に構え直して常にこちらの方が早く動ける状態にする。
だからこそ、デネブが剣を構える前に私は炎帝剣を相手の首筋まで添えた。
どうやら勝つ気は無かったけど勝ってしまったみたいね。
「ふぅ……」
表面上は勝ったけど喜ばず冷静に終わった……しかし内心は――。
やっちゃったぁ!!!!!ここで負けないといけないのについカッとなって……。
私は剣を下してデネブから距離を取る。
勝ったのならもう戦わなくていいよね?
話すと何か言われそうだからとっととこの場から離れよう。
そんなことを考えていると後ろの方から風の音が聞こえる。
違和感……自然のモノじゃない……ここまでいくつもの修羅場を乗り越えてきた私だからこそわかる。
これは人が私に向かって来ている音!!
後ろに居るのなんて一人しかない、振り返りながら剣を構えて集中力を限界まで引き出す。
自分でも驚くほどにスムーズで軽やかな動きをして向かってくる剣を剣で受け止める。
これまでの経験の成果がまさかこんな所で発揮されるとは思わなかった。
キィィンッ!!
そんな耳が痛くなるような甲高い音が響く。
私は咄嗟にその剣を振るってきた主に問う。
「どういうつもりですか!?」
「どうって……まだ戦いは終わっていないだろ」
「いや……さっきので決まったんじゃ……」
「この戦いを見ている審判はそんなこと言っていないだろ」
「え……あの!!さすがにさっきのは終わりですよね?」
……。
無言、それが審判の答えだった。
こうなる直前に審判は確かに私の勝利を宣言しようと旗を上げようとしていた。
その声が発せられるよりも前にデネブが動いてきたんだ!!
審判は声を上げない事に申し訳なさそうな表情をしている。
そしてデネブはニヤニヤと笑っていた。
これは審判のせいじゃない……神に等しい存在と思っている人が中止するなと目で訴えていれば黙ってしまうのも無理はない。
「さぁ続きだ」
「ちょっ!!」
反応出来たとは言え体勢が良くない。踏ん張ることも難しいし、そのせいで力を入れられない。
おまけにデネブはそれを良い事に剣の力を込めてくる。
「うっ……!!」
「良い顔だ。やっぱそう言う顔を見るのがたまらないなぁ!!」
クソ……今すぐ気持ち悪いから消えろ!!と言ってやりたい!!
だけど抑えないと……相手は魔導騎士だ。ここで変に目立つ真似はしたくない。
というかこれを利用してもういっその事、負けてしまおうか……?
そうすればこの胸糞悪い戦いをしなくて済む、これほど楽しくも無く、くだらない戦いは初めてだ。
ゆっくりと力を緩めて、だけどあからさまに手を抜くんじゃなくて苦戦しているように見せる。
「うぅ……このままじゃ!!」
「あはぁ~このまま飲み込めパンドラ!!」
飲み込む……?
そういえばこの剣の能力は分からない状態だった。
名前からしてロクな能力を持っていない剣だと思っていたけど、デネブはそう呟いた瞬間悪寒がした。
剣から闇が溢れ出て私の身体を包み込んでくる。
これはダメな奴だ!!
相当強い剣士ならあの私の不意打ちにも似たダッシュ攻撃に反応できる。
それができなかった時点でデネブの剣の実力はそれほど高くない事が確定した。
私と同等くらいの剣術を使うデネブ。だけどそんな奴が持つ魔剣はとてつもなく異質だった。
咄嗟に身体を炎で纏う魔法を使って強化する。
そのまま炎の出力を上げてデネブが近づけないようにする。
あまりの熱に耐えられずデネブは私から距離を置く。
「なんだ……お前のそれは……剣の力じゃないのか?」
「え、炎帝剣の力です」
「嘘を付くなッ!!俺様を舐めるなよ?それくらい分かる……お前のそれは……!!」
「そこまでだよ!!」
デネブが最後まで言い終える前に試合の終わりをサジタリオンが告げる。
どうやら審判が終わりの宣言をしないのでしびれを切らして止めてくれたみたい。
デネブはそれを見てサジタリオンを強く睨みつける……が周りの目もあるので今回は引いてくれた。実際剣を首に添えた時点で私の勝ちなのは見ていた人からも明らかだからね。
しかしデネブが最後に言おうとしていた事は何なのか。
学校再開早々、私は最悪なスタートを切ってしまったのかもしれない。
今日から学校大丈夫かなぁ……。