第127話 スイレンの仲間
サツキの話を聞いて不安な気持ちになってしまう、まさかあの狐の女神様って……。
でもそんなに悪い髪様には見えなかったんだけど……いや、神様になんて他に会ったこと無かったし一度見ただけで決めるのもどうかと思うけど。
それでもまだ信じられない。
「見た目とか凄く綺麗な女神だったし!!」
「まあ俺も綺麗な神様だったかな」
「そ、そうだよね!」
「どうした?」
「いえ、なんでも……」
違うとは思うけど、もしそうなら恨まれているのかも?
そうだったら、もはやどうしようもないので目を付けられていない事を願うしかない。
大体どんなことをして女神様に目を付けられているのか分からないわけだしね。
こっちは前世の最後の方とそれより前は薄っすらとした記憶しかないわけだし。
今そんなことを言っても仕方ないか、とりあえずサツキのおかげでたくさんの事が分かった。
そしておそらくサツキ達と敵対しているのが魔王教団の崇めるモノならまたあの2人と戦う事になるだろう。
いつかアーミアとジークを捕らえないと!!
冒険者以外にもやることが増えてしまうけど、それは皆には関係のない事だし、自分で何とかしないとだよね。
そんなことを考えているとサツキが私の肩を叩く。
「なぁ」
「なんですか?」
「いや……お前の仲間がもう我慢できないみたいだぞ」
「ん?」
サツキは皆の方を指差す。
その指差している先の戦闘にはフーリア……その表情はそれこそ悪魔を目の当たりにしたような恐ろしいもの……。
恐る恐る振り返ってみるとそこにはもう我慢の限界なのかフーリアが般若の表情を浮かべてこちらへ向かって来ていた。
当然ショナとユウリがフーリアを止めているんだけど……全然止まる気配が無い。
ドンドンッとちょっとずつ近づいてくるのがさらにその恐怖を煽っている。
私が振り返った事に気づくとフーリアはさらに身体に力を加えて2人の拘束から脱出する。
そして私とサツキの間に入ってくる。
「もういいでしょ!!」
「あ、あぁ……話は終わった」
「あっそ!」
「……あんまり自分の名前を振りかざすのは好きじゃないんだが、俺は魔導騎士だぞ?」
「は?だから何?」
「いや、気を付けないと革新派の魔導騎士だと……首を跳ねられかねー…………何でもないです」
サツキはフーリアが革新派の魔導騎士に目を付けられないようにわざわざ自分の名前を引き合いに出したけど無意味だと気付いた。
もしかしてなんだかんだ言って私の事を大切に想ってくれている……?
「話、終わったんならもういいでしょ!」
「いや、まだ聞きたい事……まあ……はい」
「じゃあとっとと帰りなさい」
「……分かった。また会う時はよろしく……」
「二度と会わない事を願ってるわ」
「……」
そんな辛辣な言葉を告げられながらサツキは去って行った。
サツキ達は早くバレンタインの街へ戻れるから父上達を連れて行くつもりらしい。もう少し休めばいいのに……。
それでも急ぐのはバレンタインの街が崩壊しているからだろう。すぐに復興は無理でも少しでも早く元に戻したいんだろう。
さてサツキとの話は終わったし、皆には他に気になったことを聞く。
「皆はどうやってここまで来たの?」
「馬」
「……それじゃ間に合わないでしょ」
「馬は馬でもヴァンパイアホースよ」
「そんな馬がいるんだ?」
「日が沈んだ瞬間に馬を走らせて、ざっと1時間程度で着いたわ」
「はやっ!?」
サジタリオンの強化魔法で馬を強化するより断然早い……。
日はまだまだ昇りそうにないし、その馬を使えば明日にでもエステリア学校に戻れるか。
ホワイトの街の被害はバレンタインの街程じゃない、治癒の魔導士や医者なんかも居るから心配は無い。どちらかというと私達が学校に遅刻する方が問題かもしれない。
しかしそれにショナは不安そうにしていた。
「どうしたのショナ?」
「いや……あの馬速すぎて怖いんだよね」
「……スイレン1のスピードを誇るショナが?」
「私より速いからよ!」
「なるほど……」
ヴァンパイアホースはサジタリオンの強化魔法よりも速いのならそりゃ怖いか……ってことは強化魔法で速いなった馬よりもショナの方が速い?
馬は3頭しか居ないけどどちらかに乗せてもらえば大丈夫だろう、どの馬に乗せてもらおうか聞こうとしたその時――ショナが今までに見たことのない顔で近づいてくる。
「帰るのはいいんだけど、ルーク」
「何ショナ?」
「なんで一人でこんなことをしたの?」
「え……あ……」
「せめて一言くらい欲しかったかな」
「そ、それはごめん。皆を自分の事に巻き込みたくなくて」
「ルミナだって心配して知らせてくれたんだから」
「ルミナ……?」
ショナは何を言っているんだろう……ルミナはずっと私の服の中に隠れていた。
知らせるなんて不可能だ。
「あ、あれ……?ルミナは?」
「ずっとここに居るけど」
仕方ないのでルミナを外へ出す。
谷間から出てくるから毛が触れてちょっとアレなんだよね。
「あれ、ルミナだ」
「ね?ずっといるでしょ?」
「じゃあアレは……」
「アレって?」
なんだか話がかみ合わないけど、ショナ達が嘘を付くとは思えない。
この子が何かしたと考える方が正しいのかもね。
「心配を掛けたくなかったからこそ言えなかったの」
「自分は人の事に首を突っ込んできたくせに」
「あれはショナが自分から話したんでしょ」
「そうするように急かしたのはそっちよ。だからこそ、私だって背負いたいよ」
「――ッ!!」
それでもこの子達を自分の事で傷つけたくない……だから拒否したいんだけど、涙目になって私の事を見てくるショナを見て心が苦しくなる。
この子のこういう所は本当にズルい。
それでも転生の事はまだ言えないので結局何かを伝える事はしない。それでも少しはその気持ちを受け止めるべきかもしれないね。
逆の立場だと辛いし……。
「分かったよ。そういう時は話だけはするよ」
「ちなみに置手紙とかでもダメよ」
「えぇ……」
「ルークがその口で話してくれないとダメ!嘘ついたら絶対に許さないんだから」
「は……はい」
これを断ると今回の事を許してもらえそうにないのでそう応えておいた。
その時はどうなるか分からないけど、少なくともこんなに思ってくれる人達に寂しい思いはさせたくない。
そんな想いを抱いて私達はエステリアの街へ戻るのだった。