第129話 編入生
久しぶりの学校が再開して朝のグランドに集まることになっていた。
忘れているかもしれないが私達は学生だ。しかもルエリアの由緒正しき名門学校の生徒。
だけど襲撃のせいで今日まで休校になっていた。
朝起きると自分の寝室には1人……そう私しか居ない。それは当然のようでそうではなく、最近は事あるごとに3人の女の子達が身を寄せ合うようにと一緒に寝に来ていた。
ようやく3人とも寝る時は離れてくれてくれてのんびりとした朝を迎える。
しかし、寝室を出るとすぐそこには3人がまるで待ち伏せしていたかのように立っていた。
……あ、ユウリはソファでおやつを食べている。
そんな光景に呆れながらも朝食を済ませて4人で寮から学校へ登校する。
「そういえば学長先生ってどうなるんだろ?」
「今日は朝から集会があってそこで伝えてくれるんじゃないかな?でも聞いた話だと亡くなられた前学長の血縁の方が継ぐとか」
「へぇ~」
ん?亡くなった学長の血縁……?それっておそらくサジタリオンだよね……?
まさかあの人が学校に居るってことか。
あれ……という事はまさか……。
私の脳裏にはある嫌な予感が浮かぶとそれはすぐに確信に変わる。
「あ!ルーク!!」
タイミングよく想像していた人の声が聞こえてくる。
声の方を振り返ってみるとそこにはサツキとマツバが立っていた。
しかもご丁寧に私達と同じ学校の制服を着て……。
サジタリオンがこの学校に居るという事で察しは付いたけど、本当に居るとは思いもしなかった。
「サツキ……この学校に――」
「この学校にどうしているんですか?」そう問いかけようとしたんだけどそれを遮るようにフーリアが割って入ってくる。
「何の用?」
「フーリア……私は別に気にならないからだいじょ――」
「私が気になるの!何悪いの?」
「いえ……」
フーリアはどこかサツキの事を嫌っている節がある。
魔導騎士だから信用できないというのは分かるけど、さすがに悪党ではないだろう。それはこの前の戦いで市民を守るための苦肉の策に出たり、アルタイルを相手に毒をまき散らさせないための戦いをしていた。
だから何の心配も無い、そのことはフーリアに話したんだけど全然信じてくれないんだよね。
「用と言うか編入かな?」
「なんでそんなことしてんのよ!」
「……この前の襲撃で同じような事にならないように魔導騎士も複数人この学校へ編入することになった」
「まさか他にも居る?」
「いる」
「うへぇ~」
この人達だけじゃないのね……。
あのサジタリオンが選んだ人達なら安心か。
フーリアは私達にサツキがこれ以上近づかないために前へ立って止めている。
だけどそれだとまともに会話ができないんだよね。
聞きたいこともあるしここは無理やりサツキに話を聞いてみよう。
私はフーリアの横に立つ。
その瞬間、彼女は嫌な顔をしたけど……とりあえず置いておこう。
「その魔導騎士の他の生徒さんはサジタリオン様が選んだ人達ですか?」
「いや、最初はそうするつもりだったが……革新派の連中が無理やり編入することになった」
「どうしてまた……」
「保守派だったが革新派でも一目を置いていた学長先生が亡くなった事で歯止めが利かなくなった……あの人は革新派の抑止力だったのに……」
「えぇ……じゃあまさか今日の朝の集会って」
「20人の魔導騎士が編入するからその挨拶も入っている」
それもう田舎の学校の入学式でしょ……。
サツキの話では本来は各学年に2人ずつ保守派の魔導騎士が入る予定だったらしい。
だけど革新派の介入もあり、革新派は4~5人各学年に配置される。
「1年は4人、2~3年は5人だな」
「保守派の2倍じゃないですか」
「まあ革新派の方が人数多いし」
そこまで話すといつの間にかサツキは私のすぐそこまで近づいてきていた。
そして私の耳元まで近づいて私にだけ聞こえる声で呟く。
「保守派はみんな転生者だからね」
なるほど……人数差で負けているわけか。
権力的なものも革新派の方が強いらしい。やっぱり先祖が転生者で色々と残してくれていたからというのが大きいか。
「それでも保守派には少なくとも転生者の子供も居るけどね」
もしかしたらサジタリオンがその例か、名前が星の名前なのにルエリアの名門を任されるほどだしね。
それにしても革新派が多めとは最悪だ。
そんな話を聞いていると襟元が引っ張られて後ろに引かれる。
「はい、もういいでしょ」
「怖いよフーリア……まだ話聞いてたのに」
「何の話をしてたの」
「あ、いや……フーリアには関係無いから大丈夫だよ!」
「……」
「睨まないで」
仲間外れにされたと思い込んでいるのかもね。
私にしか分からない話もあるからコソコソと伝えてくれたんだろう。
フーリアに睨まれるのは私だけじゃなくてサツキもだけど、それを覚悟して伝えてくれたんだ。
忘れないようにしておこう。
確か魔導騎士の子孫は星の名前を付けられているんだったね。
その人達には関わらないように心がければいい!!
学校の朝の集会はまだ体育館が直っていないので外のグランドで行われる。
既に11月下旬で寒い外での集会とはなかなか鬼畜ね……サジタリオンは一体何を考えているんだか。
私はこの程度の寒さを感じないけど、フーリア達は違う。風邪ひかないといいけど。
そんなことを考えているとようやくサジタリオンがやってきた。
若いイケメンの青年に一部の女生徒の目が輝いている。
「えー今日からこの学校の学長を任されたサジタリオンです。前学長は私の祖父だったのでそれを受け継ぐようにしていきたいと思っています。だから新しい学長だからと緊張せず――」
「話が長いんだよサジタリオン」
そんなサジタリオン新学長先生の最初の挨拶を遮ったのは……偉そうな態度を取る魔導騎士だった。




